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嫁様は魔女
硝子窓(友人)
ころころドングリと緑から茶色に変わりつつある風景。
ウチはようやく公園デビューを果たした。
「奏ーぉ、おせんたく終わったし公園行こっか?」
つかまり立ちまではだいぶ早かったのに、
いざ歩くとなるとなかなかそのつかまった手が離せない・・・もしかしてヘタレ?
根性ナシやったら貴信似やわね。
普通歩くのは1歳くらいって本に書いてるけど、奏人は体も大きいし今まで何でも早くできてるからなんとなく焦る。
奏と同じ12月生まれでも、歩いてる子はもう歩いてるし。
公園、と聞いた奏人はニコニコ笑いながら早く行こうと態度でせかしてきた。
喋るのも遅いかも。
男の子はなかなかやで、と公園のママ友に言われてるからそっちは気にしてないけどね。
お天気の良い日には時間を決めて公園に行くようにしたら
小さい子供のお母さんたちとなんとなく喋れるようになってきた。
まだお互い「奏くんママ」とか「ヒナタちゃんママ」って呼び合う
公園遊び中限定って感じのつきあいやけど。
それでも子供の話で情報交換できるのは嬉しい。
特に病院の評判とかは、引っ越してきたウチにとってはありがたい情報や。
子供の砂遊びに付き合うついでに、顔なじみの人の子のおもちゃを見て
名前とか大体の住所を頭に入れる。
ご近所なのはあの人とあの人。
気の合いそうなヒナタちゃんママの家はあの大きなマンションかぁ。
まったく知らんままウカツな事を言うて
人間関係が悪くなるんが女社会の怖いとこやから、
些細な事でも頭に入れておくほうがいい・・・って言うのは店に居った時から充分身にしみてる。
ふふ。
店より嫁姑関係でのほうが、いっぱい学習したかも。
砂場で遊ばせながらはやってる昼ドラの話をして、
お昼ご飯の時間に合わせてなんとなく解散する・・・それがバイトのない日の日課になってきた。
バイト行ってる、ってのは誰にも言うてない。
みんな自由がないって愚痴ってるなかで、そんなん言うたら浮きそう。
わざわざ「えー・・・。」って思われること話す必要ないしな。
めっちゃペラペラの薄いつきあい。
それでもちょっとした手ごたえみたいなんを感じられる。
お互い気を配ったり、その場だけでも励ましあったりできると
やっぱりトモダチっていいなぁって思うわ。
お昼前になってみんなそれぞれ持参したおもちゃを片付け始めた。
「○○ちゃんも帰るって、だからほらアンタも帰るよ。」と言う声が聞こえる。
ウチも砂遊びの道具を持って、グズる奏人に帰りを促した。
もっと遊びたい反面、疲れて眠くなっている奏は「帰る」のヒトコトで
さらに不機嫌になりしゃがみこんで泣いてしまう。
これも毎回のパターンになっていた。
半分ウトウトする奏を抱いてうちに帰ると、留守番のランプが点灯してた。
「・・・あ、亮子かぁ。」
百貨店に勤めてたときの同期からの電話やった。
結婚やら転職で同期はほとんど辞めて、今も店におるんは彼女と
お局候補って言われた木島さんくらいのもんやろう。
留守電には近いうちに遊びに行きたいってメッセが残ってた。
メッセ残してる時間から考えたら、今日もしかしたら休みなんかも。
懐かしい気持ちと退屈な時間ならたっぷり持ち合わせてるウチは
さっそく亮子のケータイに電話してみた。
「もしもし、清水です。亮ちゃん?電話くれたよねぇ。」
「あータカシロぉ!!」
亮子はウチの旧姓を呼び、一気に独身の空気に引き込んでくれる。
「元気?赤ちゃんどう?」
「ありがとう、元気やで。久しぶりやん。休み?」
「うん。でさぁ・・・ちょっと喋りたい事あって暇かなぁって。」
「暇ヒマ。何やったら今からでも来る?めっちゃ散らかってるけど。」
「ほんま?じゃあ昼食べて行くわ。何時やったら掃除終わる?」
「あははは、掃除なんか何時になっても終われへんから
いつでも気にせんと来て、ついでに手伝って。」
「おっけー。じゃあ2時半メドでいいかな?
ご飯終わったら一回電話するから、予定変わったら言うてきて。」
「うん。駅からわかる?」
「引っ越し祝いの時に行ったきりやからなぁ。
・・・でも多分見たら思い出すと思う。」
「あかんかったら迎えに行くから。」
「ありがと、ほんなら後で。」
ポンポンといい調子で午後の予定は決まった。
「親友」とか言うほどの仲の友達ではないけど
独身のときはお互いコンパも誘い合ったりして、それなりにつきあいしてた。
唯一ホンネトークできた陽菜ちゃんが渡米してから
貴信はアレやし、近所のママ友ともうわっつらの話しかしてない状態のウチに
この急な来客は渡りに舟、って感じ。
久しぶりに喋るぞー。
幸い奏人は眠ってしまってる。
野菜うどんを手早く用意しておいて、うきうきモードで掃除にかかった。
亮子がくる前に起こしてご飯食べさせたらゴキゲンでおってくれるやろ。
*
駅に着いたと亮子から電話があったのは2時過ぎやった。
「迎えに行こか?」と聞いてみると大丈夫と言うので
充分眠った上に満腹で、すっかり機嫌のよくなった奏を
ウチの外で遊ばせながら待つことにした。
駅からウチにしてはちょっと遅いなぁと思いかけた頃、予想してた逆サイドから
ハスキーな亮子の声が飛んできた。
「ごめんごめん、道一本間違えたわ。」
「ええよええよ。この辺似た感じの家多いから、入って。」
「ありがと。あ、奏人くん?かっわーい!!
どっちに似てるかなぁ・・・うーん、あんまりシミズ君には似てへん?」
「そやろー?せやからカワイイねん。」
ウチらは大笑いしながら家に入った。
そんなにウケる話でもないのに、お互い久しぶりに遊び友達に会って軽くハイになってる。
ウチと貴信と最初に会ったコンパをセットしたんが彼女やから、
いちいち説明せんでいいのがうれしいところや。
亮子が持ってきてくれた和菓子に合わせて、お茶を用意した。
「コレもお土産。」
と、亮子はコスメブランドの小さなペーパーバッグを取り出した。
「わぁ!秋の限定パレットやん。うれしい。ありがとう!」
黒い鏡面加工のパレットを開くと
ピンクのリップが三色と、はちみつみたいな質感のグロスがセットされてた。
「持ってない?」
「うん、雑誌とかでは見てたけど。」
「よかった、ダブったらどうしよかなって思っててん。」
「えー。限定コスメなんて最近ずっと買ってへんわ。」
あ。われながら何かオンナとして寂しい発言。
主婦くさくてちょっとイヤかも。
「え?シミズ君買うて帰ってきたりせぇへんの?」
「あぁ・・・・基礎モンやったら頼んだもん買うてきてくれるけど。
こう言うのはないなぁ。」
「好みもあるから難しいかぁ。」
「でもたまにはコフレとかプレゼントしてくれたって罰当たれへんと思えへん?」
「やっぱり結婚したらプレゼントとかってない?」
「ないない!完全に釣った魚にエサはやらんて言うかエサの存在すら頭にないんちゃう?」
「ええー!あのシミズ君でも?」
そう亮子に言われるのはわかる。
結婚前の貴信はマメで優しくて、紳士で、気が利いて、話し上手でソツのない・・・
結婚したい男の上位ランクにいつでも名前が入る男やったから。
付き合ってるときも記念日のプレゼントやイベントを忘れた事がなくって
ずいぶんうらやましがられた覚えがあるし。
「シミズ君でソレやったら・・・えー・・・もっとアカンかもぉ。」
「え?何?結婚すんの?」
「実はそやねん、そんで報告に来てんよ。」
「そうなんや、おめでとう。最近お祝いラッシュやわ。」
「なんでーよ、もうおめでとうって年ちゃうで。やっとって感じやわ。」
「そんな事ないよ、だってウチのお姉ちゃんもつい最近結婚したとこやで?」
「あぁ、そんでラッシュか。」
「え、そんでそんで?お相手は?」
リップパレットに興味を持ってうんうん手を伸ばしてくる奏をあしらいながら、話はどんどん盛り上がってきた。
「志田さんてわかる?」
「志田さん?」
「紳士服やってたときのお客さんやねんけど・・・。」
「・・って。えええ!?まさか!」
まだウチが百貨店で勤めてた頃、
紳士服売り場にいた亮子を目当てに毎月25日過ぎに買い物に来てたオジサンがおった。
でも目当てにしてるって言うんはウチらが面白がって言うてただけで
当のオジサン、つまり志田さんが亮子になにかアプローチをしてたって言うわけじゃない。
ただ亮子が欠勤やとその日は買い物せず、翌日に出直してきたりするから
ヒヤカシみたいにそう言うてただけやのに。
「え!なんで!?ウソやんー。いつから付き合ってたん?」
「いつって・・・・今年になってすぐ・・・くらいかなぁ。」
そこから根掘り葉掘り。
ウチは芸能人に食らいつくワイドショーのレポーター顔負けの取材を開始した。
実際内容は、愚痴や相談に名を借りたオノロケなんやけど
これをたっぷり聞いてあげるのが友達としての礼儀でしょ。
それを差し引いても、クラブのチィママにもスカウトされたこともある派手な亮ちゃんと
絶対40は超えてる、あの当時で既におでこが頭に侵出していた
・・・はっきり言うてイケてへん志田さんとの結婚話は
退屈なウチの好奇心を充分刺激してくれた。
でもそんな亮子と志田さんのなれそめは当たり前の、・・・正直言ってありふれた話で
ウチは軽く期待(野次馬根性って言うんか?)を打ち砕かれた。
「そんだけ?」
「うん、きっかけってそんなもんよ?」
毎月買い物に来る志田さんから、亮子への好意は誰の目から見ても明らかになってきていた。
当の亮子もそんな好意に気がつかないようなレンアイ音痴ではない。
「ほんで、自分から言うたん?」
「見ててイライラするやんか。」
誘おうとする態度は見えているのに、何も言ってこない状況に業を煮やした亮子が
半ば逆ナンのように志田さんを食事に誘い、付き合いが始まったと言う。
「そう言う弱腰なところが気にいらんって言うか、不満やねん。」
「でもめっちゃ優しそうー。」
「あんなー。友達の彼氏の褒めようがないときの常套句やろ。それ。」
「そんなんちゃうってー。」
って、実はその通りやったりして。
思わず苦笑いをしてしまう。
「でもそうやん?」
「うーん。まぁ亮子やったらヨリドリミドリやから意外な感じはするけど。」
「ハゲてるしな・・・・。」
「それは置いといたりぃな。」
「チビやしな。」
「でもあの年齢やったらがっつり稼いではるんちゃうん?」
「一応は広告代理店やけど中堅の会社やし、給料は一部出来高やし。
そんなに稼いる方じゃないと思う。」
聞いてるうちにウチはちょっと疑問やなって思うようになった。
そりゃ結婚は見た目や収入だけでは決まらんけど。
「なぁなぁ、正直言うて・・・・ええの?」
「あの人でってこと?
そら悩んだよー。他にエエかなって思う人もちらほらおったし。」
「ふーん、ほんなら決め手は?」
「決め手なんかないよ。妥協やな。」
「妥協?」
亮子はハァと大きなため息をついてから、思い直すように笑って、
「タカシロは上手いこと自分の売り時見極めたと思うわ。
ウチは・・・自慢じゃないけどそこそこモテたから
いつでも上等な男を捕まえられるって自分で思っててん。
でもなぁ、どんな女でも女である限り「旬」があるんやと思ったわ。
この年になったらリッパな型落ちの新古車やで。」
「そんな事ないやろ?」
「あるある。
20代前半とかさぁ、大して可愛くない子でもそれなりにレンアイできるやん?
旬って言うんかフェロモンって言うんか、なんかそう言うもんがあると思うねん、女として繁殖しやなアカン時って。
ピーク過ぎたらどんだけ飾ったって限界あるんよ。
おまけに目ぼしい上物のオトコはきっちり売約済みやったりするしさぁ。」
「そうかなぁ。
イマドキやったら仕事してたらこの年になりましたってジョウモノもいてそうやのに。」
「仕事しててエエ年になってもーた男なんか大概志田みたいな感じやねん。
万一イケメンでその年で完全フリーやったら絶対どっか問題あるって。」
「偏見ちゃうん?」
「現実現実。
旬過ぎた自分の身の丈の中で選べるベストの男が志田やってんって。
もちろん愛情はあるけどな。」
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