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SENPAI　16

そこに座って、一緒にテレビを見る。
気が向いたら先輩にキスをして、またテレビを見る。
ビールやバーボンを２人で飲みながら、スナック菓子やナッツをつまむ。
時々先輩の口に放り込んであげる。そんな、なにげない夕暮れが好きだった。
ベッドで先輩に抱かれた後、ハダカのままふたりして、じゃれあう。
頬をつねったり、脚を絡めたり、唱をうたったり、昔話をしたり。
そんな時でさえ、ぴったりとくっついて、離れないでいる。
そんな、ゆるやかな夜更けが好きだった。

２人だけでいたかった。それだけでよかった。
この部屋が、私たちだけでいられる隠れ家。
でも・・・今ひとりで見渡すと、なんて寂しい場所なのだろう。
このままここにいたら、先輩を、そして自分を見失うのかな。
ここにいたら、いけないのかな、私。
ぽろぽろと、涙が頬をつたう。
自分でもどうしようもできない、胸の中のたぎる想いは、すでに私にとって苦しみになっていた。
そんな想いから逃れたい。
解放しなければいけない、先輩のことも、私自身も。
すべてを焼き尽くす前に、私から。

一人でいると寂しさに押しつぶされそうな私は、
昔の友達に連絡を取って、夜な夜な遊びまわった。
ダンパ、合コン、ドライブ・・・他の誰かといることで、先輩への想いを中和しようとしていた。
ほんとうに好きではない相手など、どうでもよかったから、駆け引きしては残酷に切り捨てたり
切り捨てられたりして、こころは荒んでいった。
そんなことを続けるのもうんざりだったけど、一人でいるよりはましな気がした。

当時はまだ携帯電話など普及していなかった。
携帯電話というツールは、この世の中の恋人達を少なからず救っていると思う。
声を聞かせること、連絡を取り合うこと、それが２人にとって何よりも大事な瞬間があるはずだ。
言い換えれば、その機会を逃した２人は、元には戻れない距離に遠ざかることもある。
私は、先輩の声を聞いたり、顔をあわせるのが怖かった。
きっとまた、私は先輩のもとへ走ってしまう。
同じことを繰り返して、いつしか先輩に疎んじられるようになる。
それがたまらなく怖かった。
連絡をとらないでいることが、結局は私たちの溝を深めていくことに、
愚かにも私は気づかなかった。

私が遊び歩いていることは、すでにサークルで噂になっていた。
カナコは私から話があると思い待っていたものの、一向に連絡がないので痺れを切らして
電話をしてきた。
「サークルにも顔を出さないし、授業もサボるし、なにやってるのよ、アンタは。」
「ごめんね。」私は、力なく謝った。
「どうしちゃったの？先輩と、うまくいってないの？」
「ここのところ、連絡してない。私がいない時に何度か電話があったみたいなんだけど」
「私、Ｗ先輩と別れたんだよ。兎に話したかったけど、いつもいないんだもん」
カナコは寂しそうに言った。
「ほんとに？いつ？」
「２週間ぐらい前かな」
「どうして？大事にしてくれるって言ってたじゃない」
「大事にしてくれたよ。とっても・・・」カナコは苦しそうに話した。
「でもね、大事にされればされるほど、優しくされればされるほど、辛くなってきたの」
「辛くなってきた？」
「うん。私きっと、Ｗ先輩のこと、ホントに好きじゃなかったんだよ。
だから、辛くなってきちゃったんだ」
「・・・そっか」私は言葉につまった。
カナコは、本当はＫ先輩がずっと好きだったのかもしれない。Ｗ先輩と付き合うと決めた時も。
でも、それは聞けなかった。
「だからね、うさぎ。Ｋ先輩が自分にとってホントに好きな人なら、大切な人なら、
離れちゃダメだよ。そういう人には、なかなか巡り会えないものなんだよ」
「・・・」
「離れていたら、終わっちゃうよ」
カナコ、でもね、私、不安なんだ。先輩の行く先に、私はいるのかなって。
ハタチそこそこの私たちにとって、未来はまだあまりにも不透明で、なんの確証もない。
約束させることはできない。口に出せないほど、遠くて重い・・・そんな気がするから。

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