日本丸ヌーメア入港記
海洋資源調査を水産庁から委託された1000トン型米式旋網漁船日本丸に、
航海士で5ヶ月間乗船。1976年9月下旬から翌年1月末、かけがえのない体験。
入社翌年、巻網の面白さが分かり出し、仕事に夢中。
同期入社の水産高出の年下の２人と、三者三様の夢や会社の行く末について、
港々で気炎を上げていた頃。
突然、社長の特命を受けた。
これが、彼らとのお別れになるとは、知らなかった。
二十歳の２人に、早くも人生の荒波が訪れた。
トラブルや悩みで、船を降りたと後で聞かされ、とめどない涙がでた。
久里浜を出港し、一路南へまっしぐら。
海外旋網漁業の漁場調査と潜在資源量踏査の旅。
2日目、台風対策のラッシング作業で徹夜。
翌日から、極洋出身の眼光鋭く身体のシャープな漁労長は、
夜明けから日没まで、目もくらむ高きマストの人。
食事の時にしか降りてこない。プロの船頭のど根性・執念を学んだ。
10月4日、鯨付の魚群を発見した凄まじい船頭のマイク音が、船橋に響いた。
海流の速いグアム南西群青の漁場。
１頭の鯨の吹き上げる潮の周りに無数の海鳥が群舞。
命の饗宴に身震いで、立ちすくんだ。
一声で総員配置。無念の大破網。
いきなりビンタを食らった長い１日。
お陰で、2日間ぶっ通しで網修理。
各人との会話が取れ、気心が通う。
石巻出身の司厨士（コック長）は毎回最高の料理。
年も近く何かと気が合い、互いの非番の時に酒を持ち込み、
ワッチの直前まで山ほどの話。
10月25日、いよいよオーストラリアのサンゴ海漁場に入り、長期操業。
2日間、真上を何度も空軍機が旋回、舷側に急降下急上昇。
領海確認に、緊張感と航海士の任務の重さを知る。
11月30日、食糧と清水補給の為ヌーメア入港。
火炎樹の暑き街は、11時から14時までシェスタの眠りの中。
生き物の気配と一斉の音が絶え、世界が止まる。
南回帰線近くニューカレドニア島の異邦人。
日暮れに繰りだし入った店は暗闇のバー。
朴訥なメラネシア人が集う異質の世界。漆黒の肌で両眼が闇に白く光る。
片言の会話で「ハポン万歳！」
何のことかと思ったら、日露戦争の話しで乾杯々友達々。
昼下りの殺風景な浜辺を一変で忘却。
これが天国に一番近い島だと、妙に納得・親善の一夕。
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