~mi-chan's space~

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小4:バレンタイン






小4:バレンタイン


  最後の席替えが終わり、いつもどおりはしゃぎまわる私たちにバレンタインデーが近づいてきた。となると浮

かれ出すのは決まって男子の方である。このときばかりは女番町の異名をとるみきにも「チョコレートちょうだい

なぁ。」などとたやすく言えてしまうのだから。すると案の定私にまでそのとばっちりがくる。「川中もやで、ほんま

にくれよ。」「はいはい、分かった分かった…。あっ、そうや、手作りでもええ?」この言葉は誰に渡すからというこ

とではなく、今年は初めて手作りをしてみようと思っていたがゆえのせりふである。そしてこの年はクラスの男子

3人プラス1人に渡すことになった。最後の1人はもちろん長本。しかしこれは以前本人からくれと言われていた

ことであるので特別な意味はない、という恰好の建前付き…。いやいや、私にとっては誰にも気付かれることなく

本命チョコを渡すいい理由ができたというのが正直なところだった。(でも、どうしよう…。長本に手作りでもええ

か聞いてへん…。うわぁー…、どーしよっかなぁ。)

  結局本人には何も聞くことができず、バレンタイン当日。私が用意したのは手作り2人分と買ったもの2人

分。前者は初めに手作りでいいと交渉成立していた2人に。後者は急にくれと言ってきた1人と長本の分。あれ

これ思案したうえ、手作りだと誤解されると考えた私はあえて本命の人に既製品を渡すことにしたのだ。あえて

言うなら決して「誤解」ではないのだが…。そして放課後、私同様クラスの男子からチョコレートを催促された女

の子数人と男の子の家巡りをした。なかには家にいない子、オートロックで中に入れない家、チョコレートを届け

るだけでかなりの労力を使ったものだった。そして最後に長本の家へ。すると突然1人の女の子がそれぞれ何

かメッセージでもつけようと言い出した。私もそれに賛成はしたものの、ん?何を書けばいいのだろうか。1枚の

メモ用紙を前に必死で考えた。(何て書いたらいいんやろう?まさか本命ですなんて書くわけにもいけへんし…。)

思い悩んだ末学校ではまだ習ったばかりのローマ字で「くれって言っとったからちゃんとあげるで」というような内

容の文章を書いて真ん中に大きく『giri』と記した。(これで誰が見ても本命とは思えへんやろう。)そのときの私は

そのメッセージがもしも長本の両親が見たら、ということを考えてわざわざ『giri』と書いたのだった。その後、長

本の家の前でどうやって渡すかを相談していたところ、家の中から妹のみかちゃんが!!「これお兄ちゃんに渡しと

いて。」半ば強制的にチョコレートを預け、私たちはそそくさとその場を去った。

  翌日、「川中~。お前ローマ字で書くなよ。何て書いてんのか分かれへんやん。」(えっ、ほんまに言ってる?)

「何で?習ったやん!!」こんなやりとりの楽しさと話しかけてくれた嬉しさから思ったこと。(あぁ~…、ローマ字はと

もかく何であんなこと書いたんやろ…。やっぱ『giri』は書けへんかったらよかった。)


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