『階段』(御題にそって短編小説


一番大嫌いなこの学校から 飛んでやる。

そう想い、柵から手を離そうとしたその時。

「どうしたの」

後ろから少女の声。
振り向くと柵の反対側から小学1,2年生かと思われる少女が僕を見てた。

首を傾げて大きな瞳で僕を見つめる。
その小さい体が大きな瞳を一層引き立たせていた。

笑いもしない、微笑みもしない、無表情で僕を見つめてた。

まるで硝子のような瞳。
瞳が硝子の少女だった。

「どうもしないから、あっちへ行ってね」

そう諭しても動こうとしない。
硝子のような瞳で只管僕を見つめる。
その硝子の瞳に僕はほんの少し恐怖感を感じた。

「お兄ちゃん飛ぶの?」

硝子の少女は今度は首を反対側に傾けて僕に訊ねた。
僕は喋ろうとしたが、なんだか声が出なかった。

硝子の瞳には大きく広がった空と柵と僕が映っていた。

「ねぇ 飛ぶの?」

硝子の少女はそう云った後両手をひらひらと舞わせた。
そのまま手をひらひらさせながらくるくる廻る。

くるくる廻りながら今度は笑い出した。
まるで鈴の転がるような笑い。


ひらひら舞い、くるくる廻り、ケラケラと笑う硝子の少女は

まるで天使のようだった。
笑顔が天使の少女だった。

そしてまた僕のいる柵の前に立って無表情になった。

「れみも、飛ぶよ」

れみと云った硝子の天使の少女は
今度はそう云って嗤った。

天使のような、悪魔の少女。
硝子の瞳の、悪魔の少女。


ひらりと柵を羽根のように飛び越し、僕の隣りへきた。

「ねぇ 飛ぶんでしょ?」

硝子の少女は僕をまっすぐ見つめる。

そうだ。僕は飛ぶんだ。

想い切って僕は地面を蹴る。
隣りで硝子の少女も地面を蹴ったのを感じた。

次の瞬間、僕は堕ちていた。
硝子の少女は飛んでいた。

その次の瞬間、僕は地面に大きな深紅の華を咲かせていた。

「なんだ、堕ちてんじゃん」

硝子の少女はふわふわと飛びながら華をみつめていた。


僕は、硝子の少女は何故あそこに居たんだろうと、そう想った。



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