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新東宝映画昭和31年(1956)「四谷怪談」より。
「隠亡堀のシーン」。伊右衛門の釣りざおに引っかかった戸板に姿を現わしたお岩様。
「顔のはれはどう ? 」開口一番心配してくれたのは実にありがたいが、問われたとたん、私は爆発的にゲラゲラ笑い出した。
彼女「何よぉ、どうしたってのお ? 人がせっかく心配してるのに・・・」当然だが、これには充分なわけがある。答えた。
「アハハハッ、アッハハハハッ、ハッハハハッ・・・」だめだ、答えようとしたがこのありさま。私は特技?の笑いながら飲み物を飲んだりしゃべったりする技術を使って、笑いながらしゃべり始めた。
「あのさあ、ハハハハッ、はれがハハハッ、出たり引っ込んだりウワッハハハッ、しやがるからね、アハハハッ、それにまだかゆいし、ハハハッ」これ、笑い声と話を分けて書くしかないが、実は同時にやっている。くどいから笑い声を省く。
「はれが今一(いまいち)凄みがないからさ、マジックの赤や青で久しぶりに鏡見ながら書き始めたの。それでさ、今鉄人ジオラマようやくぼつぼつ再開したからプラカラーあるの思い出してさ・・」
彼女「ひろちゃん、それで直接塗ったのぉ ! ? 」これこれ、自分だけ匿名にさせておいて、私の普段の呼び名使っちゃったら照れるじゃないか。って、自分から書いているから、ハハ、こりゃ自己顕示欲かな・・。
私「うん。でもさ、あんまり凄み出ないんだよ。でね、エスカレートしちゃってさ、夕べ遅くまで特殊メイクしたの」
彼女「もお、全く何考えて生きてるんだか・・。で、それで ? 」はい、よくぞ続きを聞いて下さいました。続けます。
私「造型用に液体ゴムってのがあってさ、これ乾くと本物のゴムになる。こいつをほっぺたに筆で塗ってさ、少し乾くまで待ってから、あ、ドライヤーも使ったけど、ちっと熱かったね」(行変え)
「それからプラカラーの赤や青や何色(なんしょく)か使って四谷怪談の写真見ながら塗ったの。でさ、まぶたの上ははれてなかったから、ここにも塗ったの、ついでに・・。俺、酒なしでも酔っ払えるって思ったよ。ハハ、かなりバカだね、これで50越してるんだから・・。
でさ、ついでに、唇のところも赤く塗って血に見えるようにしたよ。アハハハハッ」
彼女「あなた、際限もないバカね。わたし、将来のこと、考えなおそうかしら・・」
私「あ、そのほうがいいよ」
彼女「ん、バカっ ! 冗談ってのがわからないの ! ? ん、もお。それで何かいたずらでもしたの ? 」
私「違う違う、続きがあるんだよ。だから思い出し笑いしちゃったの」(行変え)
「俺、頭スポーツ刈りだろ。余り迫力ないんだな、せいぜいあんまの幽霊みたいで。で、長い髪の毛必要だと思ってさ、何とかならないかと考えて、これまた造型用に買っておいた黒の毛糸の太いのと細いので、突貫工事でカツラ作ってかぶったら、アッハハハハッ。凄み全然ないの。醜男(ぶおとこ)のオカマの醜い顔でさ・・・時間ムダにしちゃった」
彼女「それで、ゴムは取れたの ? 」
私「うん、はがすとスーッと簡単に取れるの。ハハハ、俺さあ、コスプレなんて全然興味ないけどさ、考えてみたら、そうだな、顔コスプレとでも言うのかな、けっこう昔からやって来たんだよ。また思い出しちゃった、これ書くと、怪談書けなくなるな」
彼女「もう、今朝はひろちゃんのバカに付き合うから、もっと顔コスプレの話してよ」
私「うーん。いろいろやったけど、まず月光仮面だな。何だか忘れたけど真っ白い手ぬぐいみたいのがちょうどあってさ、これ顔にぐるぐる巻いて、それからサングラスして、ま、月のマークだけは面倒だからやらなかったけどさ、たまたま家(うち)に来てた兄貴に見せたら、お前どうしようもないバカ野郎だな、ってめちゃくちゃに言われたっけ」(行変え)
「次はね、ほら真冬にバイク乗る時、ヘルメットかぶる前に顔にすっぽりかぶるプロレスラーのマスクみたいのあるだろ。あれの白はなかったから、こん色(いろ)のをかぶって、ああ、これね、もう傷んで使わなくなったやつだったから、顔が出るようにハサミでジョキジョキ切ってから、かぶったんだけどさ、それから針金曲げて頭にくっつけて、スーパージャイアンツやってみたの。それで鏡見てまたゲラゲラ笑っちゃった」
彼女「何で笑ったの ? 」
私「だってさ、若き日の宇津井健のりりしい顔だからかっこいいんだよ。それを、俺みたいな不細工男がやったら、てんで間抜け。ちょっと自己嫌悪になったな」
彼女「ふうーん。まだほかにあるの ? 」
私「ううーん。たいしたのやんなかったし、忘れちゃった」
電話会話これまでです。
では、これより怪談シリーズに入ります。今回語る怪談は、いずれ書こうと、とっておいた話だ。つまり私の選ぶ怪談話としてランクを作ったら上位にいれる現代一級の怪談ということだ。
これまた小松方正(こまつ・ほうせい)氏の「小松方正の霊界通信」からの物語だ。
昭和48年、香川県仲多度津郡にある満濃池(まんのういけ)で、殺人事件が起きた。小松氏の本文構成を変えて書いてみる。
死体は腐乱が激しく、性別が女ということ以外全くわからぬほどで、その顔も白骨化していた。復願法による肉付けが行なわれ、その写真が新聞に掲載されると、母親らしき人が名乗り出て、調べを進めるうちに、確かに復顔写真はその婦人の娘だと判明した。
被害者は岡山県生まれの29才のホステスで一年前に家出して以来、音信不通だった。
ところが被害者の身元判明との報道が行なわれた翌日、一人の中年男が警察に出頭した。かつて被害者と半年ほど同棲したことがあり、警察に協力出来るのではと言って来たのだ。実はこの男が犯人だったが、確かな証拠に欠けた。結果を先に言うと、男はホステスの女を殺し、死体をカーペットにぐるぐる巻きにしておもりをつけ、満濃池に沈めた。
死体は上がったが、男が沈黙を通せば迷宮入りになりかねぬ難事件だった。どうして男は出頭したか ? 以下は、それから四年後ホステス殺しの犯人として逮捕された男が語った話だ。
犯行後、男は殺した女の亡霊に悩まされるようになったという。タクシー運転手だった男は、客を乗せて己れが犯した殺人現場の満濃池近くまで行くことがあると、帰りには必ずエンジントラブルが起きた。ボンネットをあけると、「水が冷たい・・」という女の声を聞いた。ふと運転席を見ると、女が坐っている気配がした。
男はタクシー運転手をやめて職を転々としたが、ゆく先々で女の亡霊がついてまわった。
仕事は手につかなくなった。遂に八方ふさがりとなった男は、犯行から四年後に逮捕された。
直接の容疑は殺人ではなかった。まともな職につけぬようになった男が犯した詐欺行為だったが、取調べを進めるうち、結局別れ話のもつれから女を殺したことを自供した。
香川県はため池が多いことでも全国に知られる土地だ。周囲二十キロに及ぶ満濃池もその一つで、その昔、日照りに苦しむ民百姓のために、弘法大師が作ったと伝えられている。
昭和48年の夏は、酷暑が続いて池の水も干上がって、池の底が露呈するありさまだった。
この時、たまたま釣りに来た人が、水位の極端な低下で一匹も釣れずにいたところ、魚の代わりに、土砂にまみれたカーペットに包まれたひとかたまりのものを見つけ、包みを開けると、女の腐乱死体が出て来た。
満濃池
しかも、死体が発見されて警察に運び込まれた直後、この地方は突然の夕立に見舞われ、更に土砂降りの雨が三日三晩降り続いた。満濃池の水位はぐんぐん上がって平常に戻った。こうなってからでは、この広い池に死体を包んだカーペットを発見することは不可能となったはずだ。死体発見が旧暦のお盆の日、8月14日だったのも因縁めいている。
更に被害者の母親が警察を訪ねて来た動機が、奇怪な出来事をきっかけとしたものだった。高血圧のため、岡山県下の病院に入っていた母親は、ある日、湖で何人もの女が口々に助けを求めて悲鳴を上げているという不気味な夢に目が覚め、のどが渇いていたので、廊下の洗面所で水を飲もうと水道の蛇口をひねった。ところが水が出ない。仕方なく蛇口に口を近づけたとたん、「お母さん」と呼ぶ声が聞こえ、次の瞬間いきなり水がドッとほとばしり出て来た。自分を呼ぶ「お母さん」との声は娘の声に酷似していた。
ベッドに戻ってもなかなか寝つかれず、たまたま開いた新聞に、娘そっくりの復顔写真が載っているのを目にした。これら怪事の連続に、もしやと思って、翌日彼女は警察に行ったのだった。
復顔写真にも、なにゆえか偶然の一致があった。例え復顔に成功しても、普通それは顔形の想定というところまでだ。生前の髪型などは無論わからない。ところが、この時の復顔作業で無作為に選んで取りつけたヘアピースまでが被害者の生前のヘアスタイルと全く同じものだったことがのちに判明した。
豪雨が降る直前まで干上がっていた満濃池なればこそ、死体が釣り人に発見された。しかもその日はお盆の8月14日だった。また、折りしも死体発見から四年後の、年に一度の金毘羅(こんぴら)さんの大祭の日に、弘法大師生誕の地、善通寺の門前で、男は逮捕された。
殺されて冷たい池の底に沈められていた被害者の怨念が働いて、加害者の男の逮捕に至らしめたと推測出来るような、不思議な事件のてんまつだった。
これほど劇的に語られた話ではないものの、よく似た経緯を経てのち、事件解決となった話を私はもう一つ知っている。かいつまんで書いてみる。
あるお茶の水女子大生が、旅行をしてゆきずりの男に言葉巧みに誘われ、陵辱(りょうじょく)された末に殺されるという事件があった。
だがこの時も犯人逮捕につながる有力な情報や証拠が得られず、迷宮入りのおそれさえ出て来た。
事件が暗礁(あんしょう)に乗り上げて、いたずらに時ばかりが過ぎ行くと思われたある日、犯人と名乗る男が警察に出頭して来た。
男の話によると、夜ごと殺した女子大生の亡霊が現われ、ゆく先々につきまとい、とうとう恐ろしさから出頭自供決意したということだった。この自供の話は当時の読売新聞にも載った。
いつの世も、女の怨念は恐ろしいという教訓でもあろうか。
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