現代日本クラシック界が世界に誇る作曲家、吉松隆。難解な現代音楽を否定し、「世紀末叙情主義」を提唱。その美しいメロディーラインを認められ、日本人初のCHANDOS(シャンドス)レーベルのレジデンス・コンポーザーとなり、現在その全ての管弦楽作品の録音が進んでいる。作品は交響曲、協奏曲、管弦楽曲・ピアノソロ曲等多岐に渡っている。
私はピアノ協奏曲「メモ・フローラ」を聴いて彼の作品の信望者になりました。西洋の作品には決してない、たおやかな美しさ。確かなクラシックのテクニックに裏打ちされてはいるけれども、確かに日本人の琴線に触れるメロディ。圧倒的な迫力と静かな祈りが同居する交響曲。いずれも素晴らしい作品ばかりです。このコーナーでは、彼の作品でCD化されているものを紹介していきたいと思います。
1990年作曲。記念すべき第一交響曲のタイトル、「カムイチカプ」とは、アイヌ語でカムイ(神)のチカプ(鳥)という意味。
第1楽章.GROUND 発生し増殖してゆく歪(いびつ)なるもの。
第2楽章.WATER 古風なる夢を紡ぐ優しきもの。
第3楽章.FIRE 破壊しながら疾走する凶暴なるもの。
第4楽章.AIR 死せるものたちを思う静かなるもの。
第5楽章.RAINBOW 虹と光を空に広げる聖なるもの。
という全五楽章からなる壮大な音の絵巻。吉松は36歳でこの交響曲を構想した際に、それまで自分の中に蓄積されていた様々な楽想をこの曲の中で披露して見せた。暴走、静謐、祈り、高揚・・・後々の吉松メロディーの原型が全て、既にここにある。カップリングの 「鳥と虹によせる雅歌」
も静かで美しい作品。
この曲では、アジア、西欧、アフリカでのレクイエムを意識したとされている。と言ってもそれは悲しく寂しいものだけではなく、死からの再生を祝う強烈なリズムも伴っている。
1. 挽歌...東からの
アジア風の旋法と旋律の堆積による挽歌。
2. 鎮魂歌...西からの
ヨーロッパ風の死者のためのミサ曲
3. 雅歌...南からの
アフリカ風の律動による軽やかな雅歌。延々と繰り返されるリズム上でアレルヤの歌声が増殖してゆく。