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アクシデント11


俺が箸を持つと、彼女はじっと見ている。
ちょっと緊張しながら、肉じゃがに箸を伸ばす。
口に運ぶ。
じゃがいもが、ほくほく。味も滲みていて、うまい。
「どう?」彼女が身を乗り出す。
「ん。うまい!」口を動かしながら、そう言うと
「ほんとに?よかった~♪」と、彼女は嬉しそうだ。
「照り焼きも食べてみて」
「うん。君も食べなよ」
二人してテーブルを囲む。
なんだか、新婚みたいだ(笑)
「ササキさん、朝あんなに買って来るんだもん。食べきれないよ。」彼女が笑う。
「ああ、そう思ったんだけど、何を食べたいかわからなかったからさ。」
「嬉しかった。ありがとう。」
「ううん。」

そういった後、俺たちは黙った。
何を話したらいいんだろう。
「テレビつける?」俺が聞く。
「ううん。いい。」
「そっか」
また沈黙が続く。もくもくと食べる。
「おいしいよ、とっても」
「そう?明日は何が食べたい?」
彼女が嬉しそうに聞いた後、突然何か思ったように、箸を置いた。
「ササキさん」
彼女がうつむきがちに、あらたまって俺に話しかけるので
俺も箸を置いた。
「なに?」
「もうちょっと、ここにいてもいい?」
「・・・いいよ。」
「ほんと?」彼女が俺の方を見る。
「うん。記憶が戻るまで、ここにいていいよ。俺はかまわないから、心配しなくていいよ。」
「・・・ありがとう・・・」
彼女はほっとしたように、また箸を持って食べ始めた。

ー記憶がもどるまでー
記憶は戻るのか。
戻ってしまうのか。
俺は、そんなことを思い始めていた。

「それとね、、、」彼女が恥ずかしそうに小声で言う。
「なに?」
「今日、お風呂に入ってもいいかな、、、」
「・・・あ、そうだね。うん、入りなよ」
「ごめんね」
「なんで?謝らなくていいよ。2日も入ってないんだから気持ち悪いよね。
そうだ!飯食ったら、君のものを買いに行こう。服とか、・・・下着、、、とか・・・」
「うん。」
彼女は照れたように笑った。


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