ユウ君パパのJAZZ三昧日記

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syoukopapa

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2006.11.08
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カテゴリ: 私の小説集
初秋のセントラルパークの朝。ちらほらと見られる樹木の色の変化 の鮮やかさとコントラストをなす、芝生の緑。そう、僕は仕事としてアルトサックスを選んでから2年後、NYにいた。ここで腕を磨くためだ。 しかし、僕がNYで思い知らされたのはセントラルパークのような光輝く未来のイメージではなかった。想像を遥かに越える、NYのセッションに出ている奴らのアーティスティクなプレイ。こんなプレーはとても出来ないと、僕はすぐに負け犬根性になった。美樹に手紙を書いた。

「 こっちでJAZZで飯を食っている奴らの演奏に、僕の音楽への取り組みの甘ったるさを思い知らされた。彼らの演奏は必ずしも整然としたスマートさはないんだけれど、サウンドとそのビートにハートがあるんだ。彼らのサウンドには自分がとても素直になれる。JAZZセッションで 自然に涙が出るなんてことは、初めてのことだ。でも、かなり複雑な心境。僕はあんな音を出せるようになるとは思えないし、今まであったJAZZで食っていける自信もすっかりなくなった。・・・」

こんな情けない僕の手紙に対する美樹の返事は、いつもの口調と同じくらいきっぱりとしたものだった。

「 手紙を読ませてもらいました。健二の本物を知って、それに感動すると同時に、自分の実力との差を感じて今いる所から逃げ出したくなる気持ちはわかる気がします。でも、私は健二に慰めや同情の言葉をかける気はありません。今逃げ出したら、あなたは一生コンプレックスを持ち続けるだろうし、今逃げ出したことをきっと後悔するはずです。冷たいようだけど、その絶望感を逆にバネにして、自分で答えを見つけて下さい。そう、これは健二自身がそこに踏みとどまり、顔をそむけないことが大事だと思います」

美樹の返事は僕のある程度予想していたものだった。現実から何とか逃げる理由を何とか探そうという僕の弱い心は彼女にはすっかり見透かされていた。この頃は全く余裕がなく、自分のことばかりしか考えられなかった。実は、僕がこの手紙を書いた丁度そのころ美樹もある映画に出演しないかと誘われ、彼女も随分悩んでいた。彼女にとってはかなりいいチャンスなのだが、彼女にとっては(つまり、若い女の子にとっては)つらいシーンがその映画にはあり、なかなか思い切れないのであった。僕の手紙に対す返事にも、ぼくへのカツとともに、彼女の悩みが書いてあったはずだが、僕はそれを憶えていない。何ということだ・・・。

それでも、美樹のきっぱりとした手紙でNYで自分を鍛える心構えができた。やっぱり、僕には美樹しかしないと思ったし、手紙の一件でこの思いはさらに強まった。さらに、アントニオという音楽のパー トーナを得る。彼も僕と同じようにアルトサックスを吹く。彼のアルトにはスタンダードな安定感とともに、ACIDでCOOLな独特の響きがある。彼とともにダブルアルトでSOHOのJACK THE RIPPER CLUBでセッションがやれるようになった頃にはもう、あの負け 犬根性は嘘のようになくなっていた。自分の音に対する自信が芽生えてきた。他人と同じようにやる必要など全くないし、自分が美しいと思う音を出せばいいんだということが分かってきた。こんな当たり前のことに気付くのに随分、回り道した。再び美樹に手紙を書いた。

「 本当にあの時NYに留まって良かったと思っている。美樹のあの手紙がなかったらと思うと僕はちょっとゾッとする。どうもありがとう。この言葉を美樹に今なら素直に言える。もうそろそろ日本に帰る潮時だと思う。帰ったら、どうだろう、一緒に暮らさないか?」

この手紙に対する美樹の返事は、以下のようなものだった。

「 結婚という形式にはしたくないけど、一緒に暮らすことには賛成です」






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最終更新日  2017.11.17 09:46:48


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