non title

non title

ヒトヅマ☆娼婦 8


近所の病院で健康診断を受けた。
健康診断なんて何年ぶりだろう。
HIVやB型・C型肝炎の血液検査もあった。
産婦人科に行くのは気が引けたけど
婦人科系の項目もあったので
しかたなく受けた。
初めて座った産婦人科の分娩台。
複雑な心境だった。
他人に見られるのって、やっぱり恥ずかしい。
先生が女の人でよかった。

1週間後、結果をもらいにいった。
自覚症状はなかったけど
やっぱりどきどきした。
結果は、すべて陰性だった。
「異常なし」の診断結果が誇らしかった。
すごくほっとした。
こんな機会がなかったら
調べなかったことだし
自分の体のことがよくわかったから
水島さんに感謝しなくちゃ、と思った。
やっちゃんにも報告しなくっちゃ。

これで自信を持って、契約書にサインできる。
サインした契約書と健康診断書を持って
水島さんに会いに行った。


「お疲れ様」水島さんはコーヒーを飲みながら
受け取った契約書と健康診断書に目を通した。
「ここに僕がサインすれば、君との契約は成立だね。」
そう言ってテーブルに契約書を置いて
水島さんはペンでサインした。
「あらためて、よろしく」にっこり笑うと、右手を出した。
「よろしくお願いします」私たちはテーブルの上で握手した。
「健康診断の領収書は?」
「え、ないです」
「そう。幾らだった?」
「えっと、1万2千円かな。」
水島さんは胸ポケットからカードケースみたいなものを取り出した。
開けると一万円札が、たくさん挟まっていた。
水島さんって、やっぱりお金持ちなんだ。
その中から1万円を抜き取り
スラックスのポケットから千円札を2枚出して
水島さんが、あたしに渡した。
「取っておいて」
「・・・はい」
あたしは素直に受け取った。

あたしは話すこともないので、アイスコーヒーのストローに手を伸ばした。
「今日はこれからまだ時間ある?」水島さんが訊いた。
「はい」
「じゃ、詩埜のカラダを見せてもらおうかな」
水島さんのメガネの奥の瞳が力を持って
あたしを見つめた。

『水島さんの愛人になる』
その意味が、リアルさを増して迫ってきた瞬間だった。








© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: