蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

能楽劇「夜叉ヶ池」

10月28日東京・新橋演舞場で萬斎さんと染五郎さんの「三番叟」に酔った夜の翌日10月29日、大阪・梅田芸術劇場で能楽劇「夜叉ヶ池」を観劇。

つくづくハードだな~と思いつつ、どちらもはずせないほど私好み。
「夜叉ヶ池」原作者の泉鏡花は、私が一番好きな作家だし、それに野村萬斎さんが出演するとなれば、どうしても見たい~!

<番組>

仕舞「芦刈」    梅若六郎

半能「石橋(しゃっきょう)」   親獅子   梅若晋矢
                  子獅子   梅若慎太朗
                  仙 人   茂山宗彦

能楽劇「夜叉ヶ池」       白雪姫   梅若六郎
                    晃    野村萬斎
                  学 円   小林十市
                  百 合   壇 れい ほか


「夜叉ヶ池」は能楽と劇の出会いと銘打って、能楽の演者とバレエダンサー、宝塚歌劇の女優、落語界のメンバーなど、多種多様な人々が出演していた。
もちろん皆芸達者な者ばかりなので、それなりに面白かった。ただ劇中に挿入された歌はいかがなものか。歌詞自体は雲井弄斎(くもいろうさい)の詞章で、古典らしいが(元禄時代の歌謡集に収録されている)メロディが今風だった・・・よね。
萬斎さんや小林さんは現代劇にも出ているので、セリフの言い方に違和感はないけれど。梅若さんのセリフは謡になっている。それはそれで、白雪姫の幻想的な雰囲気をよく現していると思うのだが、そういう中でのあのメロディは、とても違和感があった。もっと古典的なメロディでもよかったのでは?

この「夜叉ヶ池」という小説。鏡花の作品の中でも好きなお話なのだが、私が以前書評を書いた事があるので、ご紹介。

<異界への扉を開く>
中学生のとき、映画を見た。泉鏡花の「夜叉ヶ池」だった。早速、原作本を購入する。
ページをめくっていくうちに、見慣れない漢字の多さと、その内容に驚いた。繊細な作りの万華鏡を、一人でこっそりのぞいているような心持ちだった。光の射す方向と、暗い空間を向いてみるのとでは、見える鮮やかさが違う。しかしどのように眺めても美の洪水である。日本語がこれほどぜい沢で清らかなものだとは思わなかった。
モノクロの行間から立ち上ってくる鮮やかな色彩。清らかな音楽を聴いているようなせりふ。
主人公の百合と晃は、世間という通俗の中で、りんとした生き様を貫くために死を選ぶ。
それらは世俗に合わせて生きる理不尽さを感じつつあった、多感な年ごろの私にとって、オアシスのような存在になった。
今でも疲れると、「夜叉ヶ池」のページを開く。まるで異界への扉をそっと押すように。



この映画とは、1979年篠田正浩監督の松竹作品 「夜叉ヶ池」 。この映画で私は泉鏡花という作家に出会い、以後私の人生を決定づけた。
今の私の好みは、すべてこの映画により方向付けられたんだよね。(笑)


さて能楽劇「夜叉ヶ池」の話に戻ろう。
萬斎さんの晃は、とても元気で軽い感じがした。私の印象に残っている晃は、加藤剛さんなので、よけいにそう思ったのだろうか。萬斎さんの晃のほうが若々しいと言うか・・・。(笑)ま、それぞれに持ち味というものがありますからね。
ただお話が佳境に入り、百合が村のために雨乞いの犠牲になろうとするときの萬斎・晃はとても凛々しく勇ましい。
私が大好きな晃のセリフが満載なんだよね。

「支度がいるか。裸足で来い。茨の道はおぶって通る」
「生命に掛けても女房は売らん。(中略)神にも仏にも恋は売らん。」

いいよね~。
私、こういう泉鏡花に出てくる男の人を染五郎さんに演じて欲しい。今回の萬斎さんも爽やかでよかったけど、染タンも見てみたいな。
「高野聖」のお坊さん役、ヤン・ジヌくんってのはどう?(笑)



(2005年10月29日 大阪・梅田芸術劇場メインホール)






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