自宅で逝くということ~その2~




はっきり言って、それまでの私の技術でできる事はほとんどありません。


その時、私がやった事は。。。






お腹には腹水がパンパンに溜まっていて、体を起こす事も出来ません。


黄疸も出ていて、手足や目は黄色くなっています。


そんな状態で私に出来ることは、とにかくこのお父さんの苦痛を少しでも和らげる事でした。


(なにしろ私は超能力も持っていないし、治らないものを治せるなんて言う口先だけのペテンもありませんから。。)


先ずは足の裏にひましオイルを塗ってからツボを押す、足裏療法を行いました。


これは下肢の血行を良くしてむくみを和らげてあげるのと、内臓の働きを良くしてあげて肝臓の負担を少しでも軽くしてあげる事が目的です。


次に、肩と背中をマッサージします。

これは、少しでも体を楽にするためですね。



そして、それからですが『ビワの葉のお灸』をしたんです。


この施術には、実は少しの希望を持っていました。



私が自然療法の勉強をしていた『あなたと健康』という食事と自然療法の教室では、このお灸でガンが良くなった(消えたり小さくなったり)という症例がたくさんあったんです。


そこで、そのお灸を家族に指導して、毎日やってもらう事にしたんです。


私の妻が、実は小さい頃から重度のアトピー性皮膚炎で苦しんでいて、このお灸を勉強していたのが、ここで生きてきたんです。


私にも、まさかそんなお灸でガンが治るとは半信半疑でした。


でも、医者に見放されてしまった状態で出来ることはそれしかなかったんです。


何度か私や妻が指導に行き、娘さんやお孫さんが一応施術できるまでになったんです。


本当に感心したのは、そんなご家族の献身的な態度でした。


娘さんは仕事を休み、毎日足裏マッサージとビワの葉のお灸を欠かさずにしてあげていました。


その外にも、生姜の湿布やコンニャクの湿布などもしてあげていました。

(自然療法というものはシンプルだけれどもとても奥が深いんです)


それまで、病人は病院に入院させて医者に任せっきり、というのが当たり前だと思っていた私には、そんな態度がとても感動的でした。


また、うちに来院される他の方からの縁で自宅に往診してくれる先生を紹介できたのも幸運でした。

(知ってました?医者の診療無しで自宅で亡くなるとどんなに病気であっても、警察が事件として介入してくるのを。。)



そんなご家族の懸命なお手当てにも関わらず、徐々に体力は確実に落ちていきました。


8月の暑い晩、往診すると腕から栄養剤を点滴していました。


本人は、もうできれば積極的な治療はせずに、少しでも楽な状態でいたい、という思いだったのですが、親戚の方が「もっとちゃんと治療しなくてはいけない」と説き伏せて点滴をさせたそうです。


(いつもそばで看病しているご家族はお父さんの気持ちを尊重してあげたかったのにね。。)


「先生、もう本当はこんな事しないで、少しでも楽になりたいんだよ」


そんな言葉を聞いたのが最後になりました。




それから数日後、娘さんからお父さんが亡くなったという電話をいただきました。


「少しでも楽に逝きたい」、という言葉とは裏腹に「まだ死にたくない」と最後まで言っていたそうです。



本人にしてみればまだまだ無念があっただろうけれども、最後まで家族に手当てをしてもらいながら、自宅で看取られながら旅立つ事が出来たというのはなんて幸せなことなのだろう、と思わざるをえませんでした。


病院で働いた事があるのですが、そこは姥捨て山のようでした。

(表現は悪いですけど、本当にそう感じました)



(こんな風に自宅で家族に看取られながら、旅立つ事が私にも出来るのだろうか?)


それは今でも自信がありません。



「父もお灸や手当てをしてあげると、とても体が楽になると喜んでいました。先生に教えていただいたお陰です」


娘さんにそんな風に言っていただいたことが、無力感の私にとっての救いでした。



これが、このお父さんの人生の終焉の時にご縁のあった一場面です。




この話しには後日談があるんです。


お父さんが亡くなってからしばらくして、階段や廊下から「オホン」という、はっきりとお父さんの声だと分かる咳払いや声が何度も聞こえたんだそうです。


奥さんは怖がって娘さんの家に泊まりに来ていたほどです。


この世に未練を残していると、なかなか旅立てないのかも知れませんね。


そんな不思議な現象も自然と消えていったそうです。


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