蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

「ショパンに愛されたピアニスト」

書籍名:ショパンに愛されたピアニスト~ダン・タイ・ソン物語
著者名:伊熊よし子
出版社:ヤマハミュージックメディア

感想:今年7月20日に初版発行されたばかりのホヤホヤの本。
1980年第10回ショパンコンクールで、アジア人として初めて優勝したベトナム人のダン・タイ・ソンの半生を書き記している。
ベトナム戦争時、防空壕の中で紙製の鍵盤で練習をしていたとか、疎開先に水牛がピアノを運んできた、とか内容は波乱に富んでいたソン氏の人生が、余す所なく書き留められていて、満足できた。
紙製の鍵盤については、有名な話だったので知っていた。確か武満徹氏のエッセイで読んだことがある。彼もまた紙製の鍵盤を使用していたため、ダン・タイ・ソンに大いに親近感を持ったらしい。武満氏も私が尊敬する音楽家の一人である。
内容は興味深いのだが、いかんせん、構成がまずいのでは?
一章ごとに時間がバラバラなのである。第一章がショパンコンクールで始まる、というのはわかる。よくある方法だから。
第二章はコンクールより前、モスクワ音楽院での出来事。これもわかる。
しかしそれ以後の章の構成がバラバラだという印象を受けた。時間の流れがバラバラなのだ。もちろん時間を逆行していく手法や、構成を考えた上で、時間を並べ替えるという方法もあるだろう。しかし、そんな工夫が感じられなかった。
また、登場人物の紹介(ピアニストなど音楽家が多数登場する)にも工夫が感じられなかった。新しい人物が本文に出てくると、その後にすぐ彼の紹介が続く。そうすると、今まで読んでいた内容が中断され、とても読みにくい。人物の紹介などの注釈は、章の後ろに一括して掲載したほうが、よっぽど読みやすい。せっかくソン氏と一緒に、彼の人生をなぞっていると言うのに、気分が台無しである。

内容は面白いのに、構成がまずくて損をしている本だった。




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