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ヒトヅマ☆娼婦14


アパートの階段を上がって 玄関のドアの前で
あたしは大きく息をついた。
「・・・はぁ~・・・」
なんだか、とっても疲れちゃった・・・。
ドアを開けると、やっちゃんがキッチンに立っていた。
「あ、おかえり~」
こちらを向いて、にっこり微笑む。
やっちゃんのその笑顔に、帰ってきた~って感じになって
一気に癒される。
サンダルを脱ぎ捨てて、やっちゃんの背中に抱きつく。
顔をごしごしと、やっちゃんの背中にこすりつける。
「あは、どうしたの?しのちゃん~?」
「ううん、なんでもない。やっちゃんが、すきなだけ。。。」
あたしはごしごししたままで、言う。
「しのちゃんの好きなオムライス作ってる。うれしい?」
「うれしい!」

やっちゃんとあたしは、同じ中学。
やっちゃんは1コ上だったけど、近所だったから顔は知っていた。
当時やっちゃんはひとつ上の先輩と付き合っていた。
校内でも評判の、美男美女カップル。
やっちゃんはその頃から控えめで無口だった。
友達と群れることをしなかったから、いつもひとり。
ちょっと近寄りがたい存在だった。
やっちゃんの彼女はブラスバンド部に所属していて、静かな感じのひとだった。
そのひとが通るといい香りがそこに残るような、女らしくて色気のあるひとだった。

その人が高校に進学して、やっちゃんが中三だった夏休みのこと。
やっちゃんの彼女が自殺した。
橋から身を投げて、死んでしまった。
妊娠していたという噂が後から流れた。
相手は彼女の高校の男子ではないかといったことも。
やっちゃんの耳にも入ったに違いなかった。

彼女のお葬式の日
やっちゃんを街で見かけた。
ひとりでいた。
「お葬式には行かなかったんだ」そう思った。

やっちゃんが中学を卒業してから
ほとんど会うことはなかった。
その後東京の専門学校に進学したと聞いた。
東京で偶然やっちゃんに会うまで
私はひそかにやっちゃんにあこがれていたにもかかわらず
やっちゃんのことを、すっかり忘れていた。

一緒にいるようになってから、やっちゃんに彼女のことを聞いたことは一度もない。
やっちゃんがHできないのは、そのことが原因なのかなとかって考えたりするけど
やっちゃんはやさしいし、あたしのことすごく好きだし
あたしもすごくすきだし
だから、Hなんかしなくたっていいし
あたしはそう思っていた。





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