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2023.10.05
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カテゴリ: 読書





プロジェクト・ヘイル・メアリー 上

あらすじとしては、だいたいこうだ。
どういうわけだが、 地球に届く太陽の出力が落ち始めた 。最初は数パーセントの誤差程度のものだったが、指数関数的に太陽の出力は小さくなっていき、地球は氷河期に入り始めたのだ。
調査の結果、 アストロファージ(宇宙を食べる者)という、未知の地球外の微生物が太陽の力を吸収していることがわかった 。アストロファージによる恒星の出力低下は宇宙規模で感染が広がっているが、地球人の観測できるところでたった1か所、 12光年先のタウ・セチだけがアストロファージに感染していない。
そこで、地球人はなぜタウ・セチだけがアストロファージに感染しないのか、調査のために主人公たちを宇宙船、ヘイル・メアリー号に乗せて旅立たせるのだ。

「ヘイル・メアリー」というのはアメフトで試合終了間際、一発逆転のラストチャンスで大きなパスをすることを言うそうな。
まさに、宇宙船・ヘイル・メアリー号は絶滅まであと数十年というところで、人類が12光年先の星めがけて放出した最後の希望というべきだろう。


見どころは数えきれないほどある
まず、恒星に感染し、食いつくしてしまう「アストロファージ」という未知の地球外生命体である。
まさにウィルスみたいな大きさなのに、太陽の光を吸収し、爆発的に数を増やす。そして、アストロファージは膨大な力を溜め込むので、燃料として使えば光速に近い速度で飛ぶ宇宙船を作れたりする。
本作はSFとして科学的な考証をしっかりしているようであるが、このアストロファージという地球外生命体の設定は見事と言いたい。

そして、ミステリ要素である。
冒頭、昏睡から覚めた主人公は記憶を失っており、気が付いたら病室っぽいところにいるわけだ。
なぜ、主人公は昏睡し、記憶を失っていたのか、これがなぜなのか、序盤はまったく開示されない。
主人公は、「やたら体が重く、物が落ちる速度が速い気がする」という事実からメジャーを何度も落としてストップウォッチで時間を計測し、明らかに重力が地球の1.5倍ほどあることに気が付くのだ。
さらに、手元の糸で振り子を作り、この辺の計算過程は僕にはよく分からんが、自分のいる場所が巨大な遠心器の中であることなどを突き止め、最終的に自分がいる場所が巨大な宇宙船の中であるという結論にたどり着く。
このあと、なぜタウ・セチだけがアストロファージに感染しないのか、についても複数の仮説を立てそれを検証し始めたりする。


そして、 最高の見どころが主人公と惑星エリドに住むエイリアン、ロッキーとの交流である。
このロッキーは足がなくて腕が5本、硬い甲羅に覆われている蜘蛛みたいな生物なのだが、彼もまた、故郷の太陽が死に瀕していたので、タウ・セチの秘密を探るためやってきたのだ。
主人公も、ロッキーも、過酷な宇宙の旅でタウ・セチに到着した時点で自分以外のクルーが全滅していたということもあり、徐々に絆を深めていく。
科学の得意な主人公と、技術者として優秀なロッキーのコンビは見ていて最高のコンビだと思う。
協力してタウ・セチの調査をするのだが、危機また危機の連続である。


最終的に、主人公は徐々に記憶を戻していくのだが、 もともと主人公は自分の意思でヘイル・メアリー号に載ったのではないことが明かされる。
とにかく主人公はリスクを嫌い、恋愛でも学会でもリスクを避け続けたために、結婚もできず、学会でも大成できず、中学校で科学教師なんぞをしていたわけだ。
結局、主人公は科学者として十分な能力がありながら、事故でクルーに欠員ができたということでヘイル・メアリー号に無理やり乗せられ、抵抗できなくするため昏睡状態で宇宙に旅立ったのだ。
そんな何より自分の命を大切にする主人公がである、最後の最後、主人公は地球には小型ロケットでタウ・セチの秘密を知らせ、自分は二度と地球に帰らない覚悟を決めてロッキーを助けに行くシーンは胸が熱くなった。
こうしてしまうと、主人公はもう地球に帰る燃料を使い果たしてしまうことになるし、ロッキーの星で地球人は生きられない。地球人にとってロッキーの星は灼熱地獄というべきものだし、食べ物もない。
あれほど自分の命にこだわった主人公が、なんということだと目頭が熱くなった。

ラストシーンは、いっきに16年後である。
主人公はロッキーを助けに行ったことで、地球に帰る燃料をなくしてしまったものの、ロッキーの住む惑星エリドに主人公用の大気と温度を備えた特別区画を作ってもらい、永住することになる。
そんなある日、すでに年老いた主人公のもとにロッキーが現れ、太陽がもとの明るさを取り戻したことを知らされるのだ。
なお、エリドと太陽の距離は15光年くらいあるので、エリドで太陽がもとどおりになったのを観測するのに16年かかったわけだ。

果たして地球はどうなったのか、それは作中で明らかにはされない。
氷河期が近づいていたことで、地球環境は大幅に変わってしまったことだろう。
だが、きっと大丈夫だったのだろう、と希望を持たせて終了である。

総評として、とてもよかった。
僕はこの前、『三体』という中国SFを読んだのだが、これが異星人との対立を描いていた。そして『三体』の作中では「暗黒森林理論」というのが提唱されており、それは「もし異星人を発見した場合、即座に滅ぼしてしまうのがベストである。もし、敵対的な異星人であれば自分の星が侵略されるか、滅ぼされる可能性があるのだから。」という殺伐とした世界観が提示されていた。

一方で、この『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の世界観はずいぶんと優しい。
主人公とロッキーは、互いの容姿も、食べ物も、呼吸する大気の成分も違う。主人公はロッキーの星では生きられないし、逆にロッキーも地球では生きられない。
それでも、主人公とロッキーの間にはかたい友情が芽生えていたし、科学知識に優れた主人公と、技術の専門家であるロッキーは最高の相棒だったといえる。

なお、うがった見方をすれば、「ロッキーたち異星人は地球では生きられない」というのは、「ロッキーたち異星人には地球を侵略する価値がない」ということであり、その逆もまた真である。
うまく利害の調整がされているといえるかもしれない。

また、僕の中で宇宙をすくうヒーローと言えば、ドラゴンボールの悟空のように、暴力で解決するキャラが普通だった。
暴力ではなくて科学で宇宙を救うというの、現実的にはともかく、フィクションで娯楽性を持たせて成立しているのはすごいことだと思うよ。


プロジェクト・ヘイル・メアリー 下 [ アンディ・ウィアー ]





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最終更新日  2023.10.05 09:27:46
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