食べ頃わんこの楽しい日々

食べ頃わんこの楽しい日々

落ち葉を踏み締めて


秋風が段々と冷たくなってきた。

空は高く、風は澄んでいる。

そんな秋晴れの日の午後、

遠野家の中庭から調子っぱずれの鼻歌が聞こえてくる。

「ふっふふ~ん♪」

中庭から聞こえてくる音の発信源はどうやらここのメイドである琥珀の口からのようだ。

彼女は気持ちよさそうに箒で落ち葉を掃きながら歌っている。

「夜のしじまに~ 交わす口づけは~♪」

どうやらかなり自分の世界に浸っているようである。

「夜チュウ~♪」

一通り歌い終えると琥珀は持っていた箒をマイクスタンドに見立てて回転させようとする。

そして、足で箒を蹴っ飛ばした瞬間に気付く。

その箒の軌道上に一匹のネコがいることを・・・・・・。

琥珀は箒に制動をかけるが思いっきり蹴った箒はそう簡単に動くことをやめない。

結果、一匹のネコは箒に掃かれる形で地面をスライディングした。





月姫勝負
落ち葉を踏み締めて







「ありゃりゃ~」

そう言うと琥珀は先ほどホッケーのボールのように飛んでいったネコを抱きかかえる。

そこには明らかに自分が付けた傷ではない傷があった。

「噛まれた後?」

普通、野生動物ならあれぐらいの箒など難なくかわしてしまう。。

詰まる所、このネコは

「随分弱ってますね」

琥珀はそう言うと抱きかかえたネコと一緒に部屋に戻っていった。

部屋につくと救急箱から消毒液を取り出す。

「沁みるかもしれませんけど」

そう前置きをしてネコの患部に塗る。

途端にネコが激しい抵抗を行う。

「きゃっ!」

短い悲鳴が生まれ、同時にネコは琥珀の腕をすり抜ける。

そして、さらにタイミング悪く、

「琥珀さん、今の悲鳴どうしたの?」

などと言いながら呑気な顔をした志貴がドアを開けた。

ネコはその開いたスペースめがけて突っ込んでいく。

「志貴さんっ、捕まえて!!」

「えっ、うわっ!?」

意味もわからずただ夢中で動く物体に飛びつく。

ネコはそれを見ていきなり方向転換、直角に曲がる。






そんなネコの捕獲作戦を狭い部屋で行うこと20分。

ようやく疲れ果てたネコを同じくらい疲れ果てた琥珀が捕まえた。

「はぁっ、はぁ、ようやく捕まえました。」

「琥珀さん、はぁっ、それ、どしたの?」

二人とも息も切れ切れに会話する。

「えぇ、先程怪我をなさっていたのを見つけまして、手当てをしようとしていたんです。」

自分が箒で掃ったことは敢えて伏せといた。

「あぁ~、なるほど。で、これからどうするの?」

「へっ?」

「いや、だから、そのネコ家で飼うの?」

言った瞬間琥珀の顔が固まる。

「えっと・・・・・・・、どうしましょう?」

「さぁ?」

・・・・・、

・・・・・・・・・・・、

「そんな志貴さん、助けてくださいよ~。二人で一緒に息を乱しあった仲じゃないですか!」

「変な脚色しないで下さい。大体このネコ拾ってきたの琥珀さんでしょ!」

そう言うと琥珀さんは途端に悲しそうな顔をする。

「うっ、そんな悲しそうな顔したって今回は助けられませんよ。大体、秋葉がネコを飼っていいなんて言う筈無いし」

そう言ってる志貴の胸に顔を寄せ、上目遣いに、

「志貴さん、助けてくれないんですか?」

「いや、だから、あの・・・・」

そして、照れている志貴に更に追い討ちをかける。

「ダメなんですか?」

この一言でついに陥落。琥珀の思惑通り志貴はこのネコの世話の手伝いをすることとなった。

「それで、具体的には何をすればいいんですか?いっときますけど秋葉の説得だけは無理ですよ。」

なかばヤケになった志貴の横で琥珀はネコを撫でながら、

「あぁ、秋葉様には内緒にしますから大丈夫ですよ~。当面の間、志貴さんはエサの調達と遊び相手くらいです」

「あぁ、それなら・・・・・、って秋葉に言わないの!!」

「えぇ、どうせ言っても捨てろと言われるだけでしょうから」

そんなことを琥珀はすまして言う。

「えっと、けどすぐにバレるんじゃ・・・・?」

「大丈夫です、ここに入るまでに三つばかりトラップを仕掛けときますから~♪」

なんて言いながら琥珀はネコの頭をゆっくり撫でる。






そんな訳で遠野志貴はここ三日間ほどネコのエサ買いとネコの遊び相手になっていた。

「はぁ~」

ネコ缶を買いに行った帰り、

坂を登りながら思わずため息をつく。

「なんでこんなことを・・・・・」

そんな事を愚痴っていると目にネコの写真が入ってきた。

「あれ?」

それは迷い猫の張り紙で、

よく見るとそれは琥珀が手当てしたネコだった。

「そっか、飼い猫だったのか」

志貴は、このパシりの現状から抜け出せる喜びと琥珀さんの悲しむ顔を考えて微妙な表情になった。

しかし、なんにしてもと張り紙に書かれた住所と電話番号をメモって急いで帰った。







「さっ、お兄ちゃんとお姉ちゃんにありがとうって。」

「うん、お兄ちゃんお姉ちゃんありがとうございます」

「本当に、怪我の手当てまでして頂いて」

「いえいえ~、気になさらないで下さい」

そう言って琥珀は女の子の頭を撫でながら

「今度はちゃんと面倒見ましょうね~」

と、言って笑みを深めた。

「うんっ!」

「はい、よく出来ました」

志貴は昨日のことを思い出す。

あの日、張り紙のことを教えたところ琥珀さんは

すぐに連絡をして差し上げなければ

と言ってすぐに元の飼い主に返す決意をしていた。

そんな事を考えているとネコの本当の飼い主である親子は去っていく。

それを眺めながら志貴は横にいる琥珀の顔を伺う。

そこには、先程と変わらない笑顔があった。

しかし、志貴は

無理してるな。

そう直感した。

そして、おもむろに琥珀さんの手を握る。

「えっ、どうしたんですか、志貴さん?」

琥珀はこちらを向いて首をかしげる。

その顔もまた、笑顔から変わってない。

「ん、まぁ、なんてーか琥珀さんが淋しそうだったから。」

言った瞬間、琥珀さんの顔が曇る。そして、俯きながら

「ばれちゃってましたか」

「まぁね」

「志貴さん、ちょっと中庭まで付き合ってください」

そう言うと琥珀は志貴の手を握ったままずんずんと屋敷に入っていった。

志貴は黙ってそれについていく。









「ここです」

琥珀は中庭の一箇所を指しながら言う。

「ここで、間違ってあの子を箒で掃いてしまって・・・・・」

「怪我をしていたんで手当てをする為に屋敷に連れて」

「そこで、俺にバレたんだよね」

「えぇ、あの時は大変でした~」

たった三日間の思い出をポツリ、ポツリと語っていく。

「手当てしてからは随分懐いてたね」

「元が飼い猫ですからヒトを怖がらなかったんですね」

「そして、顎を撫でてもらうのが好きだったんですよね」

「あ~ぁ、これからの季節、ホッカイロ代わりになると思ってたんですけどね~」

そう言いながら琥珀は無理して作った笑顔を志貴に向ける。

それを見て志貴は琥珀の冷たくなった手を自分の手と一緒にポケットに入れる。

「わわっ、どうしたんですか、いきなり?」

「うん、あのネコの代わりにホッカイロになってあげようかと思って」

そして、一呼吸あけて

「それにさ、せめて俺だけは琥珀さんのこと支えてあげないといけないから」

そう言うと琥珀は急に顔を赤らめる。

「志貴さん、今とっても恥ずかしい事言ってますよ」

「う~ん、まぁ、たまにはいいんじゃない」

「さらに言うならベタベタです。」

「うっ、そう言われると辛いんだけど・・・・・・」

「けど私はそういったベタベタ嫌いじゃありませんから」

「あはは、それじゃもう少しこうしていよっか」

照れ隠しで笑いながら告げると琥珀は一瞬俯き

そして、

「そうですねっ!!」

そう言いながらホンモノの笑顔を志貴に見せる。





そして、二人はゆっくり歩き出す。


過去からイマに向かって、


イマからその先に向かって、


二人ゆっくり歩いていく。


ゆっくり、ゆっくり、歩幅をあわせながら


二人は進んでいく。








――――――――――――落ち葉を踏み締めながら












後書け



そんな訳で 後書け です。
食べわんに書けと言われたから 後書け です!!
かなりの忙しさの中、他人のサイトの為にここまでやってあげる私はそろそろ褒めて貰える頃だと思います。
佐山風に言うなら「はっはっは、もっと私を評価してくれて構わないのだよ!」
って感じでしょうかね。
まぁ、これくらい当然だと言われてしまえばそれまでなんですが・・・・。
そんじゃ、恒例のチャットなぞ~、
食べわん「今回チャットはいらないから~!」




・・・・・・・えっ?








うわぁ、やること無くなった!!




どうしましょう?
なんか、ほかにやる事って?
業務連絡くらいしか無いような・・・・。
強いて言うなら先程ベルギーさんとの会話で
「もし三つ願いが叶うなら」
と言う質問に対し、ベルギーさんは
「雪華月兎抹殺(社会的にも人間的にも)」「クロニクルの最新巻」「来週のジャンプ」
だそうです。

そんでもって雪華月兎は、
「ベルギーの願いが全部叶わないようになれ!」「終わりのクロニクル最後まで全部」「ベルギーをより黒く!!」
この三つを願います。

はてさて、どっちがヒトとしてダメなんだろうと思いつつ今回はこの辺で。






感想と言う名のエサを与える

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