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各駅停車にもかかわらず会社帰りや学校帰りの人々で車内はかなり混雑している。
私の隣の隣の隣に座っていた黒っぽいリクルートスーツの女性が老人に席を譲っていた。
「すいませんね~・・・」
「いえ、すぐ降りますから」
「ありがとうございます~・・・」
感心感心。東京にもまだ人の心を持った若者がいるとわかり気分を良くする。ナイス!!
発射時刻が間近になって私の右斜め前方に杖をついた老婆が現れた。
どうやら対面の席に座っている大学生風の若者に席を譲ってもらいたいようである。
ファミ通を読んでいる太め男子。おばあちゃんを見てみぬふり。
携帯メールを打っている地味な女子。おばあちゃんを見てみぬふり。
彼らも先ほどのミス黒スーツが老人に席を譲った現場を目撃しており、ここは譲る場面であろうことは理解しているはずである。が、おばあちゃんを見てみぬふり。
だが老婆に目の前に立たれるとさすがに気まずいのであろう。
ポチャ男のファミ通のページをめくるペースが速くなる。
地味子の携帯メールを打つ指も速くなる。
おもしろいのでしばらく見物する。
ポチャ男、ファミ通放棄。寝たふりを始める。
地味子の携帯メールを打つ指が高橋名人ばりに速くなる。
気まずさがピークに達した所で私が席を立つ。
「おばあちゃん、座ってください」
「あら、悪いねぇ~・・・」
車内の冷たい視線がポチャ男と地味子に注ぐ。
ふたりは気づかないふり。
私がにやにやしながら彼らに目を遣ると一瞬目線が合う。が、いたたまれず目をそらすふたり。
うっかり太陽の下に出てきてしまったダンゴムシのようにコソコソとした様子がたまらない。
「ありがたいね~。 地獄に仏
とはこのことですよ」
「そんな大げさなもんじゃないですよ。 あたりまえのことですから
」
ふたりをチラ見する。お、効いてる効いてる。ククク・・・。
「本当に、ありがとうね~」
「いやいや。おばあちゃん、 最初っから下向いてる若い子は絶対席なんか譲らないからね
。顔上げてる人の所に行かないと」
「そうだね~・・・」
ふたりに再び注がれる車内の冷たい視線。
針のむしろとはまさにこのことであろう。
あ~楽しかった。
ポチャ男は自分の降りる駅まで寝たふりを続けるしかない。ファミ通読めなくて可愛そう。ぷぷ・・・。
地味子は自分の降りる駅まで携帯メールを打ち続けるしかない。腱鞘炎になったりして。ぷぷぷ・・・。
そして私はおばあちゃんから森永キャラメルを4粒手に入れた。
まさに天国と地獄!!
お年寄りは大切にネ