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アクシデント 6


女の声にドキドキしながらも、俺は動揺を隠すように女の顔を見ず、
湿布からはがしたフィルムをくしゃくしゃにしながら言った。
そして、確認しておかなければいけないことを女に聞いた。
「・・・泊まっていってもいいけど・・・やっぱり自分の家、思い出せないの?」
「・・・うん・・・私、どうしちゃったのかな。ごめんなさい・・・」
女はうつむいた。
「謝るのは俺の方だよ。ぼおっとしていて、本当にすみませんでした。」
「私こそ、不注意でした。覚えていないけど、なんだかあわてていた気がする。
道に飛び出してしまって。」
「君の家、事故を起こした辺りなんじゃないのかな。君の格好からしてさ。」
「うん。でも、思い出せない。ごめんなさい。」
「そっかぁ・・・困ったね・・・」
俺は頭をぽりぽりと掻いた。
女は黙った。
「・・・名前も分からない?」
「・・・・うん・・・」女は不安で泣きそうな表情をした。
胸が苦しくなった。
「明日、病院に行こう。今夜は泊まっていって。お風呂は・・・あちこち腫れてるから
入らないほうがいいかもしれないな。腹減ってない?」
「うん。空いてない」
「じゃあ・・・寝る?」
やっと収まったのに、なんかまたどきどきしてきた。
もしかしたら・・・いや、それはさすがにないだろう!・・・あはは・・・
「うん。」女はほっとしたように微笑んだ。

かわいい、と思った。やべぇな。

「布団、敷くよ。」そう言ってみたものの、2つの布団をどうやって敷こう。
部屋の端と端でもおかしいよな。くっつけすぎたら、嫌がられるよな。
「この人変なこと期待してるんじゃないかしら」なんて、思われちゃうよな。
どのぐらい離すのが自然なのか、俺は悩んだ。

悩んだ末、結局1メートルぐらいあけて敷いた。
ま、これぐらいが妥当だよな。
ほっと胸を撫で下ろした瞬間、いやいや、問題はこんなことなんかじゃないんだ!
これから一体どうしたらいいんだ。もしこの子の記憶が戻らなかったら?
俺は現実を思い出し、怖くなった。

布団をじっと見下ろし、黙って突っ立っている俺に、彼女が声をかけた。
「・・・どうしたの?」心配そうな声。
「あ、いや、なんでもない。とにかく、今夜はもう休もう」俺が努めて元気な声を出すと、
彼女は頷いてそっと布団に入った。
それを見届けた後、部屋の電気を消す。
俺も着替えもせず、そのままで床に就いた。


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