妖精のいたずら

妖精のいたずら

つれづれ草・・・第十章・・・


         「戸惑い」

音程のずれた鼻歌などを口ずさみながらさっさと部屋に入ってしまう小夜子。
「何でここを・・・」言いかけて思い出した。  案の定
「何言ってんのよ ここは私が買ってあげたんでしょ?手切れ金の替わりにあなたにあげたんじゃないの!」
そうだった。息子を連れて行く代わりに俺にここを置いていったんだった。
それにしても、ここまで酔っている彼女を見るのは随分になる。
「どうしたんだこんな時間まで? それに大分酔ってるぞ!」
「あなたに言われたくないは!どうせ今日も向かい酒でふらふらの癖に」
「・・・・」返す言葉も無いとはこのことだろう。その通りだから・・。
「そんな事よりなんで此処に来たんだ? お前には行くところがあるはずだろ? それに、ほかの連中は?」
「関係ないでしょ! それより飲もう! 付き合いなさいよ!」
「構わないけどさ、いいのか?」
「いいの!私がいいといったらいいの! 」
「判った・判った飲むか」
「そうよ、それでこそ私のヒデです」
(おいおいなんだこんな時に・・・まあいいか)冷蔵庫にビールをとって戻ってみるとソファーの上で寝てしまっている。
(しょうがねーな)「おい!風邪引くぞ」「・・・・・」
起こそうとして彼女の目に涙が溜まっているのを見てしまった。
(こいつも一人で頑張ってるもんな)思わず愛しく感じて涙をそっと拭いて
抱きかかえてベッドに運びながら(すこしかるくなったかな?)そんな干渉を感じてしまった。
そっとベッドに下ろしたのが気づいたのか首に手を絡ませてきた。
「ねぇ 一緒に寝よう。」
「ばか・何言ってんだ! いまさら・・・・」その先は小夜子の唇でふさがれてしまった。
「今夜だけでいいから昔に戻して・・・」涙の溢れた目を向けながら俺をしっかり抱きしめてきた。
何があったか知らないが余程のことなんだろう。  黙って見つめ返しながら唇を交わしていく・・・。
そこには昔と変わらない自由で奔放な小夜子がいた。
けだるさの中・・・目を覚ますと素肌のままの小夜子がいた。
俺の腕に絡ませた小夜子の腕が・・・・(昔と同じ仕草だ)そんな事を思い出しながら後れ毛をかきあげてみる。
「う~ん」眉間にしわを寄せながらまた俺にしがみついてくる。
腕枕の中またかるくキッスをしてみた。
ぼんやりと俺の顔を見つめゆっくり目ざめていく小夜子。
「おはよう」照れくさそうに挨拶をして「シャワー使うね」素肌のままベッドを抜けていく小夜子。
俺はベッドの中でタバコをふかしながら昨夜のことを思い出していた。
バスルームからは相変わらず音程のずれた鼻歌が聞こえてくる。
やがてシャワーの音が止まりバスタオル一枚巻いただけの彼女がまた、ベッドのもぐりこんで来る。
濡れた髪が俺には心地よかった。   
「ねえ、今日はひまでしょ?」    「ああ」
「じゃ、今日一緒に付き合ってよ!」    「何処へ?」
「エーとね ふふ・・ヒミツ 今日はまだ始まったばかりだもの」
そう言いながら俺に抱きついてきた。(いつもこいつには調子を狂わされるな)そんな事を思いながら俺も、強く抱き返す。
言葉にならないことを言いあいながらキッスを交わしお互いを求めていく。
小夜子の昨日からの行動が気になってはいたが・・・。
激しく求めてくる小夜子に翻弄されながら頭の中をよぎっていく途惑う気持ちを抑えながら俺たちはあのときのように・・・。
ただ、一緒にいる事だけが、ただ一緒につながれる事だけが当たり前のときのようにお互いを求め合うことだけを考えていた。
そう、まだ始まったばかりの今日だから・・・。











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