はじめに・・・・。
「ゴット・ファーザー」(1972年)、「フレンチ・コネクション」(1971年)、「ブラック・レイン」(1989年)・・・。
映画ファンならいわずとも知れた有名なマフィアものと刑事アクションの映画だが、これらの3作品に共通したものがある。さて、それはなんだろう?
非常な男の世界? 鮮烈な銃撃シーン? 裏切り? それとも濃厚なラヴ・シーン? ・・・いや、ちがう。
答えはカクテルの名前。いずれも映画の内容にあやかれてつくられたもの。
「ゴット・ファーザー」は、スコッチ・ウイスキーにアーモンドのとろけるような香りがするリキュール「アマレット」を加えて、オン・ザ・ロック・スタイルで楽しむ甘いカクテル。アマレットはイタリア特産のリキュールなので、シチリアにルーツを持つアメリカのマフィア家族を描いたこの作品はぴったり。そこがミソなのだ。
このカクテルを、ブランデーに変えたのが、「フレンチ・コネクション」。ヘロイン密輸事件のほっ単になった南フランスの港町マルセイユのイメージをかもし出そうと、フランスを代表する蒸留酒のブランデーを使っている。
「ブラック・レイン」は、シャンパンに柑橘系の香りがある「ブラック・サンブーカ」(ニワトコの実の抽出液をもとにしたリキュール)を注いだカクテル。怪しい雰囲気を漂わせる、黒っぽい色調が映画のタイトルをイメージしている。
これらのカクテルを味わうと、凄みのあるマフィアのドンに扮したマローン・ブランド、“ポパイ”の異名を持つ血気盛んな刑事を熱演したジーン・ハックマン、そして見ける・ダグラスを向こうに回し、冷酷な悪役に徹した泣き松田優作の姿がまぶたに浮かんできそうである。
このほかにも、海外では「マイ・フェア・レディー」(1964年)や「サウンド・オブ・ミュージック」(1965年)というミュージカルの名作にちなんだカクテルもあり、思わず口ずさんで、踊りだしてしまいそうである。
逆にカクテルから映画のタイトルがつけられたケースもある。たとえば、メル・ギブソン主演の「テキーラ・サンライズ」(1989年)、若松孝二がメガホンを取ったハード・アクション「シンガポール・スリング」(1993年)、旧ユーゴスロバキア映画の「3人でスプリッツア」(1982年)などがある。
映画のタイトルとくれば、スターや主人公の名前をあやかったカクテルがあってもいい。調べてみると、結構あった。
まずは、「チャーリー・チャップリン」。喜劇王を冠したこのカクテルは、スロージン、アプリコット・ブランデー、レモン・ジュースを同等に混ぜ合わせたもの。さっぱりしていて飲みやすいスタンダードのカクテルだが、洗練されたこのカクテルは、所々破れただぶだぶのズボンにドタ靴を履いた、野暮ったい(みすぼらしい?)いでたちのチャップリンのイメージとはどうも結びつかないのだが・・・・。
フレッド・アステアとの名コンビで一世を風靡した女優にちなんだのだが「ジンジャー・ロジャース」。コニャックと高級ポート和音からなるゴージャスなカクテルで、その芳香な香りに触れると、躍動感あふれるタップを披露するロジャースの華麗な姿が浮かんでくる。
復旧の名作「風と共に去りぬ」(1939年)のヒロインから名づけられた「スカーレット・小原」は、アメリカン・ウイスキーのリキュール、サザン・カンフォートにクランベリー・ジュースにライム・ジュースを加えた淡赤色のカクテル。物語の舞台となったアメリカ南部のお酒とジュースを使っているあたり、なかなかニクイ。もう少しこだわれば、スカーレットはアイリッシュ系の女性なので、アイリッシュ・ウイスキーのリキュール、アイリッシュ・ミストをアレンジで使うのも面白いかもしれない。
バー・ラジオのカクテルブック(1982年 柴田書店)を開くと、実に多くの映画にちなんだ、オリジナルカクテルが掲載されている。
「ハンフリー・ボガード」、「ダイアン・キートン」、「イングリット・バーグマン」、「マレーネ・ディートリッヒ」、「マリリン・モンロー」、「ローレン・バコール」、「グレタ・ガルボ」、「ディーン・マーティン」、「フランシス・アルバート(フランク・シナトラの本名)」、・・・・。
ちなみにウォッカ・ベースの「マリリン・モンロー」は、真紅のルージュを引き、ワインレッドのドレスに身を包んだモンローがお知りを振って歩く“モンロー・ウォーク”からヒントを得たとかで、透明感のある赤いカクテルがなんとも艶っぽい。
「グレタ・ガルボ」は、ガルボのクールな魅力を強調し、ドライ・ジン、ドライ・シェリー、ドライ・ヴェルモットとすべてドライで統一している。
さて、カクテルをざっと紹介してきたが、これだけでも映画と洋酒のかかわりの深さがよくわかっていただけたと思う。実際、映画(特に洋画)のなかには、頻繁に洋酒を飲むシーンが出てくるし、お酒が小道具として輝いているケースが多々ある。
男と女の恋愛模様をつづったラヴ・ロマンスには優雅なシャンパンが欠かせないし、ラヴ・シーンでぐっと雰囲気を盛り上げるにはブランデーがふさわしい。美女を口説くにはおしゃれなカクテル。
そう、お酒は恋の媚薬である。逆に腹立ちまぎれの焼け酒にはきついウイスキーのストレートがよくあう。失恋したときは、ジンで気持ちを洗い流し、物事がうまく行けば、南国のラム酒でグビリと乾杯。
映画は人生の生き方を映し出す鏡。当然そこにお酒があってしかるべし。
いや、お酒なくして名作はありえない。ここでは、映画を通して洋酒のいろんな知識、雑学、エピソードを送りながら酒文化の一端を探っていこうと思う。
もちろん映画を見る面白さが倍増することを願って!いうなればフイルムをベースにしたスクリーン・カクテル。


