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タヒロー

タヒロー

2008.12.28
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カテゴリ: 今日のデキゴト
きれいに磨かれた


星のない夜空を背負い
赤く光る、
東京タワーが見えていた。

闇の光.jpg

東京の真ん中にある
異業種交流会の
その会場を、
泣きそうになりながら


寝不足の体を
引きずりながら、
重いドアを開けた時には、

微かな予感さえしていなかった。


……私の浅はかさのせいで、
尊敬していた人に、
「がっかりした」と言われた。

そこに至る物語は数あれど、
小さくまとめるならば、

ただそれだけのこと。

でもそれは、

充分過ぎる出来事だった。

私は何も持っていない、
そう改めて気付くのに
相応しい出来事だった。

誰かから見れば、


たとえば夫を。
たとえば単調な仕事を。
たとえば時間を。

でも私は、
一番欲しいものを
持っていない。

それだけで、
自分は何も持っていないと、
哀しみに襲われた。

少なくとも
その時は、
世界中の人々を差し置いて、

誰より自分が
不幸だと思った贅沢者だった。


帰りの電車で、
アレヂの声が、
耳に入らなかった。
体と洋服を
電車の蛍光灯の下に残し、
たぶん心だけ、
闇の中にいたのだ。

電車内.jpg


自転車に二人乗りして
アレヂの背中を借りて、
溢れてくる
涙と鼻水を拭いた。

家に着いたら
私はアレヂに、
涙の理由を
聞いてもらいたいと思っていた。
そして
慰めてもらいたいと思っていた。

本心でなくてもいい。
かりそめでもいい。

アレヂに
優しい言葉か態度をもらえたら、
きっと心が楽になる。

家に着いて、
靴を脱いでも、
アレヂは何も聞かなかった。
なぜ聞かないか問うと、
面倒臭そうに聞いてきた。

私は話した。
まとまりのつかない
自分の気持ちを。

アレヂは
泣きながら話す私を無視した。

もどかしさを感じながら、
私は話し続けた。

「アレヂは語学の才能もあるし、
好きなアニメの仕事してるし、
あそこで皆に褒められてた。
でも私は何も持ってない。
あの会場で、私はただの皿洗いで、
ただのフランス人の夫を持ってる女。
なのに私はその夫に、
愛してるってひと言も言ってもらえない!」

まとまらない言葉の影には、
甘えが隠れていた。

優しさに包まれたい想いに、
気付いてもらえると思っていた。

けれど
アレヂはわめく私にひと言、
「…ムカつく」
と言い放った。


求めていなかった
脈絡のない返事が
降ってきた衝撃で、
私は絶望の淵から、
見事に足を滑らせた。

たとえ広辞苑の
すべての単語を知っていても、
自分の本当の気持ちが
夫に伝わらない、
果てない孤独を想った。

孤独.jpg


――疲れがたまっていた。
お酒も随分飲んでいた。
何もかもどうでも良くなった。

終電もない深夜、
行くあてもないのに、
ただどこかへ行きたかった。

電話で話を聞いてくれる
友達がつかまらなかったら、

アルコールと
煙草の臭いにまみれたまま、
漫画喫茶か安宿に
一人で泊まって
夜を明かしたら、

死ぬとまではいかないけれど、
アレヂにも社会にも
戻るのが難しい、
暗い段階へ
突入してしまうだろうことを
ぼんやり思いながら、

私は小さな鞄だけ持って、
アパートから出て行った。

アレヂが呆れたように、
自室のドアを閉めるのを
後ろに聞きながら。


気付けば坂の上に立っていた。
星も見えなかった。
寒かった。
どうすればいいかわからなかった。

夜空.jpg

ふいに後ろから、
腕をつかまれた。


怒った顔のアレヂが立っていた。

足音がしなかったのは、
靴下だったからだ。

アレヂはグイグイと
私を引っ張り
家に連れて行った。

「明日も仕事ナノニ!
オマエは何も協力シナイ!」

アレヂの文句を聞きながら、
ガスヒーターの前で、
私はまた泣いていた。

泣きわめいて
泣きじゃくって
泣き疲れて、
気付いたら、
朝になっていた。

三日前の
チョコレートケーキを食べて、
ベタついた髪の毛のまま、
会社に向かった。


欲しい言葉をくれない人だ。
甘えを許してくれない人だ。
愛の国のイメージがある、
フランスから来た
フランス人のくせに、
愛しているとは、
口が裂けても言わない人だ。
愛しているかきくと、
軽蔑した目で私を見る人だ。

恥ずかしいだけかもしれない。
本当に
愛していないのかもしれない。


…でも信じたい。


たとえば、
賑やかなところが
嫌いなのに、
家族ぐるみの
忘年会に
一日付き合ってくれた
アレヂの中に。

たとえば、
暗い世界へ行こうとしていた
私の腕を、
グイグイと引っ張った
手の平の中に。

朝日.jpg


今はただ、
いいか悪いかわからない、
日々を積み重ねるしかないけれど、

いつかその年月が、
私の自信になりますように。

来年は、
弱音を吐かない
強い女になりますように。

自信を持てる
自分になるよう、
弱音を吐く前に
頑張る女になりますように。

失ったものが戻らなくても
泣かないで、
次に進める女になりますように。

アレヂに愛してると
言ってもらえる日がきますように。

今日より明日。
今年より来年。

どうか。どうか――

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後ろから追いかけてきたアレヂに、
腕をつかまれたドラマチックな話をしたら、
友達に、大爆笑されました。





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Last updated  2009.01.02 02:16:47
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