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玲子44~くちづけ~


部室の隣の会議室に通される。
椅子に座るように促された後、部長から話があった。
尚子が言っていた通り、10月1日付で正社員に登用されるという内容だ。
「久賀君は9月末で派遣の契約が終了するね。社内で検討した結果、
10月からうちの正社員として迎えることになったんだが、異議はないよね?」
「はい。」
「瀬川主任からも君の仕事ぶりを聞かされていたし、私が見ていても
君は気配りができていてヒューマンスキルも高い。仕事も速くて正確だ。
こういったケースは稀だが、満場一致で決定したよ。」
「ありがとうございます。」
「うん。君とこれからも仕事ができて、私もうれしいよ。
今後は当社の一員としてより一層がんばってもらう。
今以上に責任ある仕事を任せていくつもりだ。
瀬川主任の強い推薦もあってのことだから、彼にも一言挨拶をしておいてください。」
そう言って部長は席を立った。

慎司の強い推薦・・・。
慎司は否定していたが、私を推してくれていたのだろうか。
私情を挟むことはない、と言っていた。私の仕事ぶりを評価してくれたのだろうか。
大手のアパレル会社に派遣社員から正社員に登用されることは
確かになかなかあることじゃない。これからは広報の仕事を本格的に学べるチャンスだ。

席に戻ると、瀬川が電話を終えて話しかけてきた。
「部長から話?なにか言われた?」
「はい、10月から正社員として雇用していただけるそうです」
「そう。よかったね」にっこりと微笑みかける慎司。
急に、私の心がざわめく。慎司に抱かれたい衝動に駆られた。
「お話があるんです。ちょっといいですか?」

先ほどの会議室に慎司を呼び出した。表示を「使用中」にしてドアを閉めた。
「どうしたの?」慎司が聞く。
「部長から、瀬川さんの強い推薦があってのことだから、挨拶をしておくようにと言われました。
ありがとうございます。」
「いいえ、僕のおかげじゃありませんよ」慎司は笑って言う。
「でも、私を評価してくださったんでしょう?部下として」
「もちろんですよ。久賀さんはめったにいないサポート上手だ。
これからは君自身が主導する仕事をしていけるようになる。
自分で判断して、動いていかなければならない。
もちろん僕も今までどおり相談に乗るつもりだけど、会社からは今以上に
結果を期待されるようになる。だから、がんばって」
「はい。・・・瀬川さん・・・」
「ん?」
私はうつむいたまま、慎司にささやいた。
「キスして・・・」

少しの間があった後、慎司は優しく呟いた。
「いいよ。」
慎司が近づいてくる。
私の心臓が、高鳴る。まるで、ウブな中学生みたいに。この私が。
慎司の手のひらが、私のほほに触れる。
私の鼓動が速くなって、慎司の顔が見れなくなる。
目をつぶったまま、ゆっくりと顔を上げる。
慎司の唇が、そっと私の唇にあたる。私は動けない。じっとしている。
「久しぶり・・・玲子の、くちびる」慎司の声が、甘い。
唇を離して、顔のそばで囁かれる。それだけで、濡れてくる。
もっと、もっと、して・・・。
私がそう言葉にしなくても、慎司は私の匂いを嗅ぎ取る。
もう一度、唇を開いたまま充てて、舌先を入れてくる。
私も耐え切れず、舌を絡み付ける。
どくんどくん、と、感じる。
このまま、されたい。
私は、慎司の腰に手を回した。

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