― R ’s  Bar ― 癒し系バーの威圧系バーテンダーのつぶやき・・・

― R ’s Bar ― 癒し系バーの威圧系バーテンダーのつぶやき・・・

ワイン(彩り添えるボルドー)




彩り添えるボルドー・ワイン

ワインはピンからキリまで、それこそピンになると、目からうろこが落ちるほど美味だし、また眼が飛び出るほど値段も高い。映画ではそんな極めつけの高級ワインがしばしば登場するが、その殆どがフランス産。さすが世界に冠たるフランス・ワインである。

アガサ・クリスティー原作の『 ナイル殺人事件 』(1978年)では、ボルドーの名醸ワインが事件解明の糸口になっていた。
ナイル川を優雅に航行する外輪船。イギリスの大金持ちの礼状に殺意を抱く男女が乗り込み、不穏な空気が漂っている。そんななか、名探偵のポワロ(ピーター・ユスティノフ)がキャビンで熟睡している間にその令嬢が何者かに殺された。
翌日、ポワロが親友のレイス大佐(デヴィッド・ニーヴン)と食事をしたとき、エジプト人のウェーターが赤ワインのボトルを持ってきた。銘柄はシャトー・ペトリュス。
「昨夜、ボトルの残りにカビがついていたので、新しいボトルを注文しておいたよ」
大佐がこう言うと、ポワロが不思議に思った。
「カビ?」
「ええ、ゴミのような・・・・」
「シャトー・ペトリュスはそれが普通だが・・・・」
このワインは濾過しないので、ポワロは澱でもでたのだろうと思ったが、一口味わって、
「そうか」
と合点した。そんなカビやゴミのような大きな澱がでるはずがない。大佐がそう思ったのは睡眠薬の粉に違いない。前夜、何者かが私の飲むはずのワインに睡眠薬を入れ、“鬼”のいぬ間に犯行におよんだのだ。道理で眠くて仕方なかった・・・・。ポワロは“灰色の脳細胞”を働かせ、このあとあっという間に事件を解決してしまった。

このワイン、ボルドーのポムロール地区で産出される一級品。年代には触れていなかったが、ボルドーで最も高い価格で取引されており、例えば1962年物では20万円以上する。クリスティー自身このワインがお気に入りだった。
その90年物を味わったことがあるが、繊細ながらも豊なボディ(味わい)とブーケ(香り)に瞬時のうちに金縛り状態になり、<芳醇>ということばは、このワインを表現する為につくられたものだという気すらした。まるで宇宙空間を飛遊するような心地。それがいつまでも続くのだからたまらない。その極上ワインをさりげなく口にするポワロがなんともカッコいいのだ。
シャトー・ペトリュス の検索はこちらから



ご存知、イギリスの秘密諜報部員ジェームス・ボンドが活躍する『 007/ダイヤモンドは永遠に』(1971年)にもボルドー産の高級ワインが出ていた。

ラスト近く、豪華客船のスィート・ルームで、いつもながらボンド(ショーン・コネリー)が美女をはべらせ、甘い言葉をささやいている。そこへマッチョなソムリエと銀縁めがねをかけたウェーターがワインとゴージャスなフランス料理を運んできた。注文していないのにおかしいぞ。ボンドの顔にさっと緊張感が走った。案の定、二人は殺し屋で、キャセロールの中に時限爆弾がセットされている。
「55年ものシャトー・ムートン・ロートシルト。逸品です」
ソムリエがボトルを見せた。ボルドーのメドック地区の中で、「ワインの聖地」と呼ばれる土地で作り出されるワインだ。

テースティングしたボンドが、おもむろに口を開いた。
「ワインは最高だ。しかし、この食事にはクラレットが合うのだがねぇ」
ソムリエが困惑の表情を見せた。
「残念ですが、当船にはクラレットがなくて・・・・」
すかさず、ボンドがボトルを指し示した。
「これがクラレットだ!」
その瞬間、ボンドは彼らが殺し屋だと見破った。その後はお決まりのパターン。ボンドが相手にブランデー(クルボアジェ?)を浴びせ、火だるまにするなど、こてんぱんにやっつけ、万事めでたし、めでたし。そして美女と熱い口付け・・・・。

クラレットとは、英語でボルドー産ワインの愛称。12~17世紀までボルドー地区はイングランド領だったので、その地のワインはフランスよりもむしろイングランドで愛飲されていた。「明るく澄みきった」を意味するフランス語のクレーレ(Clairet)が英語化して、クラレット(Claret)となった。
つまり、ウェーターなら、クラレットが何たる可を知っているべきなのだが、強烈な音を立ててコルクを抜いたときから、どうも胡散臭いやつだと直感したボンドが鎌をかけて質問し、頓珍漢な返答をしたため、正体がばれたというわけ。ボンドの命はワインで救われた。

このムートン・ロートシルト。ジャン・コクトーやジョルジュ・ブラックら著名画家が描いたラベルを毎年張り替えているユニークなワインだが、これもそうやたら味わえるものではない。このクラスになると、やはり襟を正していただきたい。ボンドがコルクの香りをかぎ、テイスティングしたときの悠然とした態度。ワインにちっとも負けていない。そして刻のある、やわらかい口当たりというこのワインの特徴を全身で感じ取ったときの満足そうな表情。このあたりも是非観て頂きたい。
ムートン・ロートシルト の検索はこちらから


そうそう、シリーズ14作目の『 007/美しき獲物たち 』(1985年)でも、パリのエッフェル塔のレストランでボンド(ロジャー・ムーア)と会食したフランス人の探偵が、ムートン・ロートシルト(59年もの)をオーダーしていた。

「それは上物ですよ」
ボンドがそういうと、探偵は目を輝かせた。
「感情はあなた持ち」
ちゃっかりしている。ところが、ワインを飲む前に彼は毒針で殺されてしまった!さぞ無念だったろう。


日本映画で社会現象までになった『 失楽園 』(1997年)に、同じメドック地区の高級赤ワインシャトー・マルゴーがでていた。
出版社に勤務する中年男の久木(役所 広司)と不倫関係を続ける人妻の凛子(黒木 瞳)。
二人の好物が「鴨とクレソンの鍋」とシャトー・マルゴーの取り合わせだった。
心中した二人がこの世の別れに味わったワインもシャトー・マルゴーだったが、あまりにもデリケートなこのワインが果たして末期の酒にふさわしかったのか。
ともあれ、この映画でシャトー・マルゴーの人気はうなぎのぼり、一時、「マルゴー売り切れ」の表示を出していた店もあったほど。
またまたブームに載せられる日本人像を見たようで、いささかげんなりしてしまった。


メグ・ライアンとマシュー・ブロデリックが顔を合わせたラブ・コメディー『 恋におぼれて 』(1997年)でもシャトー・マルゴーの83年物が写っていた。
ブロデリックの恋人を奪ったフランス男が金も名誉もすべて失いどん底状態になったとき、やけ酒のつもりで1本48000円もするこの高級ワインをグビグビあおっていたが、これは非常にもったいない飲み方だったし、だいいちワインに対して失礼である。
そんなときはジンかウォッカをストレートで飲めといいたくなる。
シャトー・マルゴー の検索はこちらから





© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: