non title

non title

玲子7~ゲームの後で~


そうして慎司は、すでに小さくなった私の氷をくちびるから吸い取って、自分の口に含んだ。
「玲子ちゃん、よくできました」そう言ってにっこりと嬉しそうに笑った。
「おい、やりすぎだぞ」北山が、慎司に真面目に注意する。

その時、慎司のシャツの胸ポケットから、携帯の呼出し音が鳴った。
すかさず取り出して画面で相手を確認すると、「ちょっとごめん」と言って慎司はすぐさま部屋を出た。
取り残された北山と私は、急にしらふに戻ったようにバツが悪かった。
「酔っていたからとはいえ、悪ふざけが過ぎました。瀬川も今夜は酔っ払っていたのかな、
調子に乗りすぎたみたいだ。久賀さん、ごめん」
「私も酔ってしまって、一緒になってゲームを楽しんじゃいました。だから、気にしないでください」
北山がすまなそうに謝るので、私は笑ってそう言い、明るく振舞った。
それより・・・慎司は誰と電話をしているのだろう。
そこへ慎司が、席に荷物を取りに戻ってきた。
「申し訳ないけど、先に帰るよ。悪いね」
「いや、オレ達も出るよ。いい時間だしな。ね、久賀さん」北山がそう言って、私を目で促した。

店を出ると、少し風が強くなっていた。
「週末は、雨かな」北山が空を見上げる。
「じゃ、オレはここからタクシー拾うよ。北山、悪いけど玲子ちゃんを駅まで送って。
玲子ちゃん、おやすみ~」慎司はそう言って、道路の逆側へ渡った。
手を上げてタクシーを拾う。
「ああ。じゃあな」北山もすぐにタクシーを止めたので、私たちは乗り込んだ。

「瀬川さん、奥様に叱られちゃったのかしら」私は北山に尋ねた。
「いや、たぶん・・・彼女だと思うよ。大抵週末はデートなのに、今日は遅くまで飲んでたから
呼び出されたんじゃないかな」
「まあ、そうなの。奥様、よく気づかないわね。」私は初めて聞くようなふりをした。
「う~ん、どうだろう。気づいているけど、アイツには強いこと言えないんじゃないかな。
アイツはわがままなヤツだからね。やりたいようにやってる」北山が、ちょっとうらやましそうに笑って言った。

ふうん、そう。自分に惚れきっている奥さんを我慢させて、やりたい放題ってわけね。

「遅くまでつき合わせちゃったね。もし・・・」北山が、私を見つめて言う。
「もし、久賀さんが今夜の悪ふざけを許してくれるなら、また食事にでも誘いたいんだけれども。
今度は瀬川抜きで。」そう言って、やさしく微笑む。
「どうかな」
「ええ。楽しみにしています」私も微笑み返して、北山の差し出した名刺を受け取った。
携帯電話の番号が載っていた。



© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: