『片羽根の堕天使』(右翼



一人の死神が居たのです
白き翼に憧れる死神が居たのです

一人の天使が居たのです
死神に恋焦がれる天使が居たのです


『片羽根の堕天使』


俺の名は斗望。職業は天使だ。
神様の命令で愚かな人間たちを死神から守るため毎日日替わりで人間界を巡回している。
否、俺は別に人間たちがどうなったって知ったこっちゃ無いんだが。

ある日、人間界を巡回中の俺はいつものように公園のベンチでサボっていた。
当然人間には俺の姿が見える筈も無く安心しきっていた。
その時だ。

「貴方天使でしょう?」

綺麗なストレートの長い黒髪。背中には大きな翼。
しかし、俺達天使とは異なる真っ黒い翼。

コイツ、死神だ。

「死神が天使の俺様に何の用だ?」

ったく、めんどくせぇ事になってきた。俺はめんどくさい事が大嫌いなんだ。

「あたし、貴方達天使に憧れてるの。貴方達のような真っ白な翼が欲しいの」

…何言ってるんだコイツ。頭狂ってるのか?兎に角関わらない方が良い。
あの後俺はアイツに関わりたくなくて、逃げるように天界へと飛び立った。死神は天界へは来れない…もぅ平気だ。息を切らしながら宮殿へと報告に行く。

「神様、今日も何も変わった事は無く、平和な一日でした」

恰も巡回したかの様な言葉。もぅ大体神様も俺がサボってる事は気付いているだろう。俺は落ちこぼれな天使だ。
神様は難しい顔をして言った。

「斗望よ、ちょいとそこに座れ」

いつになく緊張した空気。

「私が気付いていないと思っていたのか?」

あぁ…とうとう来ちまった。

「お前、巡回をせずに公園で休んでいるんだとな」

めんどくせぇ。。。でも自業自得か…。

「はい。すみません。次からはしっかりと任務をこなしていこうと思います」

俺がそう言うと神様は難しい顔をして言い放った。

「次、もしも同じような事があったら…その時は覚悟するように。もぅ行ってよろしい」
俺は、仕方なく自分の部屋に戻り、その日は眠りについた。

この日を境に俺の天使生活が静かに崩れていった。

朝が来た。俺は身支度をして人間界へと飛び立つ。

「今日はちゃんとパトロールするかっ」

下手に天界を追放されても困る。渋々真面目に仕事をしていると向こうの方から何かが飛んでくる。

「斗望さぁ~ん!!」

嗚呼、疲れる奴に逢ってしまった。

「斗望さんも今日巡回日だったんですねっ!」

コイツは見習い天使の『紗那』何かと俺にくっついて来る変な奴。正直結構ウザイ。

「あぁ、お前か。何の用だ?」

俺が適当に返事を返す。

「そんな冷たい事言わないでくださいよぉ~」

この甲高い声。疲れる。

「俺、忙しいから」

そう言って逃げる。『もう昼だ。少し休もう。』そう思い、いつもの公園のベンチにどっかと腰掛け、目を瞑る。風が心地良く頬を流れる。
そんな時だった。

「斗望さん。また逢ったわね」

ハッとして後ろを振り向くと、アイツが居た。昨日の死神だ。

「お前、何で俺の名を知っている?!」

名など教えた覚えは無い。

「さっき可愛い子と話してるの見てたから」

あぁ、紗那か…。死神は少し下を俯き続けた。

「あの子の翼…綺麗だったな。。。欲しいな」

コイツまだ言ってやがる。疑問で仕方ない。

「お前死神だろ?何で天使なんかになりたがってるんだよ」

俺がそう聴くと死神は声を荒げて言ったんだ。

「死神は天使に憧れちゃいけないの?」

そう言ったアイツの目は少し涙ぐんでいた。

「別に悪いとは言わねぇけど、不思議なんだよなぁ…」

泣き出しちまったよ…、俺女の涙弱いんだよな…。

「あたしだって好きで死神に生まれたんじゃないのよ…」

どうゆうことだろう…、俺は気になって続きを聞いた。

「あたしの家系は先祖代々死神の長だった。あたしもソレを継がされる運命なの…でもあたしはそんなの嫌だ!綺麗な真っ白な翼が欲しいの!それには…天使の貴方の力が必要なの!神様に頼んでみて欲しいの!」

そう言った彼女の眼は力強かった。コイツ…本気だ。。。頼られてるし、見捨てるわけには。。。

「おう。解った。頑張ってみるよ」

俺はそう言った。彼女は笑った。
もう後にはひけない。



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