超重神山さんDESTINY

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第15話 過去を知る男



かつて常夏の国と呼ばれていたリゾート地、ハワイが存在していた海域。その上空を二つの黒い影が高速で飛行していた。一機はレオスの駆るダーククロウ。一機は漆黒の流線的なデザインが印象的な戦闘機だ。二機は空中で激しいドックファイトを繰り広げている。ダーククロウのマシンガンが戦闘機を襲う。戦闘機はその高い機動性で次々にダーククロウの放つ銃弾を回避していく。海面スレスレを飛行する戦闘機、ダーククロウも同じく海面スレスレを飛行しそれを追う。
戦闘機は急に速度を落としたかと思うと突如として変形を始め一瞬にして黒い装甲の・・・何処か、ガンダムを思わせるような姿のMSへと変形し脚部に収納された二丁のビームマシンガンを抜き構えダーククロウにむける。ダーククロウもマシンガンを構え、二機のマシンガンはお互いの頭部に銃口を突きつけたまま停止する。

『そこまで・・・二人ともご苦労』

二機の真下の海中から、一隻の潜水艦・・ビックホエールが浮上する。二機はその甲板に着艦しコクピットハッチを開く。ダーククロウからはレオスが、もう一機の黒い機体からはフェルがそれぞれ降り立った。少し遅れて甲板にオルトも姿を現す。

「実弾使用の模擬テストはこれで終了だ。フェル、この新型機・・・ハスターはどうだ?」

オルトがフェルの乗っていたMS、ハスターを見上げながら聞く。
オルト達が持ち帰った今までのガンダムとの戦闘データを参考にパンゲア軍がガンフィッシュと同時進行で開発を進めていた次期主力空戦用可変型MSハスターがこの機体の名だ。フェルを救助した後、本国へ帰投したオルトの隊に完成したばかりの試作機が4機ほど配備され、その中の一機をフェル用に黒く塗装したのだ。

「ええ、イカロスと比べてパワーが違います。良い機体ですよ」

「そうか、これはすでにお前の専用機だ。早く乗りこなせるようになれよ」

「了解」

オルトの言葉に敬礼しフェルはハスターの微調整のためにコクピットへと戻る。オルトはそのままレオスの元へと歩く。

「レオス、お前から見てどうだ。あの機体は?」

「ええ・・・良い機体だと思います。速度だけならばダーククロウをしのいでいますね」

「ほぉ・・・お前もハスターに乗り換えたいのか?」

オルトの言葉にレオスはフッと笑って首を横に振る。

「いえ・・・下手に乗り換えるよりも慣れた機体の方が良い物ですから」

「それもそうだな」

レオスの言葉に思わず苦笑する。
ハスターのコクピットで微調整をおこなっていたフェルはキーボードを叩きながら無人島で出会ったゲイルの事をなんとなく思い出していた。

(近いうちにアトランティスへ再び攻める事になるだろうな・・・・・ゲイルも・・やはり出てくるのか?)

出来れば彼だけとは戦いたくない と今まで考えた事もないような言葉が、ふっと浮かんだ。



海の中、アトランティスへ向け進む3隻の潜水艦があった。そのうちの一隻は以前アトランティスを襲撃した潜水艦サーペントだ。格納庫を訪れていたジャウルクは自らの愛機であるMAキラーハンターの横のメンテナンスベットに固定された灰色の装甲に身を包んだ二機のMSを見上げていた。

「ルルイエの連中から送られてきた機体か・・・次の戦闘には出られるのか?」

二機のMSの足下で作業をおこなっていたメカニックに聞く。

「ええ・・すでに正式配備済みの機体ですし、次の戦闘にも出られますよ。このダゴンとヒュドラは」

メカマンがMSの名を呼ぶ。同型の機体でありながらも魚雷やフォトンメーサー砲などの武装が充実した機体ダゴンと武装を最小限に留め機動性を重視した機体ヒュドラ。このサーペントに配備されている4機の他に他2隻の潜水艦にも数機ずつ配備された2機のMSを見上げながらジャウルクは頷く。

「我々の戦力は俺のキラーハンターとティターンが5機。ダゴンとヒュドラが数機・・・・これだけあれば十分だろう。今度こそ、アトランティスへ一矢報いる・・そして、あの小娘を始末する」



「あぁ~、もう駄目だぁ・・・・・動けねぇ・・・・」

アトランティス中央塔に用意された公共のトレーニングルーム。軍人だけでは無く民間人にも開放されているこの施設の休憩所で全身に汗をかいた状態で仰向けに倒れていた。今にも死にそうな勢いでゼィ、ゼィと荒い呼吸を繰り返している。

「あっきれた・・・これぐらいで倒れるなんて」

疲労により倒れているマグナをサリアが呆れたように見ている。特にやる事もないので彼を誘ってトレーニングルームへと足を運び食事前の軽い運動のつもりでかれこれ3時間ほど体を動かしていたのだが・・・マグナが思っていたよりも早くバテてしまった事にサリアは呆れていた。

「五月蠅い・・・・疲れたったら疲れたんだよ・・・・」

「まったく・・・はい」

サリアは首にかけていたタオルをマグナに手渡す。マグナはそれを受け取り汗をふき取る。

「体力、見かけより無いのね・・・マグナって」

「お前は・・・見かけよりあるんだな・・・・」

マグナはサリアを見上げながら言う。その細身な体に比べてかなりの体力をサリアは持っていた。まったく同じ量の運動をこなしていたマグナは見ての通り倒れているがサリアは汗を流しながらもまだまだ行けるといった表情をしている。

「体格だけみりゃ全然、体力なさそうなのになぁ・・・お前」

「・・・・それ、どういう意味?」

「他意はない。言葉の通りの意味だけど」

「人を見かけで判断しないでよね・・・・アナタだって体格より体力ないじゃない」

「・・・・言うな」

汗を拭き終えたマグナは上半身だけ起こしてタオルをサリアに投げ返す。サリアはタオルを受け取ると再び首にかける。

「さて・・・もう1セット行く?」

と、サリアは意地悪な笑みを浮かべてマグナに聞いてくる。マグナはがっくりとカタを落としながら懇願するように呟く。

「勘弁して・・・・」

その様子を見てサリアは思わず吹き出した。
その時、中央塔全体にアナウンスが響きわたった。

『自衛軍の構成員は1時間以内に司令部へと集合して下さい。繰り返します・・・・』

「司令部に?なんだろう・・・」

「さぁな、とりあえずトレーニングは此処でお終いと・・・」

「そうね。1時間あればシャワーぐらい浴びても十分間に合うわね・・・それじゃ、おっさき~」

そう言ってサリアは駆け足でトレーニングルームの女子更衣室へと入っていく。更衣室の中にシャワールームが用意されているので其処で汗を流すつもりだろう。

「さて・・・と」

マグナもゆっくりと立ち上がり男子更衣室へと入っていった。



司令部に少し早く着いていたゲイルはぼぉっと窓の外を眺めていた。無人島での一件以来、たまにこうして考え込む事が多くなった。考える事はお約束的にフェルの事である。

「また、会えねぇかなぁ・・・・・」

ポツリとそう呟く。あったのは無人島の時だけだが・・・彼女の事がどうにも忘れられなくなっていた。いや、彼女はパンゲアのパイロットなのだから戦場では何回かあってる事になるのだが・・・・。

「敵同士にわかれた男女・・・俺等はロミオとジュリエットかぁって・・恋人でもないのに・・・・俺って欲求不満なんだな・・・ハハハ」

自嘲気味に呟く。自分と彼女は一回会っただけで恋人同士って間柄ではない・・・出来ればそうなりたいとも思って無くはないのだが。もっとも実際にそうなってロミオとジュリエットみたいな悲劇的結末になるのはご勘弁だが・・・・。

「何をぼぉっとしてるのかしら?」

「ッ!?」

いきなり背後から話しかけられたゲイルは、その場から飛び退き声をかけた張本人、シャイルの方を向く。

「なんだ・・・シャイルか、いきなり話かけてくるなよ・・・寿命が縮む」

ただでさえ、シャイルは気配を感じさせない事が多いのだから と言うセリフが喉まで出てきたがさすがに失礼だろうと思い口には出さずに留めておいた。

「ああ、失礼。なんだか・・・・いつもの貴方らしくなかったように思えたからついね」

さりげなく酷い事言われたような気がするが、まぁ気にしない事にしておく。

「まぁ、それはおいとくとして・・・・なんだろうな、集合かける理由」

「そうねぇ・・・・さしずめ、新しい隊長が決まった・・からじゃない?」

シャイルの言葉に「なるほど」と頷く。隊長が不在の状態である現在のアトランティス自衛軍の状況で全員に集合をかける理由は他に思い当たらない。

「新しい隊長ねぇ・・・・・やっぱ、それしか理由ないか」

そうこうしている内にマグナとサリア・・・他の軍構成員も司令室に続々と集まり始め、全員が集まった所で司令室にグレンが一人の50代後半に見える軍服を着た男性を連れて司令室へ入ってきた。

「全員そろっているようだな・・・・先日、話した通り自衛軍の新たな隊長を勝手ながら決めさせて貰った」

グレンの言葉に集まった全員が騒ぎ始める。大方の人数が新しい隊長の件だろうと予想していたようだ。
グレンは連れてきた男性を自分の横に立たせて紹介する。

「セルギル・ファークマン・・・彼に次の自衛軍隊長を任せようと思う」

セルギルと呼ばれた男性が一歩前に出て自己紹介を始める。

「たった今、紹介にあがったセルギル・ファークマンだ。グレン代表からの依頼で自衛軍の隊長の任を任された。前任のアキラ隊長のようにMSに乗る事は出来ないが指揮を取る事は出来る・・・以後、よろしく頼む」

新しい隊長として紹介されたセルギル・ファークマンを見て構成員全員が再び騒ぎ始める。誰も彼のような老兵が任命されるとは思っていなかったらしい。自衛軍の隊長は代表が任命した後、2週間の期間を設けてその間に構成員が受けた印象を元に投票して最終的に決定するといった少々、複雑な形を取っている。その為、正式にこのセルギルと言う男性が隊長として任命されているわけではないのだが、妙に自信ありげなグレンの物言いに少々、とまどっていた。彼にはセルギル以外に任せられる人物は他にいない と言った風な自信が見て取れる。

「あんなおっさんが・・・・新しい隊長ってか?」

離れた所でそれを見ていたマグナが呟く。

「なんだかグレン代表は自信満々って感じだけどなぁ・・・・」

「ま、本当に任命されるかどうかなんて2週間後までわからないんだし、この場でどうこう言っても仕方ないと思うけど・・・・・シャイル?」

サリアはなんとなく顔を向けたシャイルの表情が、普段は見せないような驚愕の色を浮かべている事に気がついた。セルギルに向けられたその表情は・・・まるで死んだ人間を見ているかのような物だった。

「なんで・・・・・アイツが・・・・」

「シャイル・・どうした?」

マグナがシャイルに話しかける。シャイルはハッとした様子でそれに答える。

「あ・・・ううん。なんでも・・・ないわ」

そう言ってシャイルは足早に司令室を後にする。その後ろ姿をマグナ達は不思議そうに・・・セルギルは無表情のまま、見つめていた。

「話は以上だ、全員解散。通常の業務にもどってくれ」

グレンの一言でこの場は解散となった。



居住区へと続く廊下、自室へと戻る途中だったシャイルの目の前にセルギルが立っていた。

「・・・・久しぶりだな」

「・・・・・・・・」

セルギルの言葉を無視してシャイルは脇を通りすぎていく。それに対しセルギルはそっと呟く。

「傷は・・・まだ、疼くかね?」

「ッ!!」

その言葉を聞いた瞬間。シャイルはセルギルの首を押さえ込み締め付けるようにして彼を壁に押しつけた。
セルギルは抵抗する事もなく、無表情のままシャイルの顔に視線を合わせている。
シャイルは鬼のような形相でセルギルを睨みつけていたが・・・やがて手を離し彼に背を向ける。

「貴方には・・・関係の無い事でしょ・・」

それだけ言って廊下の向こうへと歩いていく。それをセルギルは、何処か哀れむ様子で見ていた。



続く





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