神頼みな毎日

神頼みな毎日

計画


 秋といえば、読書・スポーツ・食欲の三種が人間たちを躍らせる季節である。それぞれが気に入った人間に乗り移り、この秋という快適な気候のなかで好き勝手暴れるわけだ。人間がもっとも活動的になる季節と言っても過言ではない。たいしたイベントも無いので皆この時期は暇だからなおさらだ。
「そんな中、我々は科学の秋を満喫しようではないか。目指すは文化祭だ」
「科学の秋なんて聞いたこと無いぞ」
 科学部の部室、理科室のいつもの机。そこにはいつものメンバー四人が座っていた。そうして間もなく村田が言い出したのである。そう、もう文化祭の季節だ。去年のことを思うとあまり良い感じはしない。
「文化祭ねぇ。周りみたいに手を抜いて……レポートとか適当に書けばいいよ。正直俺ら三年はこの時期文化祭がどうとか言ってる場合じゃないと思うぞ?」
 夜中が言う。周りと言うのは三年生全体のことを指す。三年生はもう受験までもう時間が無く、殆どの三年生は文化祭の準備なんて知ったことではない。うちのクラスの文化祭の出し物も酷い物になりそうだった。どこも一緒だろう。
「まぁ一部を除けばだがな」
 夜中が俺を見ながら恨めしそうな目で見てくる。
「……何故俺を見る?」
「お前の成績なら前期で余裕だろ。文化祭だって余裕で楽しめるって事だ」
「まだ結果も、受けてもいないうちからそんな事言われてもな」
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
「!?」
 突然村田が絶叫し、机をばんばんたたき出した。あまりの奇行ぶりに全員が椅子を少し引くほど驚いた。
「な、なんだよ。どうした」
「こんな時まで受験の話はするな! 死にたいのか!」
「す、すまん。……いや、なんで死ぬんだ」
 何故だか分からないがものすごく怒られた。村田は頭を抱えて机に突伏し、唸る。
「もういい! もう何も聞きたくない。どこか、ここじゃない世界に逃げたい!」
 どこに行く気だ。
「また現実逃避……」
 鳥里がぼそりと呟いた。酷く疲れたような顔をしていて、そういえば二人は同じ塾に通っていると聞いた事があることを思い出した。色々大変なんだろう。受験勉強。
「まぁほら、皆疲れてるだろうから、文化祭の準備だって適当に終わらせればいいさ」
 夜中はそう続けて、俺を見た。頷いて応える。たしかに万年お気楽人間の村田でさえストレスでどうにかしてしまうほどだから、今は少しでも余計なものを排除して……、
「ならん! 断じてならんぞ!」
 村田が俺の腕にしがみついてきた。……泣いていた。
「文化祭は俺に残された最後の気晴らしなんだぁー、取り上げないでくれぇ」
「分かった。分かったから離れてくれ」
「英語が俺を殺そうとしてるんだぁー、英単語が脳細胞を潰すんだぁー」
「誰かこいつを離してくれ」
 相当参っているらしい。

 ◇

「まぁそうでもなくても、俺たちはレポートで誤魔化すという非人道的かつ短絡的行いはできないんだ。他に理由があるからな」
 村田は何事もなかったように椅子に座って、手を組んで、そのような事を言った。まるで軍事会議のような重々しさを演出していたが、別にそうでもなかった。
「非人道的で短絡的かどうかは知らないが、理由ってなんだ?」
「去年の出し物を覚えているか。あのタイムマシンだ。子供たちに大盛況だったな」
「え? あぁ、まぁ……割と人気だったかもな」
 ライトが点滅したり音が鳴るように仕掛けただけの『ただのタイムマシン』は、たしかに子供たちに偉い気に入られていたようだった。代わりばんこにタイムマシンに乗り込んではスイッチを押したりして楽しんでいた。正直、また何かの拍子に時空移動してしまわないかと不安で仕方なかったのを覚えている。
「人気というのは厄介なものでな。一度注目されたら、次はさらに上を目指さなくてはならない……」
 残酷な運命だとでも言うような口ぶりだが、
「いや、別にそんな決まりはない」
「馬鹿! 去年の校内出し物人気アンケートの部活部門で三位を取ったのを忘れたのか。今までビリ争いの常連だった化学部がここに来て急浮上だぞ。それも投票の大半は子供とその親たちだ!」
 そういえばそんな事あった気がする。だがあんなランキング、ちゃんと見ている人間は村田くらいのものだ。
「コメントもたくさん寄せられたさ! その大半が「来年も来ます」という嬉しいものでした!」
「なるほど。その子たちが来るってなると、今年も去年以上じゃなくてもある程度のものは作らなきゃならないってことか」
 鳥里がめんどくさそうに呟いた。たしかにそうなると、レポートで適当に済ませるなんてわけにはいかなくなる。
「また何か作るのか」
「そうです」
 村田が頷き、
「今回は個人個人で頑張ろうと思うんだ。去年は岸辺に押し付けた形になったから、今回は四人がそれぞれ何か作ってくるんだ」
「うへぇー」
 鳥里がぐでんと机に倒れた。受験疲れのうえに一人一個製作のノルマが課されるのが嫌らしい。
「まぁ俺は別にいいが、夜中と鳥里は忙しいみたいだぞ」
「そんなことはない」
「……いや村田、なんでお前が断言するんだ。夜中と鳥里のスケジュールはお前には分からんだろ」
「そんなことはない」
「……」
「別に俺はいいよ。それほど忙しいわけじゃないし」
 夜中が言った。 
「それに中学三年生、騒げるイベントはこれが最後だろうしな」
 皆が鳥里を見る。
「……あぁ、もう! わかったよ。なんか作ればいいんだろ。でも小さいのしか作らないからな」
 村田は笑顔で鳥里に駆け寄り、その手を彼の形において、
「大丈夫だ。君には期待していない」
「くっ……」
 となると何か造るものを考えなければならない。期限はもう殆どないから、過去のタイムマシンもどきのような大きなものは作れないだろう。作る気もないが。
「あ、岸辺。お前の作る物はもう考えてあるから」
「は?」
 村田はにやっと笑うと、方眼紙を机のうえに広げた。
「歌って踊れるロボット、歌太だ!」
 方眼紙には簡易設計図が……
「ちょっと待て! これじゃ去年のタイムマシンと変わらんじゃないか。俺が作る物は俺が……」
「岸辺」



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