河内の旅人

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人生模様(その3)



「駆け落ちしたらしいナ・」「行くへ不明らしで・」「何処へ行ったんやろうな~」と、顔を合わせると話しかけてくる。
経理課長のKさんと最近入社した事務員のY子さんのことである。
ひと月近く経った頃、誰かの仲裁で彼のみは復職したが、長くは続かず程なく退職して行った。
無論、彼女はその時点で退職している。
営業に居たT君が独立するのに伴い、Kさんを救済の意味で連れて行ったと言う。
ある日突然Y子さんから電話があり逢って欲しいとの事で、馬鹿な自分はノコノコ出て行った。
自分達二人は、道ならぬ道を歩く運命を覚悟して、二人で力合わせて家庭への生活費を不自由のないように
キチット仕送りし続けて来た。又、子供を生む事さえ諦めて必死に働いて来たが、未だ自分の身の行く末が
はっきりせず、このままでは何時Kさんにもしもの事があっても不安でならない。Kさんの兄も仲に立ってくれてはいるが、奥さんが離婚届けには頑として印を
押そうとはしないらしいから、Kさんに積極的に動くよう説得して欲しいと言うことだ。
やれ、困ったことになったものだ。
この話が持ち込まれた頃は、確かY子さんが50歳過ぎていたと思う。
ともあれ25~6年の夫婦生活での人間関係で過去のいきさつを知っているのは竹さんだけだと言う。
現在は、ある宗教団体の地区の責任者でもあり、夫婦
揃っての熱心な信者であるだけに、余計辛い地獄の罪
の深さにさいなまれているようだった。
年月流れて3年前、61歳になったY子さんは晴れて
入籍出来たと喜びいっぱいの若やいだ声で電話をして来た。
息子、娘の二人を大学まで行かし、共に結婚、孫が出来、周囲の言葉には耳を貸さなかった妻も立派な大人に成長した二人の子供に「もう、いい加減に許してやりいナ・・・」と諭されて、ついに長く苦しい、悲しい、熱き女の闘いでもあった。
こうして、めでたく大団円となったが、彼74歳、彼女65歳、二人と知り合って40年、未だ時折電話なり逢って食事したりと親交を深めている。





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