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2008.01.12
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カテゴリ: 医療
 何をするにもコストがかかる。無尽蔵にコストをかけることは不可能だから、ありとあらゆる事に無制限に対処できるような体制を望むことは出来ないだろう。聞き分けのない子供ならともかく、大人ならそれくらい理解できるはずだ。

 それでも、自分の子供が身障者になった当事者であれば、我を忘れて理不尽な訴訟をすることも理解できる。でも、 それをそのまま無批判に記事にするのはどうかしている 。原告の言い分は、無い物ねだりのだだっ子と変わりがないと思わないのだろうか。

胸に打球、救命措置遅れ後遺症と県を提訴


 2005年に下伊那農業高校(飯田市)1年の野球部員男子=当時(15)=が練習試合で胸に打球を受け、「心臓振とう」を起こして今も後遺症があるのは引率教員の救命処置が遅れたためとして、男子とその両親が8日までに、県を相手に慰謝料など総額約1650万円の損害賠償を求める訴えを地裁飯田支部に起こした。

 訴状によると、05年6月に名古屋市内の高校で行った練習試合で、守備についた男子は打球を胸部中央やや右寄りに受け、倒れた。脈を打っていなかったため下伊那農高の生徒が心臓マッサージをし、その後に到着した救急隊員が除細動を実施、心拍が戻った。この心臓振とうの後遺症で現在、介助がなければ日常生活を送ることができない体の状態としている。

 原告側は、野球では球が当たることやそれによる心臓振とうは予測できたのに、引率教員は自動体外式除細動器(AED)を持ち運ばず、救命処置が遅れたと主張。代理人は「胸に打球を受けて倒れた場合、心臓振とうとみて、引率者が人工呼吸や心臓マッサージなどをすべきだったのにこれをせず、安全配慮義務を怠った」としている。

 被告側は「対応を検討している」(県教委高校教育課)としている。下伊那農高の上沼衛校長は「訴状を見ていないのでコメントできない」と話している。


 野球は日本では人気のあるスポーツだ。野球の練習や試合は数え切れないほど行われているだろう。滅多に起きることではないが、何処で心臓振盪が起きても不思議ではない。だからといって、あらゆる野球の現場にAEDを用意することは不可能だろう。野球の現場では常にAEDを用意すべきだと言うことになれば、野球をしないという選択肢しかない。

 記事を読む限り、応急処置は迅速に行われている。命だけでも助かったのは、バイスタンダーである高校生が心臓マッサージをしたからだろう。引率者だからと言って、高校生よりも上手くやれた保証はないから、誰がやったかは問題じゃない。 障害が残ったことを恨むのではなく、命が助かったことに感謝し、この高校生をたたえるべきではないのか

シンポジウム 心臓震盪を考える を見れば分かるように、心臓振盪では、命だけでも助かれば御の字だ。アメリカのデータが出ているので引用してみよう。

救命症例数

1.Maron,B.J. et al. N.Engl.J.Med.vol.333,1995
  2例/25例 心拍再開(2例も脳障害で死亡)
   19例/25例(76%)で3分以内のCPR


2. Maron,B.J. et al. JAMA vol.287,2002
  21例/128例 1年以上生存 (15例が完全社会復帰)
  68例/128例(53%) 3分以内のCPR → 17例
  38例/128例(30%) 3分以降のCPR → 1例
            不明    → 1例
            自然回復  → 2例
   41例/128例 除細動実施(AED2例)


 早期にCPR(心肺蘇生)を行っていてさえ、救命率は少ない。それでも、3分以内にCPRを行った方が、圧倒的に救命率が高い。「命が助かったことを感謝すべきであるとともに、CPRを行った高校生をたたえるべきだ」という私の判断を支持するデータだと思う。この親のなすべき事は、 訴訟ではなく、AEDの普及活動





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Last updated  2008.01.12 15:13:02
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Re:命が助かっただけでも  
GreenーNote さん
うーん。。。ご家族の悲しみはよく理解できますが。
新しいBLSでは、状況によっては人工呼吸を省き心臓マッサージだけでもよい(救命は期待できる)とされていたはずです。
それと、「AEDが野球場内にあったのにそれを使用しなかった」ということでもなさそうですね。
(2008.01.12 16:33:18)

マウストゥマウスは抵抗ありますから  
Drbamboo  さん
GreenーNoteさん、いつもコメントありがとうございます。

下手な人工呼吸より、確実な心臓マッサージと、迅速な除細動が必要なんでしょうね。

AEDがあったとしても、完全社会復帰できる可能性はそれ程高くないでしょう。そもそも、きちんと心臓マッサージできる高校生が居たことが奇跡であって、実際に心停止が起きたとき、よほど訓練を受けていなければ、普通はうろたえるだけだと思います。 (2008.01.12 22:19:33)

うちの団地でもAEDの導入検討中  
wadja さん
なので、先日リース会社の人を呼んで、説明会を開いてもらった。GreenーNoteさんの言うように最近は、人工呼吸(素人がやると、なかなか上手くいかんし、人工呼吸の間心臓マッサージを中断することになるから)よりも心臓マッサージを優先すべし、となってるみたいですね。

最近は子供用の野球のアンダーシャツにも胸部プロテクターを付けたものが出てきてるらしいので、世間の認知度は高まってきてるんでしょう。でもリンク先のややラフな推定によると、心臓しんとうの死亡数が13人/年。2005年当時に「予測できた」というのが、妥当かどうかは甚だ疑問ですね。

しかも、AEDの使用が一般人にまで認められたのが2004年7月。その1年もたたないうちに、「なんでAEDを持ち歩いてなかったんだ!」ってのも、訴えられた方が気の毒ですね。Drbambooさんの仰るように、運が悪かったと諦めて、学校へのAED設置義務化等の普及活動に取り組む方がwadjaとしては共感できる。 (2008.01.12 22:55:19)

Re:命が助かっただけでも(01/12)  
淡紫  さん
Drbamboo先生、こんばんは。

>引率者が人工呼吸や心臓マッサージなどをすべきだった

って、ものすごい恐怖と緊張の中で心臓マッサージを敢行した高校生はどう感じてるんでしょう?
トラウマになってないといいんですが…。そして、だれかフォローしてくれてる方がいらっしゃるといいんですが…。
(2008.01.13 01:02:51)

この記事は  
head&neck  さん
久々に頭にきましたね。
>原告側は、野球では球が当たることやそれによる心臓振とうは予測できたのに
じゃあ、歩行者が車にはねられることは予想できたのに、車にAEDが積んでなければ訴訟?
言いがかりもはなはだしいですね。
(2008.01.13 20:33:27)

訴訟の前に  
Drbamboo  さん
wadjaさん、コメントありがとうございます。

同じようなことが起きないようにと思うなら、やるべき事は訴訟じゃないと思いますよね。 (2008.01.13 21:36:14)

頑張って蘇生したのに  
Drbamboo  さん
淡紫さん、こんばんは。

せっかく頑張って蘇生したのに、後遺症が残ったとクレームを付けられたら、傷ついたかも知れませんね。 (2008.01.13 21:38:23)

発生頻度  
Drbamboo  さん
head&neckさん、コメントありがとうございます。

予想して備えておくと言っても、発生頻度に依りますよね。滅多に起きないことには、コストをかけられないという現実もあるでしょうに。 (2008.01.13 21:40:43)

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