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●「ケチと新緑」

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ケチと新緑


 ヨーロッパでは今でも、ケチの代名詞といえば英国・スコットランド人とオランダ人(ダッチ)であると大方の相場が決まっている。

 前者は「スコットランド人が自殺するときは隣の家のガス管をくわえる」という笑い話があるほど、お金を使うことが嫌いである。後者は、自分以外にお金を使うことが嫌いなケチで、英語で割り勘は「ダッチ・アカウント」(オランダ払い)という。

 オランダ在住の長い倉部誠さんによると、オランダ人の誕生日は、本人が率先して祝わなければだれも祝福してくれない。自分でケーキを振る舞い、そのお返しで「おめでとう」と言われる。

 結婚式も平日の夜。土曜、日曜の大切な休みは自分のためのもので、他人のお祝いに使うのはもったいないというわけだ。披露宴も、スナック菓子が出る程度である(物語オランダ人、文芸春秋)。

 私のふるさと・名古屋人もケチだの質素だのと言われるが、世界チャンピオン級にはとうてい及ばない。両国ともキリスト教カルヴァン派という厳格な宗教的伝統によるケチらしいから、わが名古屋も精神的な支柱がほしい。

 きょうから五月。美しい青葉に連休が重なり、日本はいま「タイム・リッチ」のさなかである。お金のリッチさはなくとも、時間の豊かさを満喫できる季節だ。

 豊かな時間を演出する主役は、木々の緑、咲き乱れる花々である。ケチの王国・スコットランドの別名はカレドニア。森の国、という意味だ。オランダはいうまでもなくチューリップの王国である。お金より、緑と花の豊かさを貴ぶ気風を「ケチ」と称しているのかもしれない。

 野山の新緑もよし、庭や公園の花もよし。この豊かな時間は、万人に、タダで公平に与えられる。西洋の哲学を借りずとも、中国・清の詩人は「青い春」をこう歌った。

 『百金もて駿馬を買い、千金もて美人を買い、万金もて高爵を買わんも、いずれのところにか青春を買わん』

 権力者でも、青春を買うことはできない。青い春は、若き日の香りが年に一度だけ戻ってくる季節でもある。

              (中日新聞編集局長・小出宣昭 中日新聞2004.5.1より)

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