もぞもぞと
記憶が動き出して
ひとつにまとまった
霧が晴れたように
すっきりした
行く先は風に任せて飛ばされず
私も知らない私をさがすわくわく
目が覚めて夢を手繰れば笑顔の君
空に星大地に花の贈り物 神がくださる美しきもの
草もまた光の方へと伸びていく
小さな寝息をたてて犬が眠っている
頬に頬を重ねてじっとしていると
小さかった寝息が大きくなる
満足そうな声のような寝息になる
重ねた頬を離すと
眠ったまま手で催促する
こんなことを毎日繰り返して
どちらもしあわせ
五月に
五月
生まれたての若葉が輝く
日一日
濃くなっていく緑
深く豊かに繁っていく
その昔
森の中で暮らした人たち
神様が与えてくださった森の恵みの中で
一つ一つの恵みに感謝しながら
川と海と森と
草と花と樹と
鳥と魚と獣と
あらゆる自然と共に
溶けあい一体になって
楽しく暮らしていた
そんな人たちを排除して
樹を伐り倒し
何かを創り上げようとして
大事なものを失っていくことの繰り返し
創ろうとして破壊し
広げようとして狭まっていく
その人たちの暮らし
豊かさを得ようとして失っていくもの
森は消え
木陰もなく
かさかさと乾き
木々を抜けていく爽やかな風もなく
川は濁り
澱み
積もっていくものは欲の抜け殻
五月
樹々を渡る風
木洩れ日が揺れる
残されたささやかな自然の恩恵に感謝して
空を
川を
緑を見つめる
お父さんの後を少し離れて
ついていく少年
縁石の上をとことこ
標識のポールをくるりん
歩いていることが楽しいね
モノクロの空家にポピー咲きそろう
次々に花咲きそして散っていく季(トキ)の速さに独り佇む
たんぽぽは金の光をためて咲き綿毛となりて春過ぎてゆく
そのうちに天使降りくる春の山
ヒヤシンス小さくかたまる紫の蕾は春を待ちているらむ
愛犬の四十九日は春めきてクロッカスの花咲き始めけり
頬杖で支えきれない気持ちどんより
花冷えにせつなき想い甦り
自由律】
冷たい雨のむこうに花の雲
青春を謳歌する子今日はお花見
誰か呼ぶそんな気がして見上げてもさわさわ揺らす風がいるだけ
明日でなく今日一日を心地よく積み上げ生きむ百歳となるまで
雨の窓ガラスの森が崩れていく
「お散歩日和」
いつも引っ張られて歩いているJOYが
今日はどんどん先を行く
神社の横の山道で上を見上げると
一本だけもう生まれたての薄緑の葉をつけている
大きなハリエンジュのある丘に来たら
真正面にJOYが好きな林に囲まれた駐車場
でも樹も切られコンクリートが流され大工事
ウサギ小屋のあったところも同じよう
JOYは反対側の山の方に行く
右に曲がる
この道はほんとうにすてきな道だ
高い樹々がまだ裸木で日差しが差し込む
梢の鳥も見える
林を抜けると蜜柑畑につづく野原
ナズナ・オオイヌノフグリ・ヒメオドリコソウ・ホトケノザ
オオイヌノフグリは陽に輝く青い星
ヒメオドリコソウはピンクの小さな踊子がかわいい
前に出した手が小さなハートの形だ
天道虫がいる
ナナホシテントウムシ
忙しなく動いている
JOYが覗き込む
天道虫を手に取るとぴたっと動きが止まった
止まったけれど動いている小さな小さな脚
手の甲に感じる動き
大地の草に戻すと
また忙しい
遠く霞んだ水平線
山は枝々の黒さの上に一塗りしたような薄緑の色を纏っている
JOYはすっかりここが気に入って
仰向けになって大地に背中をすりつけている
そしてまたうつぶせになって動こうとしない
私もすわる
私の腰とJOYのわき腹がくっついている
風も光も
山も海も
草も樹も花も
みんな春
* * * * * * * *
草は光り
花はほほえみ
山は笑い
風はささやく
春日和
「光」
オレンジ色のビオラ
紫色のパンジー
花かんざしは白い花
はじめて咲いたクリスマスローズは暗い桃色
春になれば咲いてくる
これからどんどん咲いてくる
お花の色は
お日さまが光をくれてつくったの
それなら
わたしはお日さまの光で
虹をつくろうかな
ホースを摘んで水を飛ばそう
ほらほら虹ができたでしょ
「光の贈り物」
こんなところに春の色
ほとけのざは
赤紫の小さな花をぴゅんと出し
おおいぬのふぐりは
やさしい水色の小さな顔を空に向けてるよ
あらあらそこの土手には
花だいこん
薄紫のきれいな色で
あっちにもこっちにも咲いている
ほらほらあそこの黄色い花は
たんぽぽ たんぽぽ
もう咲いた
寒いときにはみんな
大地に顔を伏せながら
お日さまの光を貯めていたね
そうして
春風が吹いたら
それぞれの大好きな色で顔を出し
お日さまにお礼を言っている
予感
嵐の中にいたある日、引いたおみくじは末吉。
おみくじには、
「ふきあれしあらしもいつかおさまりてのきばにきなくうぐいすのこえ」
とあった。
あれから、時々吹き止んだかなと思うと、また吹き荒れる風に
だんだん疲れを感じながら
それでも「うぐいすのこえ」を待っていた。
だけど、なかなか鶯の声は聞こえなかった。
けれど、今日やっと少し風が吹き止み、
鶯の声も近いような
そんな予感がした。
春嵐
これでもか これでもかと
吹き荒れる春の嵐
飛ばされそうになりながら
しがみつく大木もなく
飛ばされまいと踏ん張りながら
嵐の中に立ち続ける
まだ吹き続けている春の嵐
春一番
季(トキ)が変わる 瞬間(トキ)
強い風が吹き荒れる
春を前に
吹き荒れる風のように
わたしのこころの中を
風が吹き抜けたら
光と希望に満ちた季(トキ)が
来るのでしょうか
春一番
季(トキ)が変わる 瞬間(トキ)
強い風が吹き荒れる
春を前に
吹き荒れる風のように
わたしのこころの中を
風が吹き抜けたら
光と希望に満ちた季(トキ)が
来るのでしょうか
はなびら
さくら
ひらひら
風に舞い
どこまで
どこまで
いくのでしょう
さくら
ひらひら
桜色
ひらひら
ひらひら
ひいらひら
たったひとりの散歩です
蒼い哀しみ
川底にはりついた蒼い哀しみがある
ゆるやかに流れているのか留まっているのかわからない
誰にもなんともできない冷たい哀しみだ
みんなそれを見ることもなく
お日さま色の光を仰いで
たんぽぽ色の心を保ち
ささやかなちっちゃな花を咲かせている
それしかない
蒼い哀しみには
手が届かないのだから
海は 過去を飲み込んで 限りなく広い
空は 果てしなく未来につながり 大きい
私は 海と空の境目にいて
何にも見えない
寒中に伸びゆく草の青さかな
霜柱通学の路よみがえる
白き富士迫り来る日は潔く
幼子の小さきまぶたゆるゆるといきつもどりつまどろみに落つ
独りいてふと湧き起こる激情の向けるとこない三日月の夜
寒風に枝広げたる樹々見れば小さき花芽すでにつきたり