トカトントン 2.1

トカトントン 2.1

2007/08/05
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カテゴリ: 読書
eigahen

■金城一紀の新作はそのストーリーテリングならびに構成力とも抜群で、傑作「対話篇」に勝るとも劣らぬ 出来映えとなっています。それでは読者であるわたしの方はといえば、君はちゃんとした善いオトナになっているのか、それとも悪いオトナになっているのかを問われているような気がして、少し居心地が悪い感じがしてしまうところがあります。

■「映画を見に行こう」。5つの物語にはどれも主人公とその相棒の会話の中にそんなセリフが含まれています。わたしたちが映画に求めるものは現実をいっとき忘れさせてくれる癒しであり、現実にかえった時、それに立ち向かう勇気をもらうきっかけだったりします。そしてなにより、良い映画を観た後、その素晴らしさ(感動ポイント)を自分の言葉で現実の世界の恋人なり、肉親なり、親友なりに、再構成して話をして聞かせる時の幸福感なんだと思います。

■そういう意味ですごく心に残ったのはS2のバイト君が彼女に見せた自主制作映画のストーリーと、S5の亡きおじいちゃんとの出会いを語るおばあちゃんの昔話でした。それぞれがスクリーンに映し出される映画そのものではなくて、すごく個人的な物語であるわけですけど、聞いているうちに色んな感情が湧きあがってしまい、ちょっとやばかったです。

■友情、ロマンス、冒険、復讐、感動。それぞれの短編が映画の持つエッセンスを全部詰め込んでいて、全体を通してひとつの大作が完成しているという構成が実に技巧的だと思います。本を開いて最初に目に入るオードリー・ヘップバーンの似顔絵の意味が途中でだいぶ明らかになってくるのですが、その全貌が現れるS5の展開には涙腺が緩みっぱなしになってしまいました。読了直後に、誰かにこの本の感想を話す時、「感動しましゅ」なんて噛んでしまうこと必至です。わたしはこの物語の庄司薫のような語り口がすごく好きでしゅ。(また噛んだ)

■ロバート・アルトマンの「ショートカッツ」やP.T.A.の「マグノリア」のような小説を書きたい、と金城さんは言っていたようですが、なるほど、この最後の作品にそれぞれの短編の登場人物が集結してくる感じはまるでニューシネマパラダイスのような映画のクライマックスを彷彿とさせます。同じテーマでこの趣向の名手である伊坂幸太郎氏にも書いて欲しい気がします。ぜひ読み比べてみたいな。

■この本を読み終わった後、レンタルに行く人は増えると思います。「太陽がいっぱい」と「ドラゴン怒りの鉄拳」はしばらく貸し出し中が続くのではないかと心配です。タイトル以外にもたくさんの映画名が登場し、その数は 100本近く にもなります。わたしは直接この小説には出てこなかったけど、ボグダノビッチの「ラストショー」が見たくなりました。ところでヒルツという名のレンタルビデオ店を検索してみたのですが、1件もヒットしませんでした。きっと今頃、彼は映画監督になって彼女と一緒にどこかで幸せに暮らしているのかもしれませんね。これもまた物語の力なんですね。


映画篇 金城一紀


2 ドラゴン怒りの鉄拳 ★★★★★
3 恋のためらい / フランキーとジョニー もしくは トゥルー・ロマンス ★★★
4 ペイルライダー ★★★★
5 愛の泉 ★★★★★+★





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Last updated  2007/08/05 06:15:51 PM コメント(2) | コメントを書く


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ミリオン@ Re:「北の国から」を友達にすすめてみる(01/02) こんばんは。 嬉しいです。頑張って下さい…
Dehe@ Re[1]:カルトQ 2005 北の国から(10/18) adventさんへ ご指摘の通りです。例によ…
advent@ Re:カルトQ 2005 北の国から(10/18) 五郎が読んだ大江健三郎> 開口健ではなく…
しょうゆ@ Re:家庭教師 / 岡村靖幸(09/09) …最後まで岡村靖幸はわからなかったのでは…
背番号のないエース0829 @ Re:ヒトラー 映画〈ジョジョ・ラビット〉に上記の内容…
Dehe @ Re[1]:センチメンタル通り / はちみつぱい(04/17) Mr.Zokuさんへ 情報ありがとうございまし…

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