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蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~
「美術館で愛を語る」
書籍名:美術館で愛を語る
著者名:岩渕潤子
出版社:PHP研究所
感想:誤解のないように、恋愛小説のタイトルではない。
大学助教授の岩渕潤子さんが、序章で「人は何のために美術館へ行くのか?」を読者に問いかけつつ、他の章で著者自身が訪れた海外の美術館と街を紹介する。
(序章以外は、著者自身のハイソな海外生活をくどいほど書き込んでいて、庶民な私は少々鼻白んでしまったが)
本屋で立ち読みして、序章の内容に感銘を受け購入した。
『私は何のために美術館へ行くのだろうか?』
自問自答する。
『美しいものを見るのが好きだから?』
『感性を磨くため?』
『本物を見て、自分の眼を肥やす目的?』
そういうことを考えながら先を読むと、驚く記述があった。
「『絵はきれいなもの』『きれいなものをたくさん見ることによって心を豊かにする』、だから、『子どもたちの情操教育のために美術館を活用して、優しい子どもを育てよう』などといった考え方が世の中に広く蔓延しているのだとしたら、それがとんでもないことで、美術館の存在理由というのはまったく別のところにあるのだということ(後略)」
(「美術館で愛を語る」より抜粋)
ええ?美術館の存在理由って、綺麗なものを欲する我々に、“美”を提供してくれる場ではないのだろうか?
世界各国の美術館が存在する理由とは、別のところにあると著者は主張する。
現代美術を子ども達に、どう説明すればよいか戸惑う小・中学生の美術担当教諭に向かい、著者はこのように訴えた。
「頭にイッキに血が上るのを感じながら、『現代美術の作品は必ずしも美しいとはかぎりません』と、私はいった。『その作品を見て、よいとか好きだと思う必要もないのです。なぜならば・・・人が美術館へ行くのは、美しいものが美しく描かれているのを確認するためだけではなく、同じものを描いて、どれほど人は異なった見方をするのかを知ることができるからです。美術館は、さまざまな価値観の展示場所なのです。要は、じつにさまざまな、他者の異なった価値観を目の当たりにして、自分がそれにどれだけ寛容になれるかを試しにいく場所なのです。世界の文化や人の個性は均一でもなければ、均質でもない。異なった価値観、モノの見方をする人たちがこの世に大勢存在することを知って、それが私たちの生きている社会なのだ・・・と漠然と認識すること。他者の価値観を否定しないことを学ぶということこそが重要なのです」
(「美術館で愛を語る」より抜粋)
そうか。
ここで眼からウロコがばっさばさと落ちていった。
実は私も現代美術が苦手だ。
県立美術館で、以前現代美術展を見たとき、便器の中に金魚が泳いでいる作品や、エロティックなコラージュがあったりして、受け入れられなかった。
受け入れなければそれでいいのだ。
『私には現代美術が理解できない』と思い、『美しくないものを美術作品とよぶのは、前衛的なものを好む一部の人間だけだ』と考えていた。
それは皆、美術館で展示してあるものは、すべて美しいもので、それを認めなければ理解ある鑑賞者とはいえないという価値観に、がんじがらめになっていたからなのだ。
こういうものもあると、その作品についてどれだけ寛容なれるか、それでいい。そう考えると、気が楽になった。
彼女の語る海外の美術館は、どれも魅力的である。
日本の美術館がそのリストに入っていないのは残念だが、私の嫌いな兵庫県立美術館のありようを見れば、仕方がないのだろう。
「はじめに」の中で「ここのところ続いている日本経済の低迷は、文化を蔑ろにしてきたことへのバチが当たったものだと私は考えている。経済と文化は国家の両輪、あるいは、コインの表裏なのだ。そのバランスが崩れたとき、国の足元は揺らいでしまう」と主張する著者の言葉を、芦屋市立美術博物館を閉館に追い込もうとしている行政側は、どう見るのだろうか。
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