華の世界

華の世界

第五章

振り向けば夕暮れ

第五章:僕はそう思った

__ ダイナーは僕の懐にもたれていて、微笑んだ。
__ さっきの事、現実か夢か、僕は本当に分からない。でも、懐の中のダイナーは、真実だ。
__ 「僕、行かなきゃ」と僕はため息をついた。
__ ダイナーは「送るわ」と言った。
__ 僕は拒まなかった。
__ リビングルームに戻って、僕は「彼は?」と尋ねた。
__ ダイナーは首を振った「聞かないで」
__ コーヒーはもう冷めちゃった。ダイナーはトレイに流した。
__ 僕は黙って彼女を見た。
__ 「さあ、波止場まで送るわ」
__ 僕たちはバスに乗った。
__ ダイナーは「あたし、初めてあなたと別れることを思い出した」
__ 僕たちも思い出の渦に巻き込んだ。
__ 「あなたが行っちゃった後、あたし、トレイで泣いたわ」
__ 「笑ったように見えたよ。どうして泣いたんだ?」
__ 「女は涙で作るから」
__ 「幸い、二回しかなかった」
__ 「本当に二回しかないと思うの?」
__ 「僕のために泣くことはしない、と言ったじゃない?」
__ ダイナーはため息をついた「あたしもそう思ったよ。でも、結局何回も泣いた。」
__ 「僕のせいだ」
__ 「誰のせいでもないわ。あの時、若かったから」
__ 「あっ、君の誕生日、祝っていなかったな。誕生日おめでとう」
__ 「もうとっくに過ぎたよ」
__ 「知っている。一月だろう」
__ 「あの年、あなたが香港に帰った時、あたしの誕生日に電話をかけてくれたこと、本当にびっくりしたよ」
__ 「そうね。そして一ヶ月後、僕はまたあなたのそばにいる」
__ 「でも、あれは唯一の一回だ」
__ 「君に電話しないなら、君のことが忘れられると思ったから」
__ 「あたしも最初はそう思ったのよ。でも、間違った」
__ バスは波止場に着いた。
__ 「僕、一人で帰る」
__ ダイナーは少し考えた「やっぱりシドニーまで送るわ」
__ 僕は拒まなかった。たとえ僕が拒んでも、彼女はきっと僕を送る。
__ フェリーに乗って、僕たちは後ろに座っていた。
__ 「あたしは今になっても、後悔しないわ」
__ 「どんなこと?」
__ 「初めてあなたに捧げること」
__ さっきの熱い体は、記憶よりずっと熱い。僕は一生忘れられないあの夜。
__ 現実と思い出はまた混ぜている。どっちが現実?どっちが夢?
__ フェリーは走りつづけた。


(第五章・了) (第六章へ)

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: