バベルの図書館-或る物書きの狂恋夢

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カテゴリ: 映画/エンタメ
 悶々、モーン。『 ブラック・スネーク・モーン 』、観ました。何故って、理由は一つ。サミュエル・ジャクソンがブルースマンを演じるから。
 なぜそこの理由一点でこの作品を観たのか。サミュエル・ジャクソンって、多分ミュージシャン役ってやってないんじゃないかなぁ。で、顔と役柄の対応のマッチ度というのがあると思うんですけど、例えばモーガン・フリーマンは、“プリーチャー(牧師)顔”“メンター(指導者、教師など)顔”ですが、“ブルースマン顔”ではない。でも、サミュエル・ジャクソンは、もうドンピシャ、ワケありの“Dirty Old Bluesman”顔なんですよ。だから、彼がブルースマンの役を演る、ときたらこれは観るしかないでしょう。
 で話の内容は、過去に傷つく少女・レイ(クリスティーナ・リッチの演技は迫真、女優魂です)と、弟に妻を寝取られたしがない中年男・ラザラス(サミュエル・ジャクソン)が、衝突しながら交流することで癒し合う(というより、過去を受け入れ、当面のそれぞれの道へ向かって一歩を踏み出す)という話なんですが、解釈は多種多様な可能性があり、評価の難しい映画です。
 販促上は、本音話題性推しでしょう。少女を、中年男が鎖でつないで更正させる、ってな話。パッケージ的には、ちょっとブラック・スプロイテーション的(ブラック・スプロイテーションの場合は、黒人のヒロインが、ちょっと白人的に描かれるか、もろブラックパワー的な形で描かれます)な構図やタッチ、あるいはロッキンジェリービーンさんのホットロッドな感じ、さらには、70年代ディスコ迷盤のジャケットにでもありそうな少女を鎖で…の絵巻なり。
 内容は、ヘビ、いやヘビーです。いや、ヘビでもあるんですけど。アフリカン・アメリカンの中年男性が、保守的で差別的な歴史を持つアメリカ南部で、白人少女を、更正のためとはいえ鎖につなぐ。それも、身持ちが悪いと街で噂の少女だから、相手の性格に関わらず、これは白人の女性と行為を持ったことを疑われても仕方がないことで、人種問題としてはすごくテンションの張った状態に身を置いた主人公の葛藤もまたコンシャスだったりするのです。
 また、ブルースは“悪魔の音楽”と呼ばれますが、かつてはこの“悪魔の音楽”でフロアを揺らした男が、ギターを封印し、畑仕事に精を出していたら、退屈といって妻に逃げられた。そして、いままた、傷ついた少女との、逃げ場も、無論逃走もない心の通い合いの中で、己を見つめなおすためにギターを取る…。
 やっぱり合うわぁ、サミュエル・ジャクソンとブルース。「黒いヘビがのたくってるぅ~♪」、ってのが、つまりはタイトルにもなっているブルースの曲“Black Snake Moan”なんですけど、この黒いヘビは、つまり象徴。聖書源流から行けば、まず欲望と誘惑、悪魔の象徴、しかも黒いヘビですから。不吉な影でもある。もしくは、いつまでもこの人生にのたくり、横たわるしがらみや運命の象徴。邪まなファロス…。鎖。
 話の中身から言うと、もともとラザラスが、妻・ローズと喧嘩別れする冒頭のローズの捨て台詞に出てくる「何度も火傷しそうになったヒーター」。ラザラスは、このヒーターに、悪夢のフラッシュバックに我を忘れて徘徊しそうになるレイを鎖でつないで、“擬似家庭(ホーム)”を作り上げ、やがて送り出すのですが、別れの中で否定的に取り上げられたヒーターが、新たな紐帯を(鎖で!!)編み上げる動かぬ礎石としている。この転換がまた面白い。

 確かに評価の難しい映画です。メッセージだけでも、話題性だけでも、理解できないし、癒し系ヒューマンドラマだけでもなく、アフリカン・アメリカン映画史(ブラック・ムービー史)、アメリカ南部の今昔事情にも目を配っておいたほうがより誤解なく鑑賞できる。こうした意外に複雑なプロットは、脚本家自身の懊悩の投射でもあったようですが…(監督・脚本のクレイグ・ブリューワーは、“ナイーブなトロイ・ダフィー”、“結果オーライを認めることができない、アップダウンの激しい初期タランティーノ”といった感じもある、しかしストイックで地元愛の強い個性派とお見受けしましたが)。
 ただ、もう全編ブルース。映画そのものがブルース。人生そのものがブルースだ、という視点で描かれているから当然ですけど、キャスト、演技、音楽、テーマ。すべてがブルースな映画です。それだけ汲み取れれば、十分お釣りが来る、濃厚ドロップ。
 人生、恋愛、仕事に誘惑。間男、駆け落ち、むせび泣き。ひじ鉄打って打たれてへこたれて。悶々モーン!!これぞ、ブルースのエキスです。(了)

*ジャスティン・ティンバーレイクの出演は、微妙でした。どうせなら、もっとシーン増やしてあげるとかしないと、逆に彼の起用は誤解されるだろうなぁ。


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スネーク・フライト
▲しかし、すっかりヘビ俳優だなぁ、サミュエル・ジャクソン。次はアナコンダシリーズ参入かな…。

著作です: 何のために生き、死ぬの? 。推薦文に帯津良一・帯津三敬病院名誉院長。





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Last updated  2008/01/25 05:43:35 PMコメント(0) | コメントを書く


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