Привет с России

【音の無い世界 その9】



【音の無い世界 その9】

バザール1


 イワンとのマンツーマンによる手話の勉強により徐々に語彙が増え、より聾者とのコミュニケーションが楽になってきたのではないだろうか。そんな気がしてきた。でもこれは学んでいる側の感覚であって、実際には他の聾者と覚えたての手話で話したら殆ど通じない、相手に分かってもらえなかったというケースが幾つもある。だから自己過信は禁物だ。ではあるがやはり自分がどこまで進歩したかを試してみたいものである。だからその事をイワンに相談してみた。彼はЮ者が飲み込みが早くて大分手話が上達してきたから、そろそろ他の友人達を紹介しても良い頃かな…と言った。何人かの友人達の都合を聞いて、それから彼らと会える様に取り計らってくれるようだった。そしてその機会が訪れるのを待った。


 暫く待ってみたのだがイワンからの返事が無い。あまり期待しない方が良いのだろうと思い、自分で街中を歩いてみる事にした。以前バス停の近くで化粧品を売っていた聾の女性との出会い( 【音の無い世界 その5】 参照)を覚えていたからだ。その女性はЮ者が初めてこの街にやって来て生活がやっと落ち着き始めた頃、とある用事でバス停に行った際に偶然見つけた。他の客が陳列された商品に興味を示し、売り子である彼女に一言二言質問したところ、彼女は自分は耳が聞こえないから説明が出来ないという事を身振りで示していた。その姿を見た瞬間に「この人だ!!」と感じた。客が途切れた頃を見計らってすぐに彼女に近付き、日本式の手話で耳が聞こえないのかどうかを尋ねてみた。答えはYesだった。当時はまだうまく手話で用件を伝える事が出来なかったので筆談で会話をした。そこで彼女の名前や聾の若者達が週末よく集まる場所などを教えてもらった。他にも色々と話をしたがすぐにまた客が来たのでそれ以上の会話が出来ずに失礼して私はその場を立ち去った。ほんの僅かなであってもこの様に新たな知り合いが出来、なんとも言えない内なる喜びが沸き起こるのを感じた。そんな経験をしたのでもしかするとまた彼女にどこかで会えるのではないかという期待をしていた。手話が少し出来る様になった今、そう今ならもっと沢山色んな事が話せるかもしれない。


 しかし街中を歩き回ったところでそう簡単に見つかるはずが無い。何も言わずに黙って歩いていれば周囲の健聴者と同じなのだから。何か別の種類の、別の世界に生きている外国人を探すかの様な期待感を持って彼らを探すのは間違っている。だからそれに気付いた時に自分から捜索して回るのを止めた。むしろ時がくれば会えるという願いを持ちながら、その日が訪れた時の為にどの様に温かく彼らと接するかを考える事にした。


 そんなある日、ガーリャが言った。「ウチの近所にあるアパートにこの前行ったんだけど、そこで聾者らしき女の人に会ったのよ。あの人はたぶん聾者だと思うわ。Ю者、あなたイワンに教わって大分手話が出来る様になったんじゃない?場所を教えてあげるから一緒にその女性の所に行ってみない?私は全然分からないけど、あなたなら彼女と手話で何か話が出来るかもよ。どうする?」


 これは願っても無いチャンスが訪れたぞ!心の中で大きな喜びが沸き起こるのを感じた。本当は今すぐにでもそこへ行きたいという気持ちだった。だがそんなはやる気持ちを抑え、ガーリャに彼女と出会った時の状況をもう少し詳しく聞き、それからゆっくりと次回その女性の所へ尋ねて行く為の予定を決めた。どうやら私が住んでいる家とガーリャの家との丁度中間あたりにその家があるらしい。そんな近所ならもしかしたら今までにすれ違ったりした事があったかもしれない。それなのに全く気付かなかったのか!!とにかくガーリャのもたらしたこの情報が私を励ますものとなった。そして約束のその日がやって来た。



・・・続く。


○●○ 次回更新予定  『近所で出会う… その2』 ○●○  





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