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アクシデント20


さすがに「いってらっしゃいキス」はないものの
同棲してる恋人同士みたいだ。

「今日は何時ごろ帰るの?」
「う~ん、夕方会議があるから7時ごろかな」
「じゃあ御飯作って待ってるね」
「うん。行ってきます」

お弁当も毎日作ってくれる。
出し巻き玉子や、唐揚。前の日の残り物を工夫したり、彼女は料理上手だ。

ある日彼女はバイトを決めてきた、と言った。
夕飯時のことだった。

「バイト?」
「うん。商店街のお惣菜屋さん。お店の奥さんと仲良くなって。
仕事探してるって言ったら、うちで働かないかって言ってくれたの」
「仕事探してるって言ったの?本気で働く気?」
「うん。だって・・・」彼女は申し訳なさそうに言った。
「居候だから、、、」
「そんなの気にしなくていいよ。1人から2人に増えたって生活費はたいして変わらないよ」
「でも、お昼間、暇だし」
「だって、履歴書とかどうすんの?記憶・・・」そこが気になった。
「明日からでも、おいでって言ってくれてるの。特にそういうのは持って行かなくていいみたい」
彼女は無邪気に喜んでいる。
「う~~ん・・・」俺は微妙だった。
彼女を外に出すのは、なんだか気がのらない。
俺の、この部屋に匿っておきたい。そんな気持ちだ。

「名前」
「え?」
「名前、どうすんのさ」俺は彼女に聞いた。
「適当に名乗るよ」
「どんな名前にするの?」
「どんな名前がいいと思う?」彼女は楽しそうに笑って訊く。
「う~ん、、、わからないな」
「コウヘイさんに名前、決めてほしいな。私に似合う名前」
「そう言われてもなぁ。・・・難しいよ」
「ササキって名乗ってもいい?」
「・・・どうなんだろう・・・」
「だめ?」
「ダメじゃないけど・・・」
「コウヘイさんの好きな花の名前とかは?」
「う~~ん・・・好きな花、ねぇ・・・」
「ねえねえ」彼女はおどけて覗き込む。
「花の名前なんて、知らないんだよなぁ。バラとかユリぐらいしか」
「じゃあ、ユリコはどう?」
「いいね」
「ほんと?!!じゃあ、『ササキユリコ』に決まりね♪」
彼女は本当に嬉しそうな顔をして、笑った。
自分の存在を、確認できたかのように。

『ササキユリコ』か。
彼女の白い肌と清楚な雰囲気に、ぴったりな気がした。

外見は清楚だが、妖しく惑わせるような香りを放つ、白百合の花。
まさしく君は、そういう女だ。

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