あたしはあたしの道をいく

2008.08.12
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カテゴリ: 本@浅田次郎
10年前のことだったと思う。

東京の友人に連れられて、クラブへ行った。



「渋谷ハチ公前待ち合わせを一度やってみたい」と言う私に、

彼女は明らかに呆れていたけれど、バカな要望にしっかり答えてくれた。

だから、渋谷で待ち合わせたことだけはしっかり覚えているけれど、

はたしてそれがどこにあったものか、さっぱり覚えていない。



夜遊びするには「宵の口」の時間、音楽だけは十分勇ましく鳴っていたけれど、

フロアにはまだ人が少なく、ドリンクを片手に話す男女の姿が何組も見えた。



彼に話しかけられたのは、フロアの隅に陣取って幾らも経たぬ内だったと思う。



私が陣取っていたのはちょうどスピーカーの近くで、低音が殴りつけるように響いていた。



彼は、音の暴力に抗うように、私の耳元へ怒鳴った。

「どこから来たの?」

私は、彼の耳元へ怒鳴り返した。

「ひろしま!」

それは、会話の始まりに思えたが、彼は、「そ! 楽しんでね!」と足早に去っていった。



それは、あまりにもあっけない終わり。

あまりのあっけなさに、強烈な「?」マークが私の脳裏に刻まれた。



1時間もせぬうちに、フロアは随分な人で埋め尽くされた。

その中でも「彼」は際立っていて、四方から女の視線が集まっているのが分かった。

私も目の端で見ていた女の一人だが、「彼」は二度と私に声を掛けなかった。











そんな10年前の、謎。



いや、別にあの時の男とどうにかなりたかったわけではカケラもなく、

むしろ、そんな風にアプローチされてたら大迷惑以外の何物でも無いんだけど、

あまりといえばあまりのそっけなさが、ものすごーく疑問だったのよね。

そっちから声かけてきたんなら、もうちょっと社交辞令の一つでも言って、



短文の会話が一往復半って、ありえんだろ? って。



それが、やっと解けました。



浅田次郎 「霞町物語」


霞町物語

浅田次郎って作家は、若い頃、さんざんバカをやってた人で、

その青臭い青春時代を自伝的に書いたのが、この短編たち。



浅田次郎、女の子引っ掛けるときに、まず家がどこか聞いたんだって。

で、都内のまあイイワ、と思えるところだったら引っ掛ける。

「はあ?」なトコだと、そのまま「アッソ」で終わり。

「アッソ」なトコの女の子を引っ掛けると、仲間からバカ扱いされる、と。



なーるーほーどーーーーー!!!!

コレだったわけね~~~~!!!!



10年来の謎が、やっと解けました。

私の「ひろしま!」が、箸にも棒にも掛からないくらい、どうしようもなかったので、

「アッソ!」されちゃったわけだったのねー!!



はー。

めっさ、スッキリしました。





**************************





写真師の師弟を祖父と父に持つ、主人公「伊能」。

粋な祖母と、まだらボケの祖父と、娘婿の父。

写真師、という仕事は風前の灯に近く、祖父の死と共に廃業が見える。

伊能の友人・知人たちも、新興勢力に負けるかのように、霞町から消えていく。

その中を、主人公たち不良少年は享楽に溺れるかのように、泳ぐ。

酒と、女と、音楽と、車と。



自伝では無いと思う。

けど、あまりにも浅田次郎のエッセイと重なる部分が多く、

浅田次郎が過ごした青春時代はこうであったろうか、と思う。










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Last updated  2008.08.12 11:35:36
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