トカトントン 2.1

トカトントン 2.1

2017/09/14
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カテゴリ: ひよっこ
■時子にとって昨日のリハーサルは何より強い自信になっていた。自分の事をずっと見守ってくれてきた人たちを至近距離にして、堂々と私についてきてと宣言することができたのなら、大勢の見ず知らずの観客に向けて同じ事を繰り返すことの方がどれだけ気楽で安心だっただろう。

■比較対照する材料が与えられなかったので、どれだけこの娘が(他と比べて)輝いていたのかは推測するしかないが、リハーサル通りに演じた虚像としての時子は間違いなくカッコよく、スピーチで苦労話なんかしてもしなくてもおじさん(カメラマン)たちのフォーカスを一斉に浴びた。(個人的には8番の彼女もいいセン行っていたと思うが)

■かくして時子の夢は果たされ、三男の片思いは終わった。泉澤君の渾身の星のフラメンコの哀しさは格別。かつて米屋の配達の自転車に乗りながらテンポ良く歌った曲が一張羅の背広を着て星になってしまった彼女を見届け、その帰り道歩きながら背中で歌う曲と同じには聞こえない。

■昭和のあの頃、私は西郷輝彦のその曲を歌う時、身体の右側で両手を三回叩くタイミングにばかり気を取られて歌詞の意味さえ理解しないままそれを歌った。今日まるでヤスハルがゆっくりアカペラで歌うような泉澤君の歌い出しを聞きながら三男のためにできた曲の様にそれを聞いた。通学バスの中、公園の風船、聖火リレー、途中音程がどこかに行ってしまうのも、声がかすれて歌にならないのも彼がそんなことを思い出しながら心を込めてそれを歌ったからに他ならない。

■いつものように星を見上げて、ここにはいない父に向け心の内をつぶやくみね子だが、今夜の星のひとつはスターとなって自分の側からいなくなった時子だ。そこにいた人が突然空高く見上げる存在になってしまった時、ならば私は月になろうくらいの希望と勇気を語る資格がこの主人公にはあってもいいと思う。そう、だから大丈夫にするしかないってことだ。





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Last updated  2017/09/14 11:42:24 PM
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Dehe@ Re[1]:カルトQ 2005 北の国から(10/18) adventさんへ ご指摘の通りです。例によ…
advent@ Re:カルトQ 2005 北の国から(10/18) 五郎が読んだ大江健三郎> 開口健ではなく…
しょうゆ@ Re:家庭教師 / 岡村靖幸(09/09) …最後まで岡村靖幸はわからなかったのでは…
背番号のないエース0829 @ Re:ヒトラー 映画〈ジョジョ・ラビット〉に上記の内容…
Dehe @ Re[1]:センチメンタル通り / はちみつぱい(04/17) Mr.Zokuさんへ 情報ありがとうございまし…
Mr.Zoku@ Re:センチメンタル通り / はちみつぱい(04/17) 今年出た[Deluxe Edition]は聴かれました…

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