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アクシデント 9
体中の痛みと熱でうなされている彼女に、何度も病院へ行こうと言ったが
彼女はどうしても首を縦に振らなかった。
俺の買ってきた薬をとりあえず飲んで
布団の中でうずくまる彼女。
ずっと背中をさすっていた。
お腹が空いただろうから、玉子粥を作って食べさせた。
幼い頃熱を出すと、祖母がよく作ってくれたものだ。
「熱いよ」そう言って、スプーンですくってふうふう息を吹きかけ冷ます。
やっとのことで上半身を起こした彼女の口元まで持っていく。
スプーンにそうっと口をつける彼女。
ゆっくりと、スプーンを口の中に入れるさまは、
不謹慎だが、、、
色っぽい。
「熱くない?」
「うん。・・・おいしい・・・」弱々しく微笑む彼女。
思わず抱きしめたくなる。けど、こらえる。
なんか、自分の彼女みたいに錯覚してしまいそうになる。
不思議だが、こうしていることになんの違和感もない。
当たり前のような気がしていた。
「さっきより、だいぶ楽になった・・・」彼女は再び横になると、俺の顔を見て言った。
「そう?食べたのがよかったのかな」
「うん。ほんと、おいしかった。ありがとう」
「たいしたものじゃないけど」
「ううん、うれしい。ありがとう」もう一度言うと、彼女はそっと片手を布団から出して
俺の手を握ろうとする。
彼女の細くて白い指先に触れる。
瞬間的に俺の体に電気が走った。
俺は彼女の手を見つめながら、ゆっくりと指を絡める。
彼女は抵抗しなかった。
五本の指が、しっかりと組み合って
強く、手を握る。
昨日出会ったばかりなのに。
それもあんな形で。
でも、愛しいんだ。
どうしようもないんだ。
俺はこみ上げるキモチを持て余しながら、彼女を見つめた。
彼女も俺を見つめた。
「やさしいね」
「俺?・・・そんなことないよ。普通」
「そう?とってもやさしい」
「それはさ、キミが、、、」
彼女は俺の次の言葉を待っているようだった。
「キミが、そうさせるんじゃないかな」
「私が?」
「うん」
「だとしたら・・・」
彼女はそう言いながら、つないだ手を自分の方へ引き寄せる。
「うれしい」目をつぶって、俺の手の甲を頬に押し当てた。
キスしてもいいのかな。
いや、それはどうなんだ?
だって、こうして俺に甘えてるんだぜ。
そうなのか?心細いだけじゃねーか?
もう片方の手で、髪に触れてみる。
優しく、撫でてみる。
恐る恐る、顔を近づけてみる。
彼女は、じっとしている。
いいんだよな、きっと・・・
そういうことでしょ?
おれが覚悟を決めたその瞬間、彼女は頬に当てた手をぱたんと布団の上に落とした。
もう、寝息を立てている。
寝ちゃったよ。
寝てる隙に、キスしてもいっか!
そう思ったけど、やめた。
彼女の寝顔は苦しみから解放されて、安らかなものになっていたから。
そっとしておいてあげよう。
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