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玲子9~唇~


駐車場で車に乗り込むと
「時間大丈夫なら、夕飯でも食いにいく?」慎司が誘ってきた。
「ええ。おなか空いちゃったわ。」私が笑うと
「玲子ちゃんの無邪気に笑った顔、いいよね」と、愛しそうに見つめてきた。
そして、顔を近づける。
「だめ、よ・・・。」
「どうして?」
「誰か会社の人に、見つかるかも・・・」
「これだけ広いんだもん、大丈夫だよ。」そう言って、片手で私の肩をシートに押し付ける。
同時に体も押し付けてくる。くちびるをそっと合わせようとした。
「だめよ。だめ・・・」抵抗する気もないのに、口ではそう言ってみる。
その方が効果的だから。
「したいんだ・・・キス・・・」慎司の息が、近い。
ああ、また、あの「匂い」を、強く放ちだす。

ん、ん。
一旦くちびるを離して、アタシの目を見る。

アタシは、慎司にどう映っているのだろう。
アタシの瞳は、もう、潤んでしまっているのだろうか。

「玲子・・・ちゃん・・・」
もう一度、今度は少し開いたくちびるを寄せてくる。
ちゅ、と吸った後、舌を入れられる。
ああ、いい・・・たががはずれてゆく・・・
慎司の首を両手のひらで撫でる。首筋から、頬に、移動していく。
慎司の顔を引き寄せて、もっと欲しい、とせがむ。
首を少し傾けて、貪欲に慎司のくちびるを味わう。
アタシからも、舌を絡ませる。
舌先をゆっくり回して、慎司の舌をいじる。
ぺちゃぺちゃと、いやらしく音がする。
やわらかい慎司のくちびるは、欲情してあつく熱を持ちだす。
この辺で、お預けにしなきゃね。
アタシは、顔を離した。
「ねえ、なにか食べに行きましょうよ」にっこりと微笑むと
名残惜しそうな笑顔を返し、しかたなく慎司は車のエンジンを掛けた。
空は、夕焼けで赤く染まっていた。


会場近くのレストランに入って、私たちは食事を摂った。
先ほどのキスのことなど気にもしていないそぶりで、私たちは仕事の話を始めた。
「この会社に定年まで、しがみつく気はないんだ。将来やりたいことがあるんだけど
そのためのノウハウをここで学ぶのはちょっと難しい気がしてる。」
「転職するの?」
「35までには考えなくちゃとは思ってる。玲子ちゃんは?」
「私?」
「結婚とかさ、考えたりしないの?彼氏は?」
「そうねぇ、たいしてしたいとは思わないわ。特定の彼も、今は欲しくない。縛られたくないの」
「へぇ。」興味あるなぁ、とでも言いたげに、慎司の目が輝きだす。
「年頃なのに、珍しいね。じゃあオレなんか、絶好じゃない。どう?」身を乗り出す。
「そうねぇ。考えておくわ」私は笑ってごまかした。
「なんか、相性いいような気がするんだよね、オレたち。さっきので確信しちゃったよ。」
「さっきのって?」私はとぼけてみせる。
「そう思ったの、オレだけ?」慎司が笑った。


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