南トルコ・アンタルヤの12ヶ月*** 地中海は今日も青し

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2005/01/07
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イェシム・ウスタオール(Yesim Ustaoglu)監督の『雲を待つとき』
いつも私たち家族の行く映画館は、近所のミグロス・ショッピングセンターの中にあるシネマ・サロンだが、ここでこの種のマイナーな作品を上映しているとは、考えにくかった。
念のため覗いてみたが、案の定。当然、今後の上映作品の中にも見つからない。

ふと思いついて隣のCD&ブック・ショップに入り、VCDの棚を探してみると、やっぱりあった。
監督の前作にあたる『太陽への旅(GUNESE YOLCULUK/JOURNEY TO THE SUN)』(1999)が。値段は11.25YTL(約870円)で、即決である。(国内のマイナー作品の価格は、大体こんなものである)
最新作を観る前に、まず彼女の出世作を観ておきたかったのだ。

GUNESE YOLCULUK


クルド問題という非常にデリケートなテーマを扱ったために、「状況がそれを許さない」とばかりに、配給の名乗りを上げる会社はひとつとしてなく、その年のベルリン国際映画祭で最優秀ヨーロッパ映画賞と平和賞に同時に選ばれるという栄誉を獲得したにもかかわらず、1年の間配給会社を探して歩いたというこの作品。
結局、自分たち自身の努力で公開にこぎつけたのが2000年3月。入場者は10万人を越えたという。

それから5年近くも経って、このような作品を鑑賞できるのもVCDがあるおかげ。


* * * * * *


たくさんの物売りで溢れるエミノニュ。そこでカセットの行商をするベルザンは、トルコ南東部イラク国境に近いゾルドゥッチ(Zorduc)という村出身のクルド人である。古ぼけた恋人の写真と恋人の名前を彫ったプレートをお守りにしながら、今日もエミノニュの波止場に立つ。

一方、イズミール近郊ティレ(Tire)の出身であるメフメットは、長いロート状の杖を使って漏水箇所を見つけ出すという少々変わった仕事についている。スルタナーメットの洗濯屋に勤めるアルズという恋人がある。

ベルザンとメフメットは、ある夜、サッカーの試合後に起きた喧嘩に巻き込まれたお陰で友達になる。
トルコの最南東部から来たクルド出身の男と、トルコの最南西部から来た、どんなクルド人よりクルド人らしい顔立ちをした青年との付き合いが始まる。

ベルザンは父親のことをメフメットに話して聞かせる。ある晩、警察に連れて行かれ、そして2度と戻らなかったと。なぜか?と問うメフメットにベルザンはこともなげに答える。そんなものなんだ。皆、連れて行かれ、2度と戻ってこない、と。
時代は、いまだクルド独立過激派とトルコ軍との闘いが続けられている頃。
毎日のように、テレビには小競り合いの模様が映し出され、ベルザンも一度警察に連行されたことがある。
クルド人と分かればテロリストと見なされるような、そんな時代だった。

ある夜、メフメットが自宅へ戻るために乗ったミニバスに一人の男が乗ってきて、メフメットの隣に座る。
警察の検問を察知した男は、銃をメフメットの座る場所に残して慌てて降りていく。おそらくクルド独立派かなにかだったのだろう。
しかし、嫌疑はメフメットにかけられることになる。彼はどこから見てもクルド人に見えるし、彼のかばんの中からは、ベルザンにもらったクルドのミュージック・テープが出て来たからだ。


「お前さんは、母親に似てるのかい、それとも父親に似てるのかい?ええ?」
取調官は、尋問するたびメフメットが答えるたび、いちいち彼の顔を打つ。
メフメットは、クルドでもテロリストでもないし、イズミールのティレ出身だと訴える。
「ほう~、トルコの地理をよく知ってるんだなあ」とからかってはいたぶる。
警察による尋問はやがて拷問にかわる。


何人もの同居人と一緒に住んでいた、騒音溢れる町工場の一角からも追い出され、仕事場からも解雇される。
ベルザンの紹介で駐車場の夜番に雇ってもらうが、そこもすぐに出て行かざるを得なくなる。
ドアに赤いペンキで書かれた大きなバツ印。まるでユダヤ人狩りの頃のようだが、おそらく「ここにクルド人がいる」「クルド人は出て行け」というサインになるのであろう赤いバツ印が、その後もずっとメフメットについて回ることになる。

メフメットは自分の顔を鏡に映してみる。頬のこけた細長く精悍な顔立ち。先の尖った高い鼻。浅黒い肌に黒々とした髪の毛や眉。
金になりそうなガラクタを集めるために通っていたゴミ集積場で、ペンキのスプレー缶を見つけた彼は、居候させてもらっているベルザンの家に持ち帰り、そのペンキで髪の毛を黄色に染める。
少しでも自分の容貌をクルドの特徴から遠ざけたくて。

まもなくベルザンは、クルド人と警官隊との抗争で帰らぬ人となる。
メフメットは、ベルザンの遺体とわずかな遺品を無理を言って譲り受け、故郷のゾルドゥッチまで送り届けることを決心する。
かつて働いた駐車場から、1台のトラックを盗み、ベルザンの棺を積み込むと、夜明け間近かのイスタンブールを後にして、東へと、太陽の登る方角へと、クルディスタン(クルド人の土地)へと向かう長い旅に出発する・・・・。

* * * * * *


映画の中には、いくつかのキーワードが繰り返し登場する。
そのうち最も印象的なものが、私には「キムリック(身元、素性、あるいは身分証明書)」であった。
自分の身元を証明できる唯一の書類(例えば、パスポート)を日常的に持ち歩く習慣のない日本人にとっては、キムリックの重要性、その効力を想像することは難しい。
しかし、トルコ人にとってのキムリックは、社会生活をする上で、まず第1に位置づけられるものである。
キムリックの提出は至るところで求められ、そして、そこに書かれた出身地によっては、トルコ人ならそれがどのような地域で、持ち主が大体どの民族に属するのかも分かるほどである。

映画でも、人々は常にキムリックを問われ、キムリックの提出を求められる。
その容貌から常にクルド人に間違われるメフメットも、キムリック、つまり自分自身が何者なのか、という問いをいつのまにか自らに問うようになったのだと思う。
ベルザンの亡骸を送り届ける旅は、実は自身のキムリックを探す旅でもあったのではないだろうか。彼がクルドの土地へ、その最深部へと近づいていくにつれ、自身がクルド人であるかのようにさえ感じ始めたように見えるのだ。少なくとも、自分の黒髪をもはや隠す必要のなくなった彼は、黄色いペンキをそこで初めて洗い落とす。
同時に、生まれながらにクルド人というキムリックを与えられた人々の現実と、クルドの土地に与えられた運命も、映画の最終章に向かって、抑えた筆致ながら次第しだいにつまびらかにされていく・・・・。

素晴らしい作品である。
一見して女性監督の手になるとは思えない、辛く苦い社会派の作品である。
取り上げたテーマや表現方法から、ユルマズ・ギュネイの影響を云々することもできるだろう。
しかし、ユルマズ・ギュネイ以降、この難しいテーマを取り上げた作品が他にたくさんあるとしても、この作品はぜひ一度観ていただきたいと思う。

最新作『雲を待つとき』が楽しみである。

* * * * * *


ところで、この映画『太陽への旅』は、以前日本でも公開されたことがある。
『遥かなるクルディスタン』というのが、そのタイトルである。
なんと、日本でもDVDで発売されているとのこと。
レンタル・ショップで見つかるかどうか分からないが、機会があったらぜひ観ていただきたいと思う。








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最終更新日  2005/01/11 12:49:39 AM
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