河内の旅人

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人生模様(その1)



トミさん!トミさん!トミさ~ん!
呼ばれる声の大きさにビックリして飛び起きた。
狭い四畳半のアパートの部屋のドアを開けると、幼馴染のA君が立っていた。朝の6時である。
傍らには目の大きな、でも少しエキゾチックな感じの女の子が寄り添うように控えていた。
とにかく部屋に入れて、事情を聞くと「こいつ、ヤサ
ぐれて来よったんや!」と言う。
そこで、自分も一緒になりたいが金が無いから、アパートの敷金と当座の金を貸して欲しいとの事だ。
生まれつき馬鹿な俺は、頼まれると何故か頼りにされていると言う、変な優越感みたいなものを味わうので
甲斐性も無いのに引き受けて、Yさんと言う親友に無理を言い10万円の借金をして、又別の友人Nシャンに声をかけ、彼の住んでいるアパートの2階がたまたま空いていたので話をつけてもらい、とりあえず落ち着かせた。

まるで「ママゴト夫婦」だ。
俺の茶碗から箸、湯のみ茶碗、コーヒーカップまで取り揃えてくれて、いっぱしの亭主面して「洗濯物は持って来て、うちの奴にさしたらエエ」てな事を言う。
そうこうしているうちに、私の友人の職場へ紹介したが、なんと金回りが良くなると、酒は呑まないが生来の女好きからキャバレー、アルサロ遊びが派手になり
当然彼女が出来て離婚とあいなったが、またもや離婚の立会いを仰せつかった。

再婚した彼は二人の子供(男・女)を引き取っていたが、間もなく下の女の子が事故死して、上の男の子も
グレだし、手が付けれないようだった。

後年、奇しくも旧姓に戻り同じ病院の喫煙所で絶えず顔を合わせる女性はかのA君の細君で、キャバレーで出来た彼女だったのである。
彼女は彼から絶えず私の名を聞かされていたので、もしや?との思いで声を掛けてきたのである。しかしながら、相変わらずの女癖が悪く、守銭奴で暴力を振るう為三ヶ月前に離婚したとの事であった。

同じ日に退院したが、二週間後に大動脈瘤破裂で救急車で運び込まれたが、半ば即死状態であったと言う。

彼のその後は音信不通の行方不明、奇しき因縁の友人との物語で有る。




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