文春新書『英語学習の極意』著者サイト

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44 観た・読んだメモ

令和6年9月12日から令和7年2月3日の実況です。項目ごとに、日付を遡る形で記載しています。
ひとつ前の 令和6年4月28日~9月11日 の実況はこちら。
ひとつ後の 令和7年2月5日~8月22日 の実況はこちら。


観 た:

令070203  MET Live | Giacomo Puccini: "Tosca" @ 東劇

令070131  Kera Cross 第6弾 「消失」(藤井隆ほか) @ 紀伊國屋サザンシアター

令070131  第73回 東京藝術大学 卒業・修了作品展 (今や五美大展に劣る惨憺たるありさま。見るに値したのは絵画棟の米山由夏さん、Lea Embeli さんの作品だけだった。) @ 東京都美術館、藝大構内

令070130  Trevor Yeung, Yuko Mohri: Echo of Echoes @ Yutaka Kikutake Gallery

令070130  青木 豊: "U" @ Kosaku Kanechika

令070130  Erwin Bohatsch @ Taka Ishii Gallery

令070130  倉田 悟:あさをまつよる Night Waiting for Morning @ Tomio Koyama Gallery

令070130  ジャム・セッション 石橋財団コレクション×毛利悠子 ―ピュシスについて On Physis |ひとを描く Looking Human: The Figure Painting | 石橋財団コレクション選 特集コーナー展示:マティスのアトリエ Matisse's Studio @ アーティゾン美術館

令070124  "Perspective": 43 Artists New Year Group Show 2025 @ Gallery Face to Face

令070124  少女たち ―夢と希望・そのはざまで― Women Between Hopes and Fears 発掘された珠玉の名品 星野画廊コレクションより @ 三鷹市美術ギャラリー

令070123  Alice Cooley solo exhibition: Work in Progress. . . @ Gallery b. Tokyo

令070121  坂本龍一 音を視る 時を聴く Ryuichi Sakamoto: seeing sound, hearing time | MOTアニュアル2024 こうふくのしま(清水裕貴、川田知志、臼井良平、庄司朝美)| MOTコレクション 竹林之七姸(高木敏子、間所(芥川)紗織、福島秀子、漆原英子、朝倉 摂、前本彰子)+ 小さな光(山本高之ほか)+ 開館30周年記念プレ企画 イケムラレイコ、マーク・マンダース Pre-30th Anniversary Exhibit: Leiko Ikemura・Mark Manders: Rising Light/Frozen Moment @ 東京都現代美術館

令070120  侍タイムスリッパー @ TOHOシネマズ日比谷

令070119  新版画 版元・渡邊庄三郎の挑戦 The Shin-Hanga: The Great Endeavor of Watanabe Shozaburo | 新収蔵品(小沢剛、西村陽平ほか) @ うらわ美術館

令070118  金子朋樹 展 異形・変形 ―胸中山水― | 彫刻 ロスト・ワールド @ 日本橋高島屋 美術画廊

令070118  知られざるモダニスト 寺田 至 画集刊行記念展 "Life" @ 不忍画廊

令070118  ギャラリー椿 オークション2025 @ Gallery Tsubaki

令070115  奥野智萌 個展 記憶からあとずさり @ Gallery b. Tokyo

令070111  清水朝子 個展「うまれおちて星」 @ Gallery Hana Shimokitazawa

令070104  アレック・ソス 部屋についての部屋 Alec Soth: A Room of Rooms | 日本の新進作家 Vol. 21 現在地のまなざし Contemporary Japanese Photography Vol. 21: The Gaze of the Present @ 東京都写真美術館

令070104  門倉太久斗×野々上聡人 花と筋肉 @ Gallery 10 [TOH] + Broadway Diner

令070101  Hiro Sugiyama: National Treasure 国宝 @ Roppongi Hills A/D Gallery

令070101  ルイーズ・ブルジョワ展 地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ Louise Bourgeois: I have been to hell and back. And let me tell you, it was wonderful. @ 森美術館

令061225  没後30年 木下佳通代 Kazuyo Kinoshita: A Retrospective | MOMAS コレクション(戦後日本美術の開拓者たち|特集:木村直道) @ 埼玉県立近代美術館

令061224  大絵本美術展 童堂賛歌 ザ・キャビンカンパニー(阿部健太朗|吉岡紗希) | コレクション展(房総の書|おもちゃ絵の世界|日本版画協会の成立|ポートレート作品) @ 千葉市美術館

令061224 開館50周年記念特別展  浅井忠、あちこちに行く ― むすばれる人、つながる時代 ― Asai Chu: A Legacy of His Work And Travels @ 千葉県立美術館

令061223  怪談 牡丹灯籠 @ 東劇

令061220  MET Live | Jeanine Tesori: "Grounded" @ 東劇

令061219  天明屋 尚 個展「西の玉兎。東の天陽」 @ Gallery Mumon

令061219  絢爛豪華 祝祭音楽劇 「天保十二年のシェイクスピア」 @ 日生劇場

令061218  白衛軍 The White Guard @ 新国立劇場 小劇場

令061129  田中一村展 奄美の美 魂の絵画 Tanaka Isson: Light and Soul @ 東京都美術館

令061128  Art Power Kyobashi (APK) Public Vol. 1: 螺旋の可能性 ― 無限のチャンスへ(小野澤 峻、野田幸江、毛利悠子、持田敦子) @ Toda Building 広場、エントランスロビー

令061128  Tomio Koyama Gallery Kyobashi(杉戸洋: apples and lemon)|Taka Ishii Gallery Kyobashi | Kosaku Kanechika(十三代 三輪休雪 El Capitan) | Yutaka Kikutake Gallery(ささめきあまき万象の森 Whispers in the Wholeness) @ Toda Building 3F Gallery Complex

令061128  アニメ「鬼滅の刃」柱展 ― そして無限城へ @ Creative Museum Tokyo

令061128  亀井三千代 個展 華艶闇夢~燃え盛る妖艶な花々~ @ 不忍画廊

令061128  ハニワと土偶の近代 Modern Images of Ancient Clay Figures | MOMATコレクション:芥川(間所)紗織ほか | フェミニズムと映像表現 @ 東京国立近代美術館

令061125  人情噺 文七元結(十八代目中村勘三郎ほか) @ 東劇

令061122  金井訓志展 momenternity | 武田史子 空想の森 @ Gallery Tsubaki

令061120  テーバイ @ 新国立劇場 小劇場

令061120  Takesada Matsutani 松谷武判 | 収蔵品展081 抽象の小径 | project N 96: Nakabayashi Arisa ナカバヤシアリサ @ 東京オペラシティアートギャラリー

令061119  MET Opera|Jacques Offenbach: "Les Contes d'Hoffmann" @ 東劇

令061118  森本啓太 Illuminated Solitude @ 銀座蔦屋書店 Atrium

令061118  川瀬巴水 木版画展 @ Artglorieux Gallery of Tokyo

令061115  星山耕太郎 Psychological Collage V: Layout Painting @ roidworksgallery

令061115  生誕130年記念 北川民次展 メキシコから日本へ Kitagawa Tamiji Retrospective: From Mexico to Japan | Transition 難波田龍起・村井正誠・堂本尚郎 かわりゆくもの、かわらないもの What Changes and What Does Not | 女優・高峰秀子特集 | 世田谷区障碍者施設アート展/アトリエ・アウトス展 @ 世田谷美術館|区民ギャラリー

令061114  中島玲菜 個展「冬のほとり」(白墨画) @ Gallery Mumon

令061114  カルメン故郷に帰る @ 東劇

令061113  山下陽光のおもしろ金儲け実験室 @ 生活工房ギャラリー

令061113  そのいのち(脚本・佐藤二朗、演出・堤泰之) @ 世田谷パブリックシアター

令061111  吉永朋希 展 情景描写 @ Gallery b. Tokyo

令061108  日月美輪 (ひづき・みわ) 日本画展 @ Gallery Hana Shimokitazawa

令061107  野見山暁治追悼 野っ原との契約【前期】(1937~1964) @ 練馬区立美術館

令061106  しりあがり寿 個展 十五羅漢s @ art space kimura ASK?

令061106  Toyen : L'Origine de la vérité (トワイヤン 真実の根源) @ ユーロスペース

令061105  Dreams That Money Can Buy (金で買える夢) @ ユーロスペース

令061104  富士フイルムグループ創立90周年記念 企画展 「写楽祭 (しゃらくさい) ! ― 日本の写真集 1950~70年代」 | ロベール・ドアノー写真展 第2部「”永遠の3秒” の原点」 | 吉岡泰良写真展 「Boundary ― クリケットから広がる世界」 @ フジフイルムスクエア

令061104  第11回 日展 @ 国立新美術館

令061030  マックス・エルンスト 放浪と衝動 Max Ernst: Mein Vagabundieren - Meine Unruhe | 謎の巨匠 ルネ・マグリット Rene Magritte, le maitre du Mystere @ ユーロスペース

令061029  ナミビアの砂漠 @ Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下

令061028  Kinds of Kindness 憐みの3章 @ TOHOシネマズ日比谷

令061025  はり絵画家 内田正泰「四季の詩」 @ Gallery Hana Shimokitazawa

令061025  ピローマン @ 新国立劇場 小劇場

令061024  草木人間(西湖畔に生きる) @ Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下

令061022  Terence Conran: Making Modern Britain @ 東京ステーションギャラリー

令061022  たまゆらのともしび展(清田範男ほか) @ ギャラリーうえすと

令061021  Lauren Gunderson: "Silent Sky"(朝海ひかる、高橋由美子、保坂知寿、竹下景子ほか) @ 俳優座劇場

令061020  大野泰雄個展 GIGA GIGA @ 不忍画廊

令061020  日本版画協会 第91回版画展 @ 東京都美術館 ロビー階 第1・2・3展示室

令061020  黄土水とその時代 台湾初の洋風彫刻家と20世紀初頭の東京美術学校 @ 東京藝術大学 大学美術館 本館展示室3・4

令061020  藤原信幸退任記念展 ~ガラス造形20年の軌跡~ @ 東京藝術大学 大学美術館 陳列館1・2階

令061018  ピローマン @ 新国立劇場 小劇場

令061017  前田伸子 ガラス絵展「色彩の宝石箱」 @ Gallery Hana Shimokitazawa

令061017  建石修志 個展 「手紙が届く・・・」 @ span art gallery

令061016  安部公房展|21世紀文学の基軸 Kobo Abe Exhibition: An Axis of 21st Century Literature @ 神奈川近代文学館

令061013  Azusa Iida: Spotlight @ MU Gallery

令061013  田島享央 Takaoki Tajima: I Believe in You @ gallery UG Tennoz

令061013  Rhizomatiks Beyond Perception @ Kotaro Nukaga

令061013  Collecting? Connecting? 現代アートでつながる T2 Collection @ What Museum

令061013  Meet Your Art Festival (MYAF) 2024 "New Era" @ Tennoz Canal Area

令061012  鈴木和道 油彩画展「寛やかな小景 3rd in Hana」 @ Gallery Hana Shimokitazawa

令061010  台風23号(赤堀雅秋・作) @ Theater Milano-Za

令061009  Broadway HD | Ernest Shackleton Loves Me(アーネストに恋して) @ 東劇

令061007  icon Contemporary Photography 2024: 池谷友秀/Hajime Kinoko/PHOTOGRAPHERHAL/大和田良/地蔵ゆかり/塩原真澄/ELTON CHEN・森下葵衣 @ art space kimura ASK?

令061007  灯に佇む(加藤健一事務所、堤泰之・演出) @ 紀伊國屋ホール

令061004  前澤妙子 ”宇宙少年少女 Anti Gravity” @ Gallery s + arts

令061004  田名網敬一 記憶の冒険 Keiichi Tanaami: Adventures in Memory @ 国立新美術館 企画展示室1E

令061004  井澤由花子 Move | 尾関立子 とある場所 @ Gallery Tsubaki

令061003  田中鈴花 個展 オーバーラップ、オーバーライド @ Gallery b. Tokyo

令061002  Nerhol 展 水平線を捲る Turning the Leaves of Horizons @ 千葉市美術館

令061001  TOPコレクション 見ることの重奏 The Resonance of Seeing @ 東京都写真美術館 3F

令061001  松本路子 監督 Viva Niki:タロット・ガーデンへの道 The Spirit of Niki de Saint Phalle @ 東京都写真美術館 1Fホール

令060928  安原 優 展 @ Gallery Artone

令060928  逆柱いみり個展「走らない自動車 歩けないロボ」 @ ビリケンギャラリー

令060928  阿部愼藏 油彩画展 @ 新生堂

令060928  鈴木琢未 個展「時が降る」 @ Gallery Mumon

令060924  MET Live | Giuseppe Verdi: "Ernani" @ 東劇

令060922  MET Live | Charles Gounod: "Faust" @ 東劇

令060920  池田実穂 木版画展「モノローグ」 @ Gallery Hana Shimokitazawa

令060919  池田萌々恵 展 1/n(エヌブンノイチ) @ Gallery b. Tokyo

令060918  MET Live | Daniel Catán: "Florencia en el Amazonas" @ 東劇

令060917  MET Live | Vincenzo Bellini: "La sonnambula" @ 東劇

令060916  高田賢三 夢をかける Takada Kenzo: Chasing Dreams | 収蔵品展080 となりの不可思議 | project N 95 田口 薫 @ 東京オペラシティアートギャラリー

令060913  中川幸夫ガラス作品展 @ Galerie Tokyo Humanite

令060913  李佳遠 展 Ship of Fools @ Gallery b. Tokyo


読 ん だ:

令070203  財務省と大新聞が隠す本当は世界一の日本経済      (講談社+α新書、平成28年刊)    上念 司 著
(「世界一」は対外純資産の額。ぼくの独り言だが、対外純資産が No.1 というのは、国内で有効なイノヴェーションを起こすための大規模投資をする余地に乏しい裏返しでもあるのだが。|日本国家の貸借対照表を見るとき、日銀の資産がじつは日本政府の資産として勘定されるべきものであることを見落とすなという指摘は貴重。いっぽう、発行銀行券は「日銀の負債」となる由!|名目GDPが1%増えると税収は3%以上増える(税収弾性値)。)

令070202  フランス語解釈法[新装復刊]      (白水社、令和6年刊、原著 昭和32年刊)    伊吹武彦 編
(名著。自己流でフランス語をかじってきたぼくが、ちゃんと難文に向き合うための基礎作りにようやく着手できた。英語でいえば難関大学入試の長文解釈のための参考書のようなものだ。これで本格文学作品にも取り組めそうだ。それにしても短い引用を読むのは文脈が分からないから一段と骨が折れるね。)

令070131  青嵐の旅人[下] うつろう朝敵      (毎日新聞出版、令和6年刊)    天童荒太 著
(NHK大河ドラマになるのが待ち遠しい。松山藩による長州藩大島攻めから戊申の大逆転、朝敵への没落、さらに土佐藩の占領を願って戦乱を回避するまで、一巻置くあたわず。医務方のヒスイと救吉、早耳の狂言回しの勇志郎、すがすがしく知勇に優れた青海辰之進 ―― これら若い登場人物たちと、龍馬に桂に高杉と時代の英雄たちの交流も痛快。嫌悪を掻き立ててやまぬ虚無主義者の鷹林雄吾は独特の悪役キャラで、ふさわしい最期を迎える。辰之進をめぐる恋路の結末を、ときのながれに託したところに著者の心優しさが感じられる。)

令070127  イラク水滸伝      (文藝春秋、令和5年刊)    高野秀行 著
(早くも「今年読むベスト」の予感。イラク南部、大河が交わる手前の広大な湿地帯(アフワール)には水牛とともに古代からの地味な生き方を受け継いだ湿地民がいる。開けっぴろげな心で現地の仲間を作りつつ体当たりで探訪を進める熟年日本人ふたりの貴重な記録。世界的にも前例のないルポであり、現地の水環境が激変しつつある現在では、絶後の作品となるかもしれない。圧制・テロとイスラム戒律の向こうの世界には、人なつこく陽気で行き当たりばったりでもみごとにその場をしのぐイラク人たちがいた。族長舟(タラーデ)を特注したりマーシュアラブ布(アザール)の文化を追究したり。歴史と社会調査の手法にもしっかり目配りした良書。)

令070125  日本語ぽこりぽこり      (小学館文庫、令和5年刊。原著 平成12年刊)    Arthur Binard 著
(表題は漱石が子規に宛てた明治29年の書簡中の句、吹井戸やぽこりぽこりと真桑瓜、より。しかし漱石全集では、ぼこりぼこり。漱石の自筆稿が行方不明なりと。|二千円札の源氏物語絵巻がテキスト切れ切れで惨憺たりと、よくぞ言ったり! 閑かさや岩にしみ入る蟬の声、の JR ポスター英訳が how silent! the cicada's voice soaks into the rocks で、見かねた著者訳は Up here, a stillness ―/the sound of the cicadas/seeps into the crags. |メキシコスペイン語の huarache の語源を日本語の waraji だと主張した箇所は著者の勇み足。本当の語源は Purépecha 語の kwarachi と編集者が注釈を促すべきところ。)

令070125  怪盗乱魔      (新潮社、昭和56年刊)    野田秀樹 著
(ぼくが駒場の学内で観て度肝を抜く演劇の痛快さを知らされた作品。45年以上経ったいま読んでも、おぼろにこんなシーンがあったかなと既視感があるのがうれしい。ことばあそびとナンセンス ―― と言われたものだけれど、カラフルな疾走感こそ野田秀樹の本領だ。≪炬燵を開けると、少年少女の死体の山、百八つ。≫ とか ≪うれし涙をバケツ三杯ほど流す≫≪今度はバケツに五杯ほど泣く。≫ のト書き ―― いちいち演出家をうれし泣きさせるが、入れ子が次々に開くような場面転換のスピーディーさこそ野田秀樹演劇の真骨頂だった。)

令070116  あなたの人生の物語      (早川書房、平成15年刊)    姜 峯 楠(Ted Chiang)著、浅倉久志・公手成幸・嶋田洋一・古沢嘉通 訳
(早くも、今年いちばんの読書ができた気がする。従来考えていた SF の枠にとうてい収まらず、認知パラダイムがひっくり返る。「バビロンの塔」が描く古代のリアリティ。「理解」は、高度な知性が全体像を瞬時に把握しその展開をみごとに予知する能力ととらえる。「あなたの人生の物語」のヘプタポッド文字は西夏文字が生命を得てうごめくかのよう。「七十二文字」はヴィクトリア朝の別宇宙で72字のヘブライ文字の書きつけがゴーレム/オートマトンも細胞も動かす。それはDNAにしてコーディングにしてAI世界のアイロニーとも読める。「地獄とは神の不在なり」は天使や地獄と隣り合わせの異世界がヨブ記の真正版をなす:≪神は公正ではない、優しくない、慈悲深くない。それを理解することが真の信仰に不可欠なのだ。無条件の愛はなにも求めない。たとえ報われることすらなくとも≫。「顔の美醜について」は美醜失認処置の是非をめぐった議論の応酬が秀逸な社会論にして人間論。)

令070112  釣り上げては      (思潮社、平成12年刊)    Arthur Binard 著
(中原中也賞受賞の詩集。行替えありと行替えなしのチョイスが絶品。身辺のできごとや追憶をしっかり踏みしめつつ、絶妙の薬味がある。飛行機事故で不慮の死をとげた父を悼む作品が何篇も。)

令070111  日々の非常口      (朝日新聞社、平成18年刊)    Arthur Binard 著
(朝日新聞2004~06年連載のコラム。「成 人向け雑誌」のア ダルトビデオ評で「期待度、興 奮度、露 出度、満足度、女優の可憐度」など「度」の多用をおもしろがっていたのが、「エ ッチ度、エ ロ度、淫 ら度、勃 起度抜群」と続き…。日本語はオノマトペが豊かなのに、経済の音は boom, crash, bang, bubble と英語に軍配。|栗原貞子の「生ましめんかな」を久々に読ませていただき、感動した。これ以上の日本語詩はない。英語にも Richard Minear による名訳があり Let us be midwives! と。)

令061209  オードリー・タン 私はこう思考する Thinking Skills       (かんき出版、令和6年刊)    唐 鳳 語り、楊倩蓉 執筆、藤原由希 訳
(何をどうしていけばムリなくムダなく、主体性を消耗させることなく、価値を共に創れるか ―― ここに正面から向き合い続けているオードリー。ひたすらオンラインかメタバースかというとそんなことはなくて、社会問題を解決しようとするならまずはその問題が存在する環境に身を置いてみるべきと、直接体験も重んじる。オードリー一流の逆説は「子供たちを役に立たない人に育てたい」:子供を道具・モノあつかいするのではなく、自分の中から湧き上がる興味のために学ぶよう仕向けるべきだと。人は機械ではないから特定の「用途」を見出す必要はない。|アップルでは、自分に最適の仕事を見つけたら何十年もその仕事を続けるスタイルで「昇進」という概念がないという。ぼくは、そういう仕事場のほうが合ってるな。)

令070106  夜のミッキー・マウス      (新潮社、平成15年刊)    谷川俊太郎 著
(「生」がなまなましく息づき、「世界」がいつしか生き物と同じレベルのいとおしさで現前する。作品「ママ」は、ただ愛らしいだけでなく、遠く遥かまでの現実を見通したまなざしで愛らしく語られる。「なんでもおまんこ」は「風とはもうやってるも同然だよ/…/そよそよそよそようまいんだよさわりかたが/女なんかめじゃねえよお」がいい。「不機嫌な妻」は最後の行で「中絶した子どもが面会に来るのを待っている」。「ちじょう」は「しすべきものたちのおどるつかのまのあれち」。|あとがきに ≪「この詩で何が言いたいのですか」と問いかけられる度に戸惑う。私は詩では何かを言いたくないから、私はただ詩をそこに存在させたいだけだから。不遜を承知で言えば、一輪の野花のように。≫)

令070106  定本 高橋忠治全詩集      (小峰書店、平成25年刊)    高橋忠治 著
(1927年生まれ、97歳でご存命だ。4つの詩集と補遺から成る。小僧の神様のことばと聞いた。他人の空似でなつかしげに声をかけられ、その空似のひとは「どんな人だろうか。会ってみたいなあ」。ストーリーのある長詩も読ませる。死の前に98足の赤い鼻緒の藁草履を編んだ祖母。神様の悪口を言ってしまい「1万年 口をきいてはならぬ」境遇となった亀。信州矢櫃村跡古記録に残る檀 (まゆみ) の木にまつわる村人たちの話。)

令070106  はじめての近現代短歌史      (草思社、令和6年刊)    高良真実 著
(本書そのものは労作だが、読後に感じるのは「短歌」という文学形態の絶対的な限界性と「短歌」形式にぶら下がることで虚栄を満たす人々がこの形式に限界を超えた内容を盛り込もうとして続々と破綻している姿だ。「短歌」形式から一歩踏み出る勇気のない人々の群れは、閉ざされた日本語の四畳半空間に和んでいるだけ。|短歌界を糞だと認識させられたのは、2014年の短歌研究新人賞を受賞した石井僚一氏が、祖父の父に触発されて「父の死」をテーマとしたことに選考委員や他の歌人連中が「倫理的引っ掛かり」を覚えて「騙された」と感情的に反発したというくだり。こいつら、ほんとに、「文学」というものが何なのか、根本的常識がゆがんでいる。ぼくから見て、短歌人らの知のレベルが低すぎて、もはや相手にしてられない。これからは英語詩に耽溺することにしたい。短歌にかかずりあうのは、人生の無駄だ。|それにしても、本書あとがきには恐れ入った。≪文学は基本的に権威主義です。権威性を廃して文学評論は成り立ちません。≫ あぁ、ヤだヤだ。|| 君の眼に見られいるとき私はこまかき水の粒子に還る 安藤美保 1992|あなたは勝つものとおもつてゐましたかと老いたる妻のさびしげにいふ 土岐善麿 1946|出奔せし夫が住みゐるてふ四国目とづれば不思議に美しき島よ 中城ふみ子 1954|かたわらに来てうずくまる餓鬼の髪そらにそよぐをなぜにわが知る 馬場あき子 1977|侵攻はレイプに似つつ八月の涸谷 (ワジ) 越えてきし砂にまみるる 生みし者殺さるるとも限りなく生み落すべく熱し産道 (ヴァギナ) は 黒田三千代 1994|立て膝をゆっくり割ってくちづけるあなたを/いつか産んだ気がする 林あまり 1998|雨だから迎えに来てって言ったのに傘も差さず裸足で来やがって 盛田志保子 2003|手に負えない白馬のような感情がそっちへ駆けていった、すまない 千種創一 2015)

令070103  Writing Poetry And Getting Published      (Teach Yourself Books, Hodder & Stoughton, London 1997)    Matthew Sweeney・John Hartley Williams 著
(大学生のころ、東京に洗滌されて詩が書けなくなったとき、この本が言うように新鮮なことばや表現構成をすぐれた英語詩から学んで脱皮できればよかった。あのときは幼虫からサナギになったところで死んだな。サナギとして栄養をチューチュー吸いに吸うべきだった。本書の39篇の Exercise は「書く」ことを促す絶品のつくり。"Poem beginning with a line by xxx" という英詩を作るとか。|transform and revive the commonplaceness of unlooked at surroundings. | Good poetry is more about questions than answers. Bad poetry spells out the message and leaves nothing for the reader to complete.| imagine being a skeleton on the sea bed. How did you get there? There are countless ways to end up on the sea bed.| abstract emotion is transferred onto a concrete object.| It's not the experience that makes a poem but what the writer does with it, how the writer's imagination transforms it.)

令070103  左右の安全      (集英社、平成19年刊)    Arthur Binard 著
(かつて現代詩を書いたころ お手本は荒川洋治さんで、ぼくなりには ことばに機械油をかけまくって上滑りする快感を楽しんでいたのだけど、あのころアーサー・ビナードさんの詩を手本にできたなら、もっと日常の現実に向き合いながらことばを紡げたはずだ。詩ならではの発見やうめきやユーモアを織り込んでいるから、単なる行替え散文以上のものだ。≪北風に吹かれても帰りは/この疑問符で懐は暖かい≫ ≪ぼくらには、自殺という選択肢はいつでも手を/伸ばせばすぐそこにあったし≫ ≪たまに、でも、月は道に迷ってみたいと思う。//三日月の翌晩に/うっかり満月姿で現れるとか、/自転を少し速めてしまうとか…≫)

令070102  俳句のモダン      (五柳書院、平成14年刊)    仁平 勝 著
(著者51~53歳に『俳句』誌連載のもの。冒頭、秋櫻子の虚子批判から面白い。ホトトギスがひたすら「客観写生」を標榜するのは、初学者が浅薄な主観を露呈するのを防ぐための大衆・凡才教育の一環であり、虚子じしんは無論、俳句が抒情詩にして主観が中心たるべきことを知っているのに決してそれを云わぬと喝破する。日野草城の≪ところてん煙のごとく沈みをり≫≪蚊柱に夕空水のごときかな≫ は、煙を水に沈ませ、空を水に見立てる比喩が不思議なリアリティー。草城の≪源氏名の昔もありぬ衣更≫ が のちに ≪源氏名は何とかいひしころもがへ≫ と改められた。仁平さんは「どうみても改悪」と言うが、ぼくは改作で味わいが深まったと思う。三鬼の≪水枕ガバリと寒い海がある≫は、じつは連作の1句でその前後に≪小脳を冷やし小さき魚をみる≫≪不眠症魚は遠い海にゐる≫があると知ると俄然、ダリのシュルレアリスムの味わいだ。)

令070101  青嵐 (せいらん) の旅人[上]  それぞれの動乱     (毎日新聞出版、令和6年刊)    天童荒太 著
(善玉悪玉のくっきりしたキャラ設定で、小学高学年でも読める幕末時代小説。巻末に登場する沖田総司が現代的。祇園会で愚かな藩士鷹林らが起こす騒動の直前で上巻は終わっている。|ヒスイと救吉が大坂の港で再会した龍馬の言や佳し。「国のため皆のため、こうせい、ああせい、これをしちゃ過ちじゃ、あれをしちゃ裏切りじゃ、なんぞと言うがは、まがい者よ。自分に自信がないきに強い命令を出し、従わんと罰そうとするがじゃ。おのれの力をふるえる場所を、皆が探しゆう。真の過ちは、そういう若い者の居場所を用意できんかった事じゃ」)

令061226  歩きながら考える      (中公新書ラクレ、令和4年刊)    ヤマザキマリ 著
(安部公房『砂の女』を論じているところがおもしろい。≪自由を求めて外に踏み出したつもりが、自分に不要な情報を取り込んでもがき苦しむことにもなる。蟻地獄を愛郷精神と捉えれば作品がもつ象徴性がより深まる。≫作品終盤の女の変わりようにも注目している。|「フランダースの犬」のネロの「煮え切らない態度」。知恵を狡猾に駆使することなく、誰かが自分の絵を認めてくれるのを待っている姿には謙虚さよりも「驕り」すら感じた ― というヤマザキさんにぼくは共感する。)

令061216  動物のいのち The Lives of Animals      (大月書店、平成15年刊)    J.M. Coetzee 著、森祐希子・尾関周二 訳
(メタフィクション形式のアカデミック小説。メタテクスト的フィクションであり、フィクションについてのフィクション。鏡張りのホール。入れ子細工を体現し自らそこに成り立っているフィクション。架空の講演者の架空の講演が、現実とおぼしき論考の応酬につながる。ぼくなら語学論議で同形式の作品をものするところ。|≪たぶん、責任を負わせるために神々を創りだしたんですよ。神が肉を食べることを許してくださる。自分たちの責任じゃない、神の責任だ。自分たちは神々の子にすぎない、というわけ。≫≪私たちにとってもっとも核心的なことは、完璧に統制された社会が実際にどうなってきたかということです。社会が崩壊するか、軍国主義になるか、どちらかではないのでしょうか。≫≪ガリバーは未知の国を探検しに航海に出ます。でも彼は、武装した一団といっしょに上陸してはこないのです。現実にはそのようなことがおこなわれたのに。≫)

令061214  東洋医学はなぜ効くのか  ツボ・鍼灸・漢方薬、西洋医学で見る驚きのメカニズム     (講談社 Blue Backs 令和6年刊)    山本高穂・大野 智 著
(著者のうち大野さんは臨床医にして教授だが、山本さんはNHKの長年にわたる科学番組制作者。ツボとは心身不調を示す反応点でありその治療点でもあり、内臓の病態を原因とした神経性の炎症スポット。5300年前のイタリア北部の冷凍ミイラに、一連のツボの位置に入れ墨があったというから面白い。一連のツボは筋膜などでつながっている。人体とはプラモデルではなく、連鎖の集合体なのだな。)

令061213  天保十二年のシェイクスピア      (書下ろし新潮劇場、昭和48年刊)    井上ひさし 著
(19日に日生劇場で公演を観る。どういう舞台になるか本書でおよその察しはつくが、さて演出家と役者諸氏がどういうワザを繰り出してくるか楽しみ。)

令061209  天才IT大臣オードリー・タンが初めて明かす問題解決の4ステップと15キーワード      (文響社、令和3年刊)    唐鳳・Audrey Tang と 黄亜琪 共著、牧高光里 訳
(他人の意見に左右されないようにするには、異文化活動に割く時間を増やそう。三角測量のようなものだから、少なくとも3つ以上の異なる文化視点を身につけることで、自分の人格に対する理解が深まる。例として、Wikipedia編集作業に関わる、独立系ゲーム制作チームに参加して交流しつつキャラクターやシナリオの作成に貢献する、といったことを挙げる。|「生きる目的を見失った。人は何のために生きているのか」という問いに対する Audrey の回答が異次元だ。≪人が生きるのは、迷うため、迷いにじっくり向き合うため。だからあなたは生きる意義を見出したと言える。迷いに追い込まれたときこそ、人生の本当の意義が姿を見せ始める。≫)

令061209  何もない空間が価値を生む  AI時代の哲学    (文藝春秋、令和4年刊)    唐鳳・Audrey Tang 語り、Iris Chu まとめ
(冒頭に老子の『道徳経』が取り上げられているのでも分かるが、Audrey にとって人間哲学とは老荘であり儒学にあらずか。デジタルデトックスのための彼の解決法は、毎日インターネットから離れてひとりの時間を持つこと。自分と向き合って、コミュニティに左右されない視点を養う。とにかく驚いたのが、自分の人生に長期計画はなく、その日いちにちの計画があるだけというくだり。今日学べるものは今日学び、今日作れるものは今日作り、今日中にできなければ先のことは考えない。人生をこのように短い時間軸で考えてきたのだと。)

令061208  美しいソウル 韓モダンの旅      (阪急コミュニケーションズ、平成24年刊)    高恩淑 著
(しっとりした渋さが魅力の韓国モダン。ソウルは北村の嘉会洞、三清洞、付岩洞、仁寺洞、恵化洞で2日ほどゆったり過ごせばいいな。)

令061208  渡辺松男歌集 歩く仏像      (雁書館、平成14年刊)    渡辺松男 著
(昭和30年生れ、40代半ば。おもしろい作品の比率が高いことを評価していたのだが、最後の6ページほどの幼稚で原初的な反軍歌謡が情けない。いったんは、ここにメモする価値もないかと切り捨てたくなったが、いやいや、もうちょっと他の歌集も読んでみるか。|くしゃみをすればまっしぐらに飛びてゆくものあり一休禅師はいま月の裏|にんげんを生みだすあそびしてもみん大いなる干潟おおいなる雲|棒切れかなにかのごとき一生も棒切れに長さありてわれ泣く|恋猫の疾走をしてゆきたるは世をぬけいでしごとく風吹く|てきとうなところで天道虫たちと休みましょうと歩く仏像|ゴドーを待てどゴドーは来ずただふっくらと8の寝ているような雲浮く|かたわらに透明なものうずまきて裸木となりてゆくまでのこと)

令061206  笑うマトリョーシカ      (文藝春秋、令和3年刊)    早見和真 著
(雑誌掲載の第3部までと異なり、書下ろし部分の第4部は構想書を転載したような駆け足。テレビドラマが小説をほぼ忠実に再現している。人間の「本当の中身」とは何なのか ― これが主題でありながら、この命題にけっきょく答え切れていないのが、この小説の限界か。)

令061201  そのままでは通じない! カタカナ英語のミス      (ジャパンタイムズ、昭和63年刊)    James H.M. Webb 著
(読了までえらく時間が経ってしまったが、名著。玉に瑕は183~184ページの「トイレ」の記述。)

令061130  失われた時を求めて 10 第6篇 囚われの女Ⅱ     (集英社、平成11年刊)    Marcel Proust 著、鈴木道彦 訳
(これまで岩波文庫で読んでいたが、集英社のこちらの版のほうが字も文章も読みやすいのでシフトした。「私は正義感というものを知らず、そのために道徳的感覚が完全に欠けている」と豪語する「私」の贅沢な一人よがりの病いに共感するところゼロなのでじつに読み進みづらいが、この作品はプルーストの「壮大な思考実験」なのだと思い至ると少し気持ちがラクになった。訳者註に曰く ≪まだ見たことのないもの(土地、人、物)を目ざす欲望と 実際にそれに接したときの幻滅、不在のものを対象とする想像力と 現存するものの知覚とが、本質的に相違すること ― これがプルーストの小説の基本テーマである≫と。「1杯の紅茶」や「古い材木」の匂いから湧き立ち拡がる想像と思考の描写など、第1巻のマドレーヌの香りの描写を延々とひきずるものと言える。アルベルチーヌのことを貴重な藝術作品にして詩の女神、嫉妬を活性化させる源泉ととらえる「私」は、けっきょく彼女と人間としての関係を持てなかったのだろう。「アルベルチーヌとの生活は、嫉妬していないときは退屈なものにすぎず、嫉妬しているときは苦痛そのものに思われた」と余裕をかます「私」だが、アルベルチーヌの出奔で本巻は衝撃的な幕切れとなる。)

令061128  ポーランドの人     (白水社、令和5年刊)    J. M. Coetzee 著、くぼたのぞみ 訳
(原作 The Pole. 老ピアニスト Witold Walczykiewicz が亡くなって以降の第4章からが絶品。やられた!って感じ。|≪不満を抱くのは珍しいことではない。不満というのは、自分の欲しいものがわかっていないことだから。≫ ≪時間がなんだ? 時間など無に等しい。われわれには記憶がある。記憶に時間はない。≫)

令061124  中高生のための文章読本  読む力をつけるノンフィクション選    (筑摩書房、令和4年刊)    澤田英輔・仲島ひとみ・森大徳 編
(全20篇の文章+読書案内、じつによくできた国語教材だ。抽象度の高い文章に徐々になじめる。ものの見方を一段と深く広くするコツもいろいろと。)

令061121  汝、星のごとく     (講談社、令和4年刊)    凪良ゆう 著
(続篇の『星を編む』を先に読んでいたが、それもありだ。明日見菜々は最後の浜辺の花火のシーンで「はじめまして」と登場する。その2年前、30歳の井上暁海が「櫂は手の届かない星のように、いつまでもそこに在り続ける」と言う。そして遠くの櫂に向かって「わたしにとって、愛は優しい形をしていない。どうか元気でいて、幸せでいて、わたし以外を愛さないで、わたしを忘れないで。愛と呪いと祈りは似ている」と。北原先生の「きみが本当になにかを欲したときは、必ずぼくが助けようと決めていました」も、じんとくる。ぼくは自分を北原先生に重ね、菜々と暁海をなっちゃんに重ねている。)

令061116  実践 日本人の英語     (岩波新書、平成25年刊)   Mark Petersen 著
(日本語学習者が口に出す微妙に変な日本語の例を挙げることにより、日本人がおかす英語の誤りのおかしさが感覚的にわかるのがいい。「暑くて、気をつけてください」「頼むので、やってくれ」など。日本人が軽く考えて頻繁に使いがちな so (=therefore) の誤用や、almost を意味する practically など。仮定法を使うか否かが、表出者の感覚のなかの「確率」意識に基づくというのも分かりやすい。学校英語で高校にならないと仮定法を扱わないことを批判しているが、もっともだ。過去形が「現在はそうでない」ことを言外に示すという指摘も良い。I searched my wallet. が「財布の中を探した」で、財布を探すのなら for が必要、そうなんだよね。The kiosk sells newspaper. が「新聞紙を販売している」意味なのも笑える。)

令061116 角川短歌叢書  栗木京子歌集 けむり水晶      (角川書店、平成18年刊)    栗木京子 著
(2004年の栃木兄弟誘拐殺人事件に取材した長歌・反歌「いのち還らず」が圧巻。≪子らのたましひ いつの日か きつと還り来よ すこやかに 朝光 (あさかげ) となり 夕風となり≫ で終わる絶唱だ。その他の、自衛隊イラク派遣やライブドアに取材した短歌は鼻白むが、昆虫嘱目歌に情景鮮烈な佳品多し。|たったいま羽化を終へたるギンヤンマいのちをかけて翅ひろげたり|蟻よりも大きな雨粒地を打ちて蟻の宇宙は満ちあふれたり|シジミ蝶はときをり揚羽蝶よりも高く飛ぶなり蔓薔薇の園|しづかなる九月 仔猫に食はれつつなかなか死なぬバッタ見てをり|電車にて「まいど」と声を掛けきしは関取ほどに太れる息子|デパートに百円ショップ出店せりやがてデパートもここで売られむ)

令061115  All the Beauty in the World: The Metropolitan Museum of Art and Me      (Simon & Schuster, New York 2023)    Patrick Bringley 著
(メトロポリタン美術館のアート案内かと思いきや、NYT 紙の The Metropolitan Diary のような趣きのエッセーである。だが読み終わってみると、著者のアート体験が心に沁みるようにこの胸に残る。|いま folk art を self-taught と言い換える動きがある由だが、著者はこれに異議を唱える。なるほどであって、いかなるアートも他者の教えを受けているのは確か。著者が10年あまりのガードスタッフの仕事を辞める日、あいかわらずの「モナリザ」はどこだ? と質問する来客に遭遇するあたりが、本書らしくて微笑ましい。|Art often derives from those moments when we would wish the world to stand still. Artists help us believe that some things aren't transitory at all but rather remain beautiful, true. . . )

令061109  言語学バーリ・トゥード Round 2  言語版 SASUKE に挑む     (東京大学出版会、令和6年刊)    川添 愛 著
(本書の Round 1 はパラパラ見て放棄したのだが、Round 2 は いけた。「-がち」例の、RG 作「水槽あるある:使わなくなった水槽、雑居ビルの階段の踊り場に置いてありがち♪」とか、「のび太のくせになまいきだぞ!」が存在そのものが全否定される過酷なニュアンスだとか、錦鯉の漫才冒頭の「頭が良くなる本を買ったよ!」「早く読めよ」とか、「不-」「未-」「非-」のうちで「~性」「~的」型の熟語を包み込んで否定できるのは「非-」だけだとか。)

令061107  フィッツジェラルド短編集     (新潮文庫、平成2年刊)   Francis Scott Fitzgerald 著、野崎 孝 訳
(6篇を収める。名訳だが古くなってしまった語彙があり残念(大邸宅の意味での「マンション」や、「お母ちゃま」)。The Ice Palace が直球勝負で好き。The Rich Boy(金持の御曹子)読み応えあり。The Swimmers のサスペンスもいい。)

令061107  歌集 狂はば如何に Quid Si Insanio     (角川書店、令和4年刊)   高橋睦郎 著
(祝 文化勲章受章。岡井隆さんも高橋睦郎さんも、日本文藝の悪しきジャンル分断を軽やかに越えるかたがただ。|情欲の失せてののちを情欲の記憶燻 (いぶ) るに老いはくるしむ|老人は切れやすい なら切れやすい部位断ち切つておけ豫 (あらかじ) め|八十坂に立ち振り返り見遥かす来し方凡そ坂ばかりなる|福音書イエス、マリアの終り述べあはれヨセフの終り言はずも|骨となり水と気となり無に空に風に紛れて失せむとこしなへ|臭ひことに妖しき乳酪よろこぶは大き七つの罪のいづれぞ|草上の裸のひとり浄ければその他着衣の者みな瀆る|無花果の香に愛で癡 (めでし) れて動けざる愚かの蠅の一つかわれも|太后の好みしといふ菜単にふと人肉の臭ひ立たずや|ロボットを産みし胎 (はら) なる人の脳子宮よりげになまなましかも)

令061106  月のうた     (左右社、令和6年刊)
(「月」のある百人一首らしき。多くのライトヴァースな作品がつまらんのは、リアリティ追及をはなから放棄しているからだろう。|まつぶさに眺めてかなし月こそは全 (また) き裸身と思ひいたりぬ 水原紫苑|月を見ながら迷子になった メリーさんの羊を歌うおんなを連れて 穂村 弘|もう十分自分を責めたひとの眼にだけ映り込む新月のひかり 寺井奈緒美)

令061104  私の戦後短歌史     (角川書店、平成21年刊)   岡井 隆 語り、小高 賢 聞き手
(コップのなかでエリートが結社をなしてうごめく時代が、文士の崩壊に遅れつつ変質しつつあったが、俵万智さんで一気に臨界変容したさまを、さらに先んじたところから伴走したのが岡井さん。長生きすれば高橋睦郎さん同様に文化勲章を受章されていたろう。|≪現代詩が衰弱してきているが……日本の古典、あるいは明治以来のさまざまな文語の滋養分を十分利用すれば、あるいは別の道が生まれたかと、つくづく思う。塚本さんの歌を詩のなかへとりこんだら、別の詩ができたかもしれない≫)

令061101  句集 一夜劇 Ichiya-Geki     (ふらんす堂、平成28年刊)   中原道夫 著
(第12句集、62~64歳の作を収める。『銀化』『歴草』に比べ64歳の作は、うがちがわざとらしく感じられ面白みが失せた。この差は何なのか。『一夜劇』は「蝿帳の中より匂ふ一夜劇」の句から来るが、この句が意味不分明。夫婦の一悶着でもあり、2015年11月のパリ同時多発テロの呪われた一夜のことでもあると言うが。|外套の呪縛の重さ脱いで知る|磨ぐまへの米の温さよ良寛忌|棟梁はつひぞ焚火に当たらざる|立錐の余地春雨の傘立に|頑固より依怙地厄介野を焼ける|軌道逸れはたとかぎろひゆく漢|夏近し磁石のSとS不仲|人拒むためのふらここ強く漕ぐ|弔句より慶句むつかし牡丹鱧|亜細亜とふ汗し雑交する臭気|しのび咲くものにも夕立容赦なく|四の五のと言ひて麦めし残さざる|蟷螂は不憫や鎌を置かず寝る|茶巾鮨やぶれて中の春のぞく|雛壇の解体も済み昼の酒)

令061101  What If If Only     (Nick Hern Books, London 2021)   Caryl Churchill 著
(2024年9月10~29日に世田谷パブリックシアターで大東駿介・浅野和之らが演じた「What If If Only ― もしも もしせめて」の原作本。Someone が Future および Present と対話する哲学劇。|付録の Air は、シュルレアリスムにいう自動記述の散文詩のような3篇。)

令061031  中原道夫句集 歴草 so fuki     (角川書店、平成12年刊)   中原道夫 著
(第5句集、47~49歳の作を収める。あとがきに ≪『歴草』とは牛馬などの草を岐けて進む胸前の部分の意。私自身、詩歌の荒野を胸で掻き岐けてゆく意志の点検といふ気分が何処かにあつたかもしれぬ≫と。秋の草歴草 (そふき) を岐くるべく長ず|雪だるままた酔客にからまるる|見番を通らずに来し雪女郎|陶枕に夢の出てゆく穴ふたつ| 「銀化」創刊 色なき風聚め千年待つとせむ|稲架襖狐の閨に一夜貸す|口寄せに呼ばれざる魂雪となる|一兵卒忘れ養蜂箱北へ|腐すなら腐せと椿落ちてける|護摩の火は狼煙そののち花の雲| 高知県滑床渓谷 巌削る水の過酷を涼といふ|氷室より足取りはたと跡切れたる|白玉やさも順 (まつろ) はぬ顔をして|開け閉ては霧にまかさむ岩襖| 飛騨高山・千光寺圓空佛 鉈彫はいまも冬の香放ちたる| 最上川 雪見舟酔ひを手伝ふ揺れもなし|春渚ヴィーナスの腕流れ着く)

令061028  A Number     (Nick Hern Books, London 2002)   Caryl Churchill 著
(2024年9月10~29日に世田谷パブリックシアターで堤真一・瀬戸康史が演じた「A Number ― 数」の原作本。劇名はわたしなら「幾人が」と訳したい。クローンである3人 (みな瀬戸が演じる) が、クローンの既成概念からは遠く、まったく異なる人生観をもって生き、父親 (堤が演じる) と対面する。)

令061027  中原道夫句集 銀化     (花神社、平成10年刊)   中原道夫 著
(俳句界の村上隆の第4句集、45~46歳の作を収める。以前蔵した『中原道夫1008句』は第3句集までなので『銀化』以降は初読だ。諧謔を持ち味にされるが、いま拝読すると詠みっぷりが素直で人情味も深い。動詞が大活躍。|越冬や巣によすがなきもの溜まる|芹の水跨げと言はむばかりなり|きさらぎは摺足ならむ疾く過ぐる|右は奈良左は奈落さくらがり|屏風ならたためるものを春の耶馬|やどかりに遠き殻あり替へにゆく|あめんぼう雲を足蹴とするからは|繭を出てゆかねばならぬ身の上を|手鹽とは甘すぎぬ鹽菊作り|伯耆より新参の雲秋の潮| 悼 坂巻純子 病み抜きて白さざんかと化す骨か|鼎談のひとりは雪を気に仕出す|雪見障子さながら過去を開閉 (あけたて) す|父らしきことを一度も蝌蚪の紐|巌より水落ちやまぬさくらかな|汗の出ぬ蟻なりよくぞ働ける|ほうたるにあぶりださせてみるもよき)

令061026  デプス     (砂子屋書房、平成14年刊)   大辻隆弘 著
(ぼくより1学年下にあたる宮中歌会始選者の、36~41歳のときの寺山修司短歌賞受賞歌集。内容が変化に富み読み通せはするが、後半とくに舌足らずで意味不明のもの多く無邪気な反欧米の作にも鼻白む。前半は情景描写に優れた作あり。|草むらにボールを探す少年を五月の雲の影が轢きゆく|竹竿は音なく水を探りをり少年がまた上流 (かみ) で溺れて|蘭鋳のただれたる頭 (づ) をつくりつつ人智は暗くふかく熟れゆく|「娼妓 (あそびめ) の唇は蜜を滴らし陰府にいざなふ」戒めよ戒めよ|トンネルに入りてひかりの身ぶるひがわが背後へと伝ふときのま|靴先を舐めよ、と告ぐるをとめあらばやすやすとわれは学校を売る|自転車が側溝の蓋をふんでゆく音が聞えるこれは朝のおと|あらかじめ折り目をつけて開きたる子の折り紙のやうに朝がほ|棄私といふ行為はなべて美しき或いはクメール・ルージュの初期も|下腹を濡れた地面にひきずつて瓦礫を嗅いで行く犬は俺)

令061025  The Pillowman     (Faber and Faber, London 2023)   Martin McDonagh 著
(ダークな劇中童話を7つ盛り込んで、本作ならではの入れ子式の世界を作っている。ピローマンの話、自分を Jesus の生れ変りと信じた少女の話、爆走列車の前の少年に紙飛行機を投げる老哲人の話など。新国立で Katurian は成河さん、Michal は木村了さんが演じた。)

令061014  安部公房 消しゴムで書く     (ミネルヴァ日本評伝選、令和6年刊)   鳥羽耕史 著
(労作。公房さんは「文化人」という存在の黄金期を駆け抜けたひとだ。膨大な資料+関係者への取材が裏打ちするが、評伝そのものはファクトの羅列に近い。真知夫人と果林さんの互いへの思いを漱石流で読みたいところだが、2人の感情的接点は唯一1990年7月21日に東海大学病院で鉢合わせになり真知夫人が「何しにきたのよ!」と怒鳴ったところ。果林さんは結局、公房さんの臨終には立ち会わなかった。公房逝去の翌年に大江がノーベル賞を受賞したが、あれは8割がた公房さんへの授賞だったんだなとぼくは改めて思う。国際派のはずの公房さんは外国語が苦手だった由。)

令061010  紙の動物園     (ハヤカワSFシリーズ、平成27年刊)   Ken Liu 著、古沢嘉通 編訳
(全15篇の短篇のうち、5篇を読んだ。「紙の動物園(The Paper Managerie)」「もののあはれ(Mono no Aware)」「結縄(Tying Knots)」「太平洋横断海底トンネル小史(A Brief History of the Trans-Pacific Tunnel)」「良い狩りを(Good Hunting)」。中国界への敬慕は当然として、日本へのリスペクトを感じるもの多し。)

令061006  恐るべき緑      (白水社 Ex Libris 令和6年刊)   Benjamín Labatut 著、松本健二 訳
(『箱男』と相通ずる理系の狂気のフレーバー。シュレーディンガーとヘルヴィッヒ嬢の濃密な日々が圧巻だ。「空間を紙切れのようにくしゃくしゃにし、時間を蠟燭の炎のように吹き消すことのできる」というブラックホールのための形容語が美しい。「これらの複数の波は、それぞれの波が、電子がある状態から別の状態へと飛び移る際に生まれる宇宙のつかの間のきらめきであり、インドラの網の宝石のように枝分かれして無限を埋め尽くしているのではないか」というシュレーディンガーの思いの何と詩的なことか。アールブリュットの史上初の本格的蒐集家として想定されているジャン=バティスト・ヴァセクと、そのアールブリュット蒐集を発展させた物理学者モーリス・ド・ブロイの逸話も美しいが、壮大なフィクションのようだ。)

令060928  箱男      (新潮社、昭和48年刊)   安部公房 著
(石井岳龍 監督、永瀬正敏 主演の映画「箱男」に導かれて40年以上ぶりに読み始めて、衝撃的に思い知らされたのは学生の頃に30頁ちょっとで挫折していたこと。人間ができてないと、この壮大な叙事詩にはついていけない。|入子状あるいは藪の中、まさに≪手掛りが多ければ、真相もその手掛りの数だけ存在して≫いる。|≪人はただ安心するためにニュースを聞いているだけなんだ。どんな大ニュースを聞かされたところで、聞いている人間はちゃんと生きているわけだからな。≫≪白衣の下の裸は、ただの裸以上に、剝き出された感じがする。≫)

令060925  アートコレクター入門  銀座老舗画廊の主人と学ぶ特別教室     (平凡社、令和6年刊)    田中千秋 著
(必要アイテム全般を座談形式でカバーする。企業経営の事業意欲とアートコレクションの欲望は通底する。≪稼ぐ意欲と美術品を集める意欲はすごく近い。ビジネスを成功させるマインドとアートコレクションを成功させるマインドはイコール≫「欲しがりません、勝つまでは」ではなく≪今は「欲しがる」ことを強く肯定する、それが日本人を救うんじゃないかな≫≪戦国時代で言ったら、この戦いに負けて死んだら一族郎党みな殺されてしまう、というリスクを取る。大胆なことをやる人は「すべて失っても構わない」という覚悟でやるから成功するんじゃないでしょうか。≫≪清貧の代表みたいに言われている良寛和尚も松尾芭蕉も熊谷守一も「面白い生き方をしたい」という意味ではすごくよくの強い人≫≪アートコレクションも、人生も、スティーブ・ジョブズのように積極的寄り道がだいじ≫|日本の税制、とくに輸入消費税は海外から悪名高い。|吉田樹保さんが特筆されててうれしい。戦後すぐの東山魁夷は日本画界に革新的インパクトを与え、その「西洋的透視図法+ベタ塗り(平面厚塗り)+風景描写+精神性の強調」が、その後の日本画をよくも悪くも東山魁夷的にした。)

令060922  失われた時を求めて10 囚われの女 Ⅰ       (岩波文庫、平成28年刊)   Marcel Proust 著、吉川一義 訳
(これまで読んだ中で最もつまらない巻。出てくるのはほとんど「わたし」とアルベルチーヌだけで、しかもその「わたし」は彼女のことを「いささかなりとも愛していたわけではない」と公言し、そのゆがんだジェラシーを前に彼女は「犯人のように小心翼々としていた。彼女の話をろくに聞こうとせず、なにかといえば接吻だ。読了を目指す本作でなければ読むのを止めたろう。この巻以降はプルーストの死後の刊行だが、もしプルーストが存命だったならもっと変化に富んだ内容だったのではなかろうか。)

令060920 小池 光 歌集  梨の花      (現代短歌社、令和元年刊)   小池 光 著
(歌人67~70歳の第10歌集。茂吉と鷗外がお好みだ。とっぽさもあり、切り取りかたにハッとする。愛猫のことも。|駅頭に年賀はがきを売るこゑのときに悲愴味を帯ぶることあり|トンネルに出口あることうたがはず時速二百キロ「はやぶさ」突つ込む|電車窓より過ぎ去りしソープランド「太閤」のネオンそれからの闇|マレー半島銀輪部隊が乗りにける自転車はそれからどうなりしかな|林間のひとすぢの道車窓より一瞬みえて人あゆみをり|春の小川ながれてをりて一瞬にわが電車越ゆそのかがやきを|辛うじて立ちてゐざりて水のみに行きたる影も忘れざらめや|小さくて瘦せつぽつちの猫なりき水のむおとのいみにひびきて|捕らへたるすずめ銜へて見せに来つ褒めてやつたらよかりしものを|「短歌の可能性」などといふ発想がむなしくなりて幾年経たる || 老いのにじみ出る本作が象徴するが、これに続く第11歌集『サーベルと燕』は面白くなくて40頁で読むのを止めてしまった。)

令060922  芸術のわるさ コピー、パロディー、キッチュ、悪      (かたばみ書房、令和5年刊)   成相 肇 著
(気になっていた本。装丁の感じに反し、きまじめな評論集だった。この「わるさ」「悪」とは「いかがわしさ」だ。Xerox 器械が世に出たときのアーティスト側の反応は、ChatGPT を前にしたぼくだ。ディスカバー・ジャパンを批判した中平卓馬ってヤなヤツ;リアルな写真としての説得力を持たせようと現実らしさを装う自称リアリズム。いっぽう植田正治が「ほのぼのさを自ら創作しようとした」とは、なるほど。マッド・アマノにたてついた白川義員も、観念上の庶民に媚びた石子順造も、ヤなヤツ。岡本太郎の「森の掟」― ぼくがいちばん好きな岡本太郎作品だが ― これに光琳の「紅白梅図屏風」や桂ゆき や、早瀬龍江を見取っているのはさすが。篠原有司男とギュウちゃん、岡本太郎とタロー、存在の対照的二面性。|岡本太郎の名言:≪僕の考えているのは芸術の無意味性です。意味を否定するところに真の芸術性があり、そこにこそ自由に人が楽しめる場が出てくる。平易さこそ逆に非常に高度なものである≫(『シナリオ』誌1950年5月号の座談会発言))

令060920 小池 光 歌集  時のめぐりに      (本阿弥書店、平成16年刊)   小池 光 著
(歌人57歳、迢空賞受賞の第7歌集。思い切った遊びに好感。|昨晩の夢はかなしも飛行機のなか畳敷きひとびと正座|揺り椅子にすわりたるままこと切れしエミリ・ブロンテ 草の花が床 (ゆか) に|一夜 (いちや) にて水の張られし田おもてにとぶ山鳥のかげはひびきて|芋の茎ことさらあかし颱風は南洋諸島をけふ発 (た) ちしとふ|グラジオラスの花をつぎつぎめぐりゆきひとつの蜂のそれから知らず|経生会を手玉にとれる小泉に溜飲下がることのあやふく|殉教者の「殉」の一字がおもひ出せず殉死とおもひなほすと出たり|特養に行くときまりて飼ひきたるカナリアを空に放てりしとふ|だんだんに山椒太夫に似てきたる男の顔の五十七八 (しっぱち)

令060915  星を編む      (講談社、令和5年刊)   凪良ゆう 著
(『汝、星のごとく』の激しい余韻3篇。うち第1篇の「春に翔ぶ」の明日見菜々に なっちゃんを投影して読んだ。主人公・北原草介が26歳の高校教師の日々から73歳の瀬戸内の年月までを第1篇と第3篇「波を渡る」で描く。第2篇「星を編む」は直接に『汝、星のごとく』の後日談だ。人間関係の多様さに誠実に向き合い、突沸する感情の存在に温かな目を向ける著者・凪良ゆう。やはり女性の内面を描くのが得意のようで、ボーイズラブも主題に据えるのはその延長線上か。)

令060913  破砕      (岩波書店、令和6年刊)   Gu Byeong-mo 著、小山内園子 訳
(60代の爪角の『破果』に先立つ10代の爪角の前史。彼女が男と山に入る経緯は明確に語られないが、これもまた屈折した恋のように思える。)

令060912  辞書になった男 ケンボー先生と山田先生      (文藝春秋、平成26年刊)   佐々木健一 著
(関係者取材に同席しているような臨場感を与えてくれる労作だが、見坊豪紀氏や山田忠雄氏のような基本常識を欠いた人がベストセラー辞書の個人編修をするに至ったのは、つまるところ日本の国語界の人材払底を物語るものだ。これら人士に英米仏の優れた中型・小型辞書に学ぼうという姿勢が、かけらも無いのが嘆かわしい。不適任の人士がのさばるハメになった日本の学術の水準の低さを再認識させられた。)



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