蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

「化粧師」

以前この映画の予告編を、どこかで見ていて、映像の美しさと桔平さんのかっこよさが、気になっていた。
しかしそのため先入観があり『プレイボーイの化粧師が、女を泣かせる話なんだろうな』などと思っていた。大きな間違い。

いや、よかった。
しみじみと泣いた。
化粧師の小三馬(椎名桔平)に、想いをよせている天麩羅屋の娘・純江(菅野美穂)がいじらしい。見ている私まで、彼女と一緒に胸が痛くなる。
『好きなのに。とっても好きなのに、受け入れてくれない。でも他の人に対するよりは、少しだけ私に優しい?』という状況を受け入れつつ、彼女はもがいている。その気持ち、わかるよ・・・。(涙)
ラスト近くのシーンで、自転車にのる小三馬の後ろに座り、「小三馬さんの傍に、ずっといたかったのに・・・」と告白する純江。
小三馬の体に関するエピソードを知らなかった視聴者は、あとで「ある事実」を知って、また涙する。でも小三馬は、サイドミラーで純江の顔を見ていたんだよなあ。と言うことは・・・。

小三馬を巡る女性の一人、呉服屋の下働きをしている娘・時子(池脇千鶴)も、けなげだが芯の強い女性を見事に演じている。
小三馬は、この少女がなぜか気になり、何かと面倒を見てやるのだが、そういった小三馬の姿を見つめる純江の切ない瞳。

小三馬にまとわりつく少年の母親(岸本加代子)の、化粧後の反応がありきたりだったし、少年が話せるようになったという設定も、面白みにかけていたが、他はなかなかよかった。
小三馬のキャラが、私好み。無口でストイックで、仕事に邁進する男。

ホント、予告編を見たときは「××なシーンが満載だったらどうしよう?昼間には見られないかも」などと考えていたのだが、それらしい(爆)シーンは皆無。
強いて言えば、純江の婚礼の化粧をするシーンが、とてもエロティックだった。
抱きしめるように、純江の背中に白粉を塗る小三馬。こみ上げる思慕の念に耐え切れず、そっと小三馬に寄りかかる純江。
小三馬も、自分を慕ってくれていた娘に対して、かわいいという思いがあったのだろう。まるで唇を合わせるように、ゆっくりと純江に顔を近づける。ドキドキ。
目を瞑り、唇に仕上げの紅をさしてもらう純江。
××なシーンより、ずっとドキドキした。

小三馬に化粧をしてもらう女優(紫咲コウ)のエピソードも、胸にしみた。
「化粧は外見を繕うもの。心の化粧は、自分がするもの」
そういった小三馬。

原作の漫画は未読。原作の設定は江戸時代らしい。予告編を見たとき、漠然と『江戸時代の話かな?』と思った。
映画では大正末期に設定していた。
とにかく映像が美しかった。小三馬が首に巻く、母の遺品の紅いマフラーが印象的。色彩のバランスや、鮮やかさが目を引いた。

こういう作品を見ると、「日本映画、恐るべし」と思う。





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