売り場に学ぼう by 太田伸之

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Nobuyuki Ota

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2024.06.29
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最近百貨店など商業施設でアパレルメーカーやブランド企業の幹部や営業・販促担当をとんと見かけなくなりました。本社のパソコンで在庫の状況や売上を把握できるから売り場を歩いて目視しなくてもよくなったからか、それとも以前より社内会議が増えたからか、理由はわかりませんが彼らと遭遇する場面はほとんどなくなりました。昔は大手アパレル取締役営業本部長クラスが数人の部下を連れて売り場を歩く姿をよく見かけたものですが。

かつて経営トップの中には本社にスタッフの姿がないと「どこ行ったんだ」と不安で怒鳴る人は少なくなかったんですが、私は逆に自分のデスクに座っている社員を見ると不安になり、「時間があったら売り場に行けっ!」とよく言ったものです。加えて、「売り場で売上だけ販売スタッフに聞くのはダメ」「どんなお客様に、どのような商品が売れているのか、どういう買い方をなさるお客様が多いのかを聞いてこい」とうるさく言いました。

早くも春夏物セールがはじまり週末はどこも賑わっています

洋服ブランドをお求めになるお客様には、トップスとボトムを組み合わせて購入なさる方もいれば、色違いの同じデザインのものを複数枚お求めになる方や、トップスであれボトムであれ1枚だけ購入される方など十人十色、どういう買い方をなさるお客様が増えているのかを知っているのは店頭スタッフですから売り場で彼らにヒアリングするよう本社スタッフに求めました。

商業施設の側の本部社員や幹部も同じ。売り場を歩いていると頻繁に顔を合わす経営者もいれば、売り場で一度も見かけたことのない経営者もいます。後者のような会社を私は信用していません。長く懇意に付き合ってくださった「百貨店経営の神様」 ​山中鏆​ 社長(I.F.I.ビジネススクール初代理事長兼学長)は開店時間直後の百貨店売り場を歩くため秘書に午前中アポを入れないよう命じていましたし、売り場を歩くためにゴム底シューズを履いていました。

売り場歩きを大事にした山中さん

山中さんは売り場でベンダーの販売スタッフや百貨店売り場担当にいくつか質問したり気がついたことをアドバイスしてその場を立ち去ると、壁や柱の陰に隠れている責任者が社長がその場でどんな発言をしたのか販売スタッフらに聞く。その行動がわかっているから、「販売スタッフにあれこれ言っておくと柱の陰にいた部課長に伝わるんだよ」、山中さんは笑いながらおっしゃってました。さすが「神様」、よく売り場を歩きました。

いまや世界的に有名なラグジュアリーブランドのオーナー経営者、来日するとき売り場をよく歩くのでシューズは自社グループブランド革底靴ではなく、歩きやすいゴム底と聞いています。この経営者が売り場で指摘した点を次回来日するまでに修正、改装していないとジャパン社トップの首が飛ぶという噂があるくらい売り場を重要視している経営者なのでしょう。

数年前の夕方、山中さんの出身百貨店である新宿伊勢丹の視察に行くと、当時のO社長からたびたび呼び止められ、ときには「お買い上げありがとうございます」と背後から声をかけられましたが、百貨店経営者は開店時間直後か混雑する夕方のいずれかは絶対に基幹店売り場を歩くべき、売り場で経営者を見かけない百貨店はろくでもない。私はいまもそう信じています。

ニューヨーク時代に米国式マーチャンダイジングの極意を習得しようと連日売り場を歩いた私、ブルーミングデールズやサックスフィフスアベニューなどで頻繁に遭遇する日本人がいました。あの頃伊勢丹現地オフィスのコーディネイターをしていたS女史と、海外ブランドをどの百貨店よりも多く輸入していた西武百貨店のK駐在員、このお二人とは何度も売り場で顔を合わせました。



私は10年間ブランド企業の経営者として本社の部下たちを連れてよく売り場を歩き、売り場における定数定量の問題点やマネキンの洋服の飾り方改善を口酸っぱく言い続けました。みんなかなりの年少で肉体的には私より相当勝っているはずなのに、連れて歩くと必ず私より歩くのは遅いし先にバテるんです。売り場を頻繁に歩いていない証明です。でも、一生懸命何かを吸収しようとハーハー言いながら私に付き合ってくれたものです。

VPのお手本として感心するブランド
(上)コムデギャルソン (下)マックスマーラ


しかしながら、近年売り場でアパレル本社の人間を見かけなくなりました。だからでしょうか、多くのブランドショップのVP、VMDは無茶苦茶、お客様に魅力的な飾り方をして足を止めるべきなのにこんなに汚いマネキンなら飾らない方がマシじゃないかと言いたくなる場面が増えました。はっきり言って売り場はどこも荒れていますね。

ビジネススクールはじめ各種教育機関の授業でも、個別企業の社内MD研修でも、これまで売り場視察の具体的方法やマーチャンダイジングの基本、VMDの重要性を多くの人に伝授してきましたが、残念ながら近年売り場は乱れに乱れています。ファッションビジネスの中心が店頭販売からオンラインに移行しているからでしょうか。

だからいま一度業界の責任者に申し上げたい。自ら売り場を歩いて、自社がどんなに酷い売り場運営をしているのか、ご自分の目で確かめてみては、と。もっと売り場を歩きましょうよ。





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Last updated  2024.06.29 17:10:44
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