あたしはあたしの道をいく

2008.01.22
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カテゴリ: 本@浅田次郎




ココへはこの文字でしか書けないのですが、本当のタイトルは旧字です。

でーんと表紙に髪を結い上げた女が映る、レトロな印象の表紙。

ちょっと陰のある写真なので、怖い本かと思った >ホラー苦手



舞台は昭和40年ごろ。

あたしはリアルタイムには知らないしあまり興味が無い時代なので、

なーんにも知らないんだけど、安保闘争でスゴイことになってた時代らしい。

東大生がゲバ棒持って大騒ぎして、入試が取りやめになったりとか?

なんか、無気力でテキトーな大学生活を送っちゃった身としては、





とはいっても、主な舞台が昭和40年頃、というのであって、

正確には3つの時代がかぶっている。

安保闘争の煽りを食って東大を受験できなかった主人公が京大へ入学し、

東大入試が再開に伴い再受験を誓うまでの1年かそこらの短い大学生活中にあったことを、

20年後になって懐かしく思い出している、という感じ。

さらに、その大学生活中の出来事には戦時中の出来事が絡んでいるので、

20年程度の間をおいて3つの時代が描かれていることになる。



浅田次郎の作品には、複数の時代を絡み合わせるものが多い。

『シェエラザード』、『壬生義士伝』、『日輪の遺産』、『メトロに乗って』、『天切り松闇語り』。

私が読み上げたもので、今すぐ思いつくものでもこれだけある。

今回の『活動写真の女』も、複数の時代を扱うということでは同じようだが、



思い出したように時折、言葉がさしはさまれるだけになっていて、

全てが終わったことだ、と確認させるためだけに存在する時点のようでもある。



主人公は、東京出身のためになかなか京都に慣れることが出来ぬ、映画好きの京大新入生。

私は大学時代、日本古典にのめりこんだこともあって京都に何度も脚を運んだが、

好ましく思うことはあっても、嫌な気持ちになったことがない。



この主人公の、京都の何もかもが気に入らない、という視点は面白いと思った。



この主人公、京都になじむことが出来ずに居たところを、

映画館でやはり映画好きの京大一年生に出会い、少しずつ世界を広げていく。

最初は閉鎖的で心を開こうとしなかった主人公が、

清家(映画館で出会った友人)に心を開き、

清家の紹介で映画のアルバイトを始める。

頑なに閉ざされていた主人公の世界は少しずつ広がっていく。

下宿のおばさんは粋な女性に描かれるようになり、

アルバイト先の老人の昔語りには、柔らかな京言葉が合う。



物語の題材は、日本の映画だ。

アルバイト先に現れた、チョイ役の女優、伏見夕霞。

実は彼女は、第二次世界大戦中に亡くなった女優なのだが、

彼女を軸に、第二次世界大戦中の日本映画界と、

昭和40年頃の日本映画界が繋がっていく。



私は全く映画に興味が無いので分からないことも多いのだけれど、

映画好きの人にはたまらない一冊かも知れない。

作中に、有名な映画監督の名前もいくつか出てくる。

生憎私の分かる名前は、小津・黒澤くらいのもので、

しかもその監督の作品を見たことがあるわけではないので、

どんな偉業を成した人かも知らない。

ただ有名人なので名前を知っている、程度のことで人柄なぞ知るわけも無い。

辛うじて名前が分かる、小津・黒澤にしてこの程度なのだから、

他の映画監督が実在の人物なのか、虚構の人物なのかも分からなければ、

その映画監督に繋がる登場人物が実在なのか虚構なのかも分からない。

それでも、日本映画の盛衰を見ることはとてもドキドキしたし、

日本のハリウッドと言われた太秦の往時を知るのは楽しかった。

映画好きではない人にも、十分楽しめる本だと思う。



ただ。

なーんか、物足りない。

「平成の泣かせ屋」の異名を取る浅田次郎にしては、泣きが無いってのもあるし、

最初がやたら理屈っぽくて入り込みにくかったのもあるかもしれない。

映画に興味が無い人間なのに、古い映画を見てみたくなったりとか、

久々に京都に行きたくなったりとか、そういう刺激はとっても受けたんだけど。

初期の作品ってワケでもないみたいだし、何なんだろね……。





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Last updated  2008.01.22 14:30:37
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