うりぼうず

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西洋史・・・


 19世紀半ば、鉄道の発達に加え、当時流行した禁酒運動、労働者階級の発生、中産階級の充実によって新たに生まれた団体旅行。まあ、禁酒運動は少し毛色が異なるが、大衆が発生したこの時代を象徴する一つのエピソードとつが団体旅行だ。この分野の先駆者であるトーマスクックの足跡を振り返るものだが、けっこう面白かった。貴族に限られていた、フランス、イタリア旅行が、徐々に中産階級に広がり、さらには万博見物に労働者までが行く時代。需要があったというより、むしろ需要を作り出したクックの先見性には目を見張るものがある。また、彼の場合、金儲けというよりも、当初は禁酒運動を広めるための手段として、のちには、さまざまな階層が世界への検分を広めることの異議などを説き、一種の社会運動的な側面も持ち合わせていたようだ。
 ついでに言えば、自分たちよりも下の階級が、かつて自分たちが独占していた観光地を訪れることに対する、貴族たちの反応。これなど、現代にもまったく同じものが見られる。
 そういえば、江戸時代も後期になると、伊勢神宮や富士講、善光寺など、庶民にも、旅行が広まったというが、その影には、御師と呼ばれる布教者?が、一種のツアーを組んで、伊勢参り、富士登山などを広めたという。
 これも一種の団体旅行。こちらの方が、性格は違うが、クックにかなり先行していた。
 この本でも、パレスチナ観光も流行するなど(こちらは、金持ちでないとできなかったが)、宗教的関心も、旅行ブームの一因となっているようだ。

 ★「スペイン女王イサベル~その栄光と悲劇」(小西章子、朝日文庫)
 カスティリアの女王イサベル。隣国アラゴンのフェルナンド2世と結婚して、連合国家スペインをつくり、レコンキスタを完成させ、さらにはその子孫からスペイン、ハプスブルクの双方の王(皇帝)となったカルロス5世の祖母にもなる人物だ。ヨーロッパの王位継承といっても、フランスなど女王を認めないなど、けっこう異なるものなんだと初めて知った。そのほか、乳幼児や産婦の死亡率の高さ、スペインの王室が首都を定めずに各地を巡回?していたことなど、「へぇ~」と言ったことが多かった。5人の子をなしても、唯一の男子は結婚後まもなく死亡し、皇太子妃に宿っていた赤ちゃんも死産、長女も最初の夫がすぐに死亡し、再婚したら、今度は本人がお産直後に死亡、さらにその子供も数年の命、次女はカルロス5世など多くの子を
なすが、本人は長生きをするが狂気の中に死んでいく。イングランドに嫁いだ4女は、ヘンリー八世によって幽閉され死亡。わずかに長女が嫁いだポルトガル王のもとで、三十五歳でなくなるが、7人の子をなした三女のみがそれなりに幸福だったという。
 それにしても、ヨーロッパの王族というのは、どんな基準で王族となっているのだろう。基本的に、血縁関係がモノを言うようで、継承権が重要視され、まったくその国の言葉がしゃべれないような人間が王位を継承したり。ローマ教皇庁の威光が作用するのか。
 どこかに、このへんをわかりやすく解説した本がないのだろうか。

 ★「イギリス王室物語」(小林章夫、講談社現代新書)
 王室ものが続く。それにしても、なんでイギリスの王様ってへんなのが続くのか。ハノーバー朝なんて、本当にロクなのがいないではないか(ビクトリアなんてのは、例外のようだ)。もちろん、この本はむしろヘンなのを集めたからかもしれないが。こんなヘンな連中を、なんで好き好んで、頭の上におきたがるのか。クロムウエルの共和政治があまりにもひどかったから、羹を吹いてしまっているのか。フランス革命の混乱をみて、他山の石としたのか。
 ヨーロッパの王室なんて、みんなそんなものなのであろうか。

 ★「物語 スペインの歴史~人物篇」(岩根圀和、中公新書)
 スペインの歴史を解き明かすのに、伝説的な騎士「エル・シド」、狂気の女王と呼ばれた「ファナ」、インディオの救済に努力した聖職者「ラス・カサス」、作家「セルバンテス」、画家「ゴヤ」、建築家「ガウディ」の6人を語った本。なぜ、この6人か。カスティリアとアラゴンの統一の立役者「イサベル」でも、フランコ将軍でも、コルテスやピサロでもなく。まあ、それは、日本の歴史を語るのに、数人の人間だけで語れるわけもないのと同様、筆者の趣味としかいいようもない。
 また、それぞれの人物のエピソードにしても、セルバンテスなど、その生涯を振り返るわけではなく、セルバンテスの家の前で発生した殺人事件の話を描くことで、作家の生きた時代背景のごく一部を照らし出す形をとっている。これも、なかなかおもしろいやり方。

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