Atomic Heart

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中つ国第1紀

中つ国の歴史
~第1紀~

【第1紀以前】
いわゆる「神話」の時代です。この時代、未だ中つ国は存在していません。

 ここに登場するのは“唯一の存在”ことエル、またの名をイルーヴァタールとも呼ばれる存在です。いわゆる「神」と考えると分りやすいでしょう。エルは自らをサポートする存在として、多くの精霊を作り出しました。エルを「神」とするならば、この精霊達は「半神」です。その中でも最も優れていた13体の精霊はヴァラ(複数形はヴァラール)と呼ばれ、それ以外の精霊達はマイア(複数形はマイアール)と呼ばれました。

 次にエルは音楽の主題を示し、精霊達に奏でさせました。ここでひとつハプニングが起こります。最も優れたヴァラであるメルコールが、音楽に独自の解釈を盛り込み始めたのです。これによってエルの音楽に不協和音が生じましたが、エルは新たな主題を示しメルコールの不協和音を打ち消しました。これを“創生の音楽”といい、音楽が終わると虚空に球形の世界(“アルダ”と呼ばれています)が誕生しました。

 エルは続いて、この世界の中心に大きな島を作りました。これが中つ国です。中つ国には多くの動植物と共に、エルフが住まわされました。エルフはこの世界に登場した者達の中で、最初の“言葉を話す種族”であったため、話す者という意味のクェンディという名でも呼ばれました。また、エルフが中つ国に誕生した時、空に星が輝いていたため、エルダール(星の民の意)とも呼ばれました。エルはエルフに、美しい外見と美を生み出す力、病気や寿命で倒れることの無い不死の生命を与えました。こうしてエルフは、この世の美や多くの悲しい記憶を積み重ねながら、決して(自然には)死ぬこともなく、ひたすら高く生き続けることとなったのです。




【第1紀】
エルフの登場と共に、中つ国の第1紀が始まります。

 この美しい中つ国を見て、我欲に囚われた者がいました。ヴァラのメルコールです。彼は中つ国を独占しようと、戦を仕掛けてきたのです。メルコールは他の精霊達や中つ国の動物を堕落させ、己が尖兵としました。(この時、メルコールの副官となったマイアにサウロンがいます。このサウロンこそ『指輪物語』最大の敵役である冥王その人なのですが、この時代にはメルコールの下僕でした。また強暴な竜、そして恐るべき怪物であるバルログもこの時代に生まれました。)戦いは甚大な被害をもたらし、美しかった中つ国は地形すら変化してしまいます。そこでヴァラールは中つ国に住む事をあきらめ、遥か西方の新たな島に移り住みました。この島をアマン、別名“至福の島”といい、ここには精霊達が住むことになりました。この住まいはヴァリノールといい、そこには輝く2本の木テルぺリオンとラウレリンがあり、この光がアマンを照らしていました(この時代は未だ太陽も月もありませんでした)。戦いの末にメルコールは敗北し、虜囚の身となり、アマンに幽囚されました。またエルフ達もメルコ―ルの悪意によって危険な土地となった中つ国を離れ、アマンに住むよう招請されました。多くのエルフがこれに応じましたが、一部のエルフは中つ国に留まることを選びました。

 中つ国に残ったエルフの中に、シンゴル王という人物がいます。彼は中つ国でマイアのメリアンと恋に落ち、この地で共に暮らす事を選んだのです。後にこの2人を通して、マイアの血が中つ国に広がっていく事になります。(『指輪物語』の登場人物の中では、エルロンドの一家とアラゴルンの一党が彼女の血筋です。)

 アマンに渡ったエルフ達はヴァラールの指導を受け、様々な美を生み出していきました。中でもフェアノールというエルフの王子は、最も熟練した技の持ち主でした。彼が持てる知識と技の全てを尽くして作り上げたのが、3つの宝玉・シルマリルです。シルマリルはもはや、ただの宝玉を越えた至宝でした。エルフにせよヴァラールにせよ、シルマリルを見て賛嘆の念に囚われない者は無かったのです。そして賛嘆を通り越し、渇望と垂涎の思いに身を焦がす者もいたのです。それは、幽閉を解かれたメルコ―ルでした。

 欲望に取りつかれたメルコ―ルは大蜘蛛ウンゴリアントと共に、2本の木テルぺリオンとラウレリンを枯死させ、暗闇に乗じてシルマリルを強奪すると中つ国へと逃走したのです。フェアノールは激怒し、メルコ―ルを“暗黒の敵”という意味のモルゴスと名付けました。これ以降、メルコ―ルの名は捨てられ、モルゴスこそがこの堕ちたヴァラを表す名となりました。またフェアノールは、“シルマリルを奪う者、シルマリルを所有する者は全て復讐と憎悪をもって追跡する”という恐るべき誓言を立て、一族を率いて中つ国へと向いました。この時、道行きを急ぐ彼らは、船の提供を拒んだ海岸のエルフの一族と戦闘を起こし、滅ぼしてしまいます。この時、彼らを待つ運命が悲嘆と悔恨に満ちたものとなることが決まったとも言われています。

 中つ国に帰還したモルゴスは、かつての居城アングバンド(“鉄の城”の意味です)を再建し、己が鉄の王冠にシルマリルをはめ込み、“世界の王”を名乗っていました。一方、中つ国に残っていたエルフ王シンゴルとメリアンは、ドリアスという国を興しました。この国はメリアンの魔法帯によって外敵から守られており、外部の者は一切入って来れないようになっていました。なお、2人の間にはルシアンという娘が生まれています。さらに中つ国にはエルフ以外の“言葉を話す種族”であるドワーフも現われ、シンゴル王との間に交流を持つようになりました。

 一方アマンでは、枯れたテルぺリオンとラウレリンが、銀の花と金の果実を生じ、ヴァラールはこれを祝福して太陽と月を生み出しました。太陽が最初に昇った時が、“人間”が始めて中つ国に現れた時でもありました。人間は有限の命しか持たず、恐怖や激動に耐える力もエルフより劣っていました。その代わり、エルの創世の音楽を越えて、独自に運命を切り開く力が与えられていました。

 さて、中つ国に辿りついたフェアノールの一行は、早速モルゴスの軍勢と戦端を開きました。エルフ達の力は強大で、モルゴスの軍勢を相手に大勝を収めました。しかし敵を深追いしたフェアノールはバルログの包囲を受け、命を落としてしまいます。フェアノールの誓言は息子達に引き継がれることになりました。その後数百年に渡って、エルフはアングバンドを囲んでいくつもの国を興し、モルゴスの動きを封じました。しかし、シルマリルの奪還は成されないままでした。

 エルフとモルゴスの戦いは膠着期を迎えました。この数百年の間、エルフ達は己が国をしっかりと固め、その中で武器や様々な美を生み出す事に専念していました。アングバンドの包囲が解かれることはもちろんありませんでしたが、現状に満足し、あえて戦端を開くことに消極的な態度を示す者も多かったのです。一方この時代は人間がエルフと始めて接触した時代でもあります。自分達の領分に見知らぬ“人間”が入り込む事に良い顔をしなかったエルフも多かったのですが、両者はおおむね平和的な共存の道を歩み始めました。この時、エルフの友となった人間の部族はエダインと呼ばれるようになりました。多少の曲折はあったにせよ、この時代は均衡を保った数百年と言えます。

 この450年近い均衡を破ったのはモルゴスの側でした。彼の憎しみの念は単にエルフに向けられるだけでなく、エルフが作り上げた美しい国、その国土そのものにも向けられており、彼はこれらを破壊し蹂躙し尽くす欲望を押さえられなくなったのです。モルゴスの憎悪は、炎の河となってエルフの草原を焼き尽くしました。それに続くのは大竜にバルログ、そして雲霞のごときオークの群れでした。この戦いでエルフ王の一人フィンゴルフィンはモルゴスその人と剣を交え、帰らぬ人となりました。彼の死は、エルフの間に衝撃と悲嘆をもたらしました。それ以外にも、多くのエルフや人間が命を落としたのです。この混乱の中から次なる物語が生まれます。その舞台はドリアス。王妃メリアンの魔法帯に守られたこの国に、エダインの英雄ベレンが逃れてきた事が、その物語の発端でした。

 ベレンが、いかなる方法でメリアンの魔法帯を潜り抜けたのかは知られていません。彼には大いなる運命に守られていたのだとも言われています。疲弊し、恐怖に苛まれたベレンは、よろめくようにドリアスに入ったと伝えられています。彼はこの夏のドリアスの森で、シンゴル王とメリアンの娘、ルシアンと出会ったのです。ルシアンを一目見るや、ベレンの心から苦しみの記憶は拭い去られました。彼は魂を奪われたような呆然自失のまま、彼女をティヌヴィエルと呼びました。ティヌヴィエルとは小夜啼鳥の意味ですが、彼はかの乙女の名を知らず、また他に相応しい名を思いつかなかったのです。彼のその声は森中にこだまし、ルシアンはベレンを見ました。そして彼女の運命は定まり、彼女は彼を愛するようになりました。

 ルシアンの決断はシンゴル王の心を乱し、激怒を招きました。王はいかなるエルフの貴人であれ、娘の夫としては相応しくないと考えていたのです。まして死すべき人間となど。王はベレンを己が前に引き出し、シルマリルの1つをモルゴスの王冠から奪ってくることが、婚約の条件であると告げました。これは死を与えられるも同然の条件でしたが、ベレンは笑って承諾し、ドリアスを離れました。

 もちろん、ベレンの試練は苦難に満ちたものとなりました。シルマリルへの誓言“シルマリルを奪う者、シルマリルを所有する者は全て復讐と憎悪をもって追跡する”に縛られたフェアノールの息子達の悪意、途中の砦を守るサウロンの牢獄、モルゴスが手ずから餌を与え育てた巨狼カルハロス、そして要塞アングバンドとモルゴスその人。ベレンは幾度と無く窮地に追い込まれましたが、これを救ったのは、ドリアスに幽閉の身となっていたもののそこを脱出したルシアン、そしてルシアンに共感した至福の島で生まれた猟犬ファンでした。幾多の試練を潜り抜け、彼等はついにモルゴスとまみえました。モルゴスはルシアンの限りなく美しい歌声に、まどろみの中に落ち込み、ベレンは短剣をかざし、王冠からシルマリルを切り取りました。

 ベレンに求められていた条件はシルマリルの1つを奪うことだけでした。しかし眼前の誘惑に屈したベレンは2つめのシルマリルに手を伸ばしてしまいます。しかしそれはシルマリルの運命ではなく、ベレンの短剣は折れ、切っ先がモルゴスの顔に刺さり、彼の目を開かせました。続く逃避行の中で、ベレンはシルマリルを掴んだ手を巨狼カルハロスに食いちぎられてしまいます。シルマリルはかの狼の体内で炎を上げ、巨狼は苦痛のあまり狂乱しました。そのおかげでカルハロスの顎を逃れたベレンは、ルシアンと共にドリアスに帰還しました。シルマリルを持ちかえりこそしなかったものの、ベレンの勲にシンゴル王も心を動かされ、2人の婚約を認めました。

 その時、狂乱治まらぬカルハロスがドリアスに侵入したとの報がもたらされます。ベレン、ファン、そしてシンゴル王は用意を整え、カルハロスと対峙しました。シンゴル王に飛びかかった巨狼をベレンが防ぎ、倒れたベレンに変わってファンがこの猛虐の狼と死闘を繰り広げました。至福の島の猟犬とモルゴスの狼の戦いは凄惨を極め、終に両者の相打ちで幕を降ろしました。彼の猟犬の最期を看取ったベレンでしたが、彼自身も胸に重症を負っており、カルハロスの体内から取り返したシルマリルを掲げ、探索の成就を告げると、もはや二度と口を開くことはありませんでした。

 ベレンの魂は肉体を離れ、大海を越え、死と魂を司るヴァラであるマンドスの元に留まっていました。魂が不帰路を辿るには、彼は中つ国に思いを残し過ぎていたのです。一方、悲嘆に暮れるルシアンの魂もまた、身体を離れベレンを追いました。かくして大海の果て、マンドスの館にて2人の魂は相出会いました。この時ルシアンはマンドスの前で歌を歌いました。2つの種族の悲嘆を歌ったこの歌は、ヴァラの耳にすら堪え様もなく美しく、また悲しく響いたということです。かくして心動かされたマンドスは、ヴァラの首座であるマンウェと共に、ルシアンに2つの選択を示しました。一つは至福の島で悲しみを癒し、清められて永遠に生きる道。ただしこの道にベレンは同行することはできませんでした。死は人間に与えられた賜物であったからです。もう一つの道はルシアンとベレンが今一度中つ国に戻り暮らす道。ただしこの場合、ルシアンはエルフとしての生を捨て、人間のように不確実な運命と死を賜らなくてはなりませんでした。

 ルシアンは後者を選択し、かくしてあらゆるエルフの中でルシアン・ティヌヴィエルだけが、本当の意味での死を迎えることとなったのです。中つ国に戻った2人は、ドリアスを離れ旅立ち、後に一子をもうけました。美丈夫ディオルです。やがて彼等は人としての生を全うし、歴史の中へと姿を消しました。

ベレンとルシアンの物語は多くの歌に歌われ、広まっていきました。これを耳にしたフェアノールの息子達は、アングバンドは必ずしも難攻不落ではないことを知り、モルゴスと雌雄を決する決意を固めました。中つ国の自由の民に連盟を呼びかけ、大軍をもってモルゴスを放逐しようという計画です。が、この計画は無残な失敗に終ります。かのシルマリルにまつわる恐ろしい誓言と、それによる悪行により威信が低下していたことや、シルマリルを手にしたシンゴル王との確執などが原因でしたが、さらに裏には、モルゴスの暗躍もあったのです。モルゴスはひそかに人間の中に下僕を潜りこませて、不和や不信の種を蒔き、それは一部の人間達の裏切りという結実を引き出したのです。かくして連盟は崩壊し、エルフはエダイン以外の人間を遠ざける様になり、人間の間に不信と憎悪が広がり、フェアノールの息子達は国を失い流浪の民となったのです。

 一方、魔法帯に守られたドリアスは強固であり、モルゴスの恐れと怒りを駆りたてる脅威であり続けました。しかし、この国の威光とて永遠のものではなく、ドリアスに黄昏の帳が降りる時は着実に近づいていたのです。この凋落は、ドリアス内部から始まります。シルマリルを手にしたシンゴル王の胸の内では、宝珠が時と共にその存在感を増していきました。この宝珠にはそのような力があったのです。そのシンゴル王の元に、ナウグラミアというドワーフの首飾りがもたらされたことが、悲劇の発端となりました。この類まれな美を誇る首飾りにシルマリルをはめ込み、常にこの宝珠を身に帯びていたいという欲求に駆られた王は、地下工房のドワーフ達に首飾りの細工を依頼しました。ドワーフ達はたちまちシルマリルに魅了され、これを所有することを欲しました。できあがった細工は、エルフとドワーフの美が一つになった正に美の至りとも言うべき至宝でした。そして…シンゴル王とドワーフ達は首飾りの所有権をめぐって諍いを起こし、王は己が王国の地下の暗闇にて、ドワーフの手にかかりその生涯を閉じたのです。

 王妃メリアンはマイアールの1人であり、その本性は肉体を持たぬ精霊に他なりません。彼女がエルフの姿をとり中つ国に留まっていたのは、ひとえにシンゴル王への愛ゆえのことでした。そのシンゴル王を失い、メリアンの心と身体に大きな変化が訪れました。彼女の中つ国に対する力は失われ、ドリアスを守っていた魔法帯は消失しました。

 シンゴル王を殺害したドワーフ達は東へと逃れましたが、エルフ達の追撃に会い、そのほとんどが討たれてしまいます。同胞の死に怒りを駆り立てられたドワーフ達は、ドリアスへと攻め込みました。この流血はエルフとドワーフの歴史の中で最も嘆かわしいものとして記憶されることとなりました。この事件以来、大いなる不信と軽蔑によって2つの種族は隔てられ、その遺恨は『指輪物語』の時代まで残ったのです。この戦いはドワーフの勝利に終り、シルマリルはドワーフの所持するところとなりました。しかしこのドワーフ達も、かの英雄ベレンによって討たれてしまいます。シルマリルはベレンの手でルシアンへと届けられましたが、彼女の心が慰められることはありませんでした。

 ベレンとルシアンの間には、ディオルという息子があることはすでに述べました。ディオルは父と共にドワーフ達を討つと、両親の元を離れ、ドリアスの世継ぎとしてこの地に移り住みました。ディオルの妻二ムロスと2人の幼い息子エルレードとエルリーン、そして娘のエルウィングも同行しました。エルフ達はこの一家を歓迎し、ドリアスの再建が始まりました。

 ある秋のことです。ディオルの元に使者が現われ、シルマリルの嵌まったドワーフの首飾りをもたらしました。かくしてディオルは両親が今度こそ本当にその生を閉じた事を知ったのでした。

 シンゴルの世継ぎディオルがシルマリルを帯びているとの噂は、たちまち中つ国に広まり、古き誓言がまたしても目覚めることになりました。フェアノールの7人の息子達は再び集結し、シルマリルの所有権を主張したのです。そして芳しい返事が得られないと知るや、軍を興しドリアスを蹂躙しました。フェアノールの一族が起こした2度目の同族殺しでした。この戦いでディオルと二ムロスは討たれ、幼い2人の息子は森に追放され(おそらくは)命を失いました。しかし一人娘のエルウィングは、追手から逃れました。そしてその腕にはシルマリルが握られていたのです。

 ドリアスの崩壊後、エルフ達最大の砦となったのはトゥアゴン王が治めるゴンドリンの隠れ王国でした。この国の所在は厳重に伏せられ、敵から、そして外部のエルフからすら完全に隠されていたのです。ここに1人のエダインが登場します。フオルの息子トゥオルというのがその名で、彼はヴァラの1人であり水の司であるウルモに選ばれた人間でした。ウルモはトゥオルの前に姿を現し、ゴンドリンを探すように告げたのです。トゥオルはトゥアゴン王に歓迎され、ゴンドリンに留まる事を許されます。後にトゥオルは王の娘、イドリルと心を通わせ、彼女を妻に娶りました。ここに、人間とエルフの第2の婚姻が相成ったのです。

 トゥオルとイドリルの間には1人息子で半エルフのエアレンディルが誕生し、ゴンドリンは平和と光が満ち溢れていました。この国の大体の所在が、実は既にモルゴスによって看破されているとは誰も知らなかったのです。しかしゴンドリンの陥落を決定付けたのは、王の縁者マイグリンの裏切りでした。彼は鉱山の探索中にオークに囚われ、モルゴスの拷問に屈したのです。こうして、エアレンディルが7才の年に、モルゴスは軍を動かし、ゴンドリンは内通者のために崩壊しました。トゥオルはイドリルとエアレンディル、そして少数の生存者を集めると、かろうじて脱出に成功しました。彼等は逃避行の後、シリオンの河の河口でディオルの娘エルウィングを始めとするドリアスの族と合流しました。そしてゴンドリンが潰え、トゥアゴン王亡き今、ノルドール(“至福の国”からやってきたエルフの総称です)の上級王にはエレイニオン・ギル=ガラドが指名されました。

 シリオンのほとりにて育ったエアレンディルは、長じてエルウィングを娶り、2人の息子エルロンドとエルロスをもうけました。またエアレンディルは船大工のキアダンの親友となり、しばしば“至福の島”を求めて航海に出ました。遥か西方の地を見出し、2つの種族の不幸をヴァラールに訴えたいと切に願っていたのです。この航海にはエルウィングは加わらず、海岸で悲しみに暮れていました。さて、エルウィングが死を逃れ海岸で暮らしているという知らせは、いつしかフェアノールの息子達の耳に入り、ここにまたシルマリル引渡しの要求が成されたのです。実の所、彼等は血塗られた誓約に疲れを感じ始めていたのですが、それでもなお自ら架した誓いを捨て去る事はできなかったのです。エルウィングはこの要求を拒み、ここにシルマリルの誓言による3度目の、そして最期の同族殺しが行われました。しかし、この時ですら彼等はシルマリルを入手することができなかったのです。エルウィングはシルマリルを胸に抱いて海へと身を投げ、エルロンドとエルロスは捕虜となりました。

 エルウィングはウルモの恩寵によって白い鳥へとその姿を変じ、エアレンディルを求めて大海を飛びました。こうして2人は再開し、エルロンドとエルロスの受難を知った彼は、もはや中つ国に何の望みも無いことを悟り、故郷へ向っていた船首を再び西へと向けました。実のところ、フェアノールの息子はこの兄弟を不憫に思い、大切に育てていました。そして両者の間には(いかに信じ難いことであるにせよ)愛情すら育っていたのです。

 一方エアレンディルはシルマリルに導かれて、遂に“至福の島”へと辿りつきました。彼はヴァラールの前で、中つ国の窮地を訴え、ノルドールのために許しを、2つの種族のために哀れみを求めました。ヴァラールはこれを是とし、“至福の島”の軍勢が中つ国に遣わされました。ここに始まった戦いは怒りの戦いと呼ばれています。ヴァラールの怒りは凄まじく、邪悪な王国は打ち倒され、モルゴス本人は世界の外である虚空へと投げ出されました。この戦いで中つ国北西部はずたずたに引き裂かれ、海中へと没しました。

 エアレンディルは、額にシルマリルをつけ、天つ海に浮かべられた船で遠く旅をする身となりました。残った2つのシルマリルは、今やヴァラールの手にありましたが、フェアノールの息子達の中で唯2人だけ生き残ったマエズロスとマグロオルがこれを奪いました。彼等は倦み疲れ、誓言を厭う気持ちしか残っていなかったにも関わらず、半ば自暴の元、誓言の成就を追い求めたのです。しかしシルマリルは彼等の手の内で炎を上げ、誓言は既に無効になっていることが明らかになりました。マエズロスは苦痛と絶望の中で大地の割れ目に身を投じ、マグロオルはシルマリルを海に投じるとエルフ達から離れ、苦悩と後悔の歌を歌い続けたといいます。こうして3つのシルマリルは、天と地と海に分かれたのです。

 怒りの戦いの後、ヴァラールの許しを得たエルフ達は、多くが西方へと旅だって行きましが、苦酸を極めた中つ国を去り難く、この地に残ったエルフもいました。船大工のキアダン、ガラドリエルとその夫ケレボルン、上級王ギル=ガラド等がそうでした。また半エルフであるエルロンドとエルロスの兄弟には、エルフと人間のどちらの生を得るかの選択が許されました。ここでエルロンドはエルフとして生き、エルロスは人として生きることを選択したのです。このエルロスから、人間の間にエルフと精霊の血が広まっていくことになるのです。

 シルマリルの物語は、こうして幕を降ろしました。そして中つ国の第1紀もここで終ります。




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