つぁひ→た~く→らずぴぃのおへや

つぁひ→た~く→らずぴぃのおへや

そのなな ~ちょうりがっこう りょうり~

さて、音楽学部の仲間と涙ながらの別れをして、晴れて大学卒業を果たした私ですが、「手に職を!」をテーマに、調理学校に通う事になりました。

大学卒業は6月ですが、授業は4月に終了するので、終わったと同時に引越をし、その直後に授業が始まりました。

私が通った学校は短期集中コースのみで、月曜から金曜までの朝8:30から午後2:30まで。前半に講義、後半に実技です。実技で作った料理は自分たちが試食します。

さて、教授陣ですが、3人いらっしゃって、1人がイギリス人(一番偉い先生のchef Brian)、2人がフランス人(パリ出身のchef Patrice、モナコ出身のchef Walter)でした。この料理学校はもともとフランス料理学校で、3人とも10年以上の総料理長経験があります。chef Walterは私のことをとてもかわいがってくれました。色々な意味で(笑)。

初日というのはどこに行っても緊張するものです。
どんな人がクラスにいるのか、新しい友達はできるのか、クラスはどのくらい厳しいのか、等など、それなりに心配する事はたくさんあります。

この時点で私はカナダ滞在6年目。言葉の不自由さはなかったとはいえ、専門用語は全てフランス語なので、ある意味新たな挑戦がありました。(でもって大学でフランス語勉強しといてよかったよ<笑>)

友達作りの得意な私。初日にロッカールームの鍵を貰うのが一番最初にしたことですが、この時に私のすぐ前にいたアメリカ人の女の子と目が会いました。お互いにこっとしましたが、彼女は鍵を貰うとすぐにロッカールームに行ってしまったので、その場はそれで終わりましたが、私がロッカールームに行くと、彼女は制服(コックさんが着ているホワイトジャケットと黒いギンガムチェックのズボン)に着替えるところで、私のロッカーを確保していてくれました。

彼女の名前はJamie。その時から私と彼女はとても仲のいい友達になります。短大時代のSheilaghと同じく、Jamieと私はセットでした(笑)。

さて、授業は…というと、その日に作るレシピを基に、食材の事、ナイフテクニック、盛り付け方、その料理に合うワイン、料理に使う酒類の事、食べ方、などなど、1度にたくさんの事を叩き込みます。講義の時間に説明を受けたあと、実技では先生の実演を参考にしながら、1グループ3~4名でそのグループの人数分のコース料理を作ります。あらかじめ担当が決められていて、日によって前菜、メイン、デザートと担当が替わります。

chef Brianはイギリス人なので、とてもわかりやすいのですが、後の2人はバリバリのフランス語訛り。時々何を言っているのかわからず、皆で「…今のって×○×○だよね?」「多分ね。」などという会話がよく飛び交いました。

一番面白かったエピソードは、chef Patriceが、

"Bring some pepper, please."

と生徒の一人に頼んだところ、その生徒は先生の発音のせいでpepperがpaperに聞こえてしまい、ノートのページを破って先生に持って行ったところ、先生は激怒(笑)。

"NOT THE PAPER, PEPPER!!!!!!!!"

その生徒は最初何が何だかわからず、おろおろしていたようですが、他の生徒に指摘されてようやくわかったようです。生徒もかわいそうだけど、もっとかわいそうなchef Patrice… (笑)

そんな事を交えながら、授業はどんどん進みます。
とにかくきつい。料理をするとはこんなにきついものかと思いました。

中間試験では、筆記試験の後、ナイフテクニック(切り方)を一通り、料理の基本的なものを一定の時間内で作り終える、というものでした。

中間試験が終わると、今度は実技の時間に一人だけ先生に選ばれ、一定時間内にコース料理を作る練習をさせられます。コース料理は前菜、メイン、デザート。一定時間とはたしか1時間半から2時間だったと思います。これは本当に緊張します。自分だけ隔離されて他の人とは全く違う事をやらされ、作り終えた後先生に採点されるのです。

他の人は2回当たるのがほとんどでしたが、私はなぜか1回しか当たりませんでした。でも1回目の一番最後。泣きそうになりましたよ。だって、最後になればなるほどやらされることは前よりも難しくなっていましたから。この時の担当の先生はもちろんchef Walter。一番私をかわいがってくれた先生でございます。

さて、この練習、作るのは一人分です。全部一人分。出来た料理を余らせてはいけないのです。私がこの時作ったのは、サラダニソワーズ、子羊のロースト・パイ包み、ババロア。ローストの付け合せは自分で自由に考えられたと思います。

料理は好きだけれど、プロの料理は苦手な私。全部用意しておいて、最後の10分でプレッシャーに押されながら仕上げをする、というプロの料理は、私にとっては非常に苦痛でした。この練習はそういう意味ではとてもいい経験でしたが、やっぱり私には向いてなかったみたい。

chef Walterはちょこちょこ私の様子を見に来ては「大丈夫なのか?そんなことで。時間が足りなくなるぞ!」と檄を飛ばしていきます。んなことは言われなくてもわかってるんじゃ、と心の中でつぶやきつつ、「はーい、がんばってまーす」と答える私。結局採点の時に、「つぁひ、お前は料理には向いていないからこの道には進まない方がいい。」ときっぱり言われてしまいました。そうだよね~、私もそう思うよ。だって、制限時間過ぎちゃったんだもん(笑)。

でも、ババロアだけはとても褒めてくれました。
一口食べて、「んんっ?」
もう一口食べて「ん! とてもおいしい! もう一つ作ったか?」
えー、作ってませんよ~。だって、一人分しか作っちゃいけないって約束じゃないですか。そういうと、
「こういう時はね、黙って2人分作っておくの。そしたら僕が食べられるでしょ?」
だって。勝手な事を言ってくれます(笑)。

このあと、しばらくして私がフランスパンを焼く担当になった時、たまたま担当がchef Walterで、その時に偶然うまく焼けたので、
「つぁひ、とてもきれいに焼けたね。店に出してもいいくらいだよ。」
と褒めてくれて、この時にお菓子の勉強もするべきだ、と勧めてくれました。

この時chef Walterは何か言いたげだったのですが、言いかけた言葉を引っ込めて自分のオフィスに戻り、娘さん(当時1歳)の写真を眺めていました。後から知ったのですが、この時chef Walterは自分で新しく料理学校を設立する準備を進めていて、私に声をかけようとしたのですが、生徒を横取りする事になるので、その当時通っていた学校に訴えられる可能性がある、という事で、声をかけたくてもかけられなかった、という事でした。なんだー、知っていれば行ったのに。その気持ちだけでもありがたかったのですが…

ところで、chef Walterは褒める事はほとんどしない先生でした。実のところ、私は怒られてばかり。何かと呼び止められては檄が飛び、ちょっかいを出され、怒鳴られる事はしょっちゅうでした。

ある時、デザートを作っている時に、たまたま成り行きで私が皆の分を手伝う事になってしまった時、「そんな事を絶対しちゃいけない!」と物凄く怒られた事がありました。悔しかった私は思わずその場で涙を流してしまい、クラスのアシスタントが気を利かせて私をキッチンの外に連れ出してくれました。彼女もchef Walterには色々といわれたり、ちょっかいを出されたりして、皆のいないところで泣いてるんだ~なんて教えてくれました。

その日の終わりに小テストを返している時、私の名前が呼ばれて先生のもとへ行くと、
「つぁひ、どしたんだよー、泣いたりしてー。(と私を小突きながら)さっきは君の事を個人的に怒鳴ったんじゃない。皆に対して怒ったんだ。先生の立場として、あそこはああいうしかなかった。君だけが悪いんじゃないんだからね。」

と言ってくださいました。
きっと、いつも檄を飛ばしたり、ちょっかいを出したり、小突いたり、いたずらをしてきたのは、彼なりの生徒に対する愛情表現だったのかもなぁ、と今になって思います。…その割には、よくできる生徒はいつもえこひいきしてたけどなぁ(笑)。

さて、私がこのコースを始めたのは4月の終わり。このコースの終わりは8月の終わりです。7月に入るとさすがに暑くなってきます。キッチンの中は先生用のオーブンが2台、生徒用のオーブンは全部で9台、それプラスコンロが各ステーション(9ヵ所)付いていました。私のクラスは最初24名いたので、8ヵ所のステーションと先生用のステーションがフル活動。暑かった時は50℃近くまでになりました。 さすがに暑すぎて誰も食欲がなかったこともありました。

そんな事を言っている間に4ヶ月はあっという間にすぎます。
期末テストはお決まりの筆記試験に、ランダムに選ばれたメニューを時間内に作ること。もちろん3コース料理です。これまた緊張しましたね。今まで習った事全てを出しきらなければいけない訳ですから、プレッシャーもいつもの倍以上でした。

思ったよりも成績は悪くありませんでしたが、やっぱり料理の道には進まなくてよかったかもしれません(笑)。chef Watlerに言われたとおり、料理が終わってすぐにお菓子の勉強を始めることにしました。


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